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健康

異様な細胞「がん細胞」その8つの特異的なふるまいとは

文/中村康宏

昨年には小林麻央さんが乳がんで、今年は星野仙一さんが膵がんで亡くなるという悲報が相次ぎましたが、それらの報道からはがんの診断・治療がいかに難しいかが伝わってきたのではないでしょうか。

現に、これほど医療技術が発展した今日においても、日本人の3人に1人はがんで死にます。でも、どうして「がん」というのは、それほど難しくしぶとい病気なのでしょうか?

今回はそんな疑問に答えるべく、意外と知られていないであろう「がんの8つの特徴」について解説します。がんという極めて特異な病気を理解するために、ぜひとも知っておいていただきたいことです。

1:傷ついた細胞の異常増殖に始まる

ある遺伝子に傷がついたときに、自身や他の細胞の異常増殖を誘導する場合があります。これが所謂「がん遺伝子」です。このがん遺伝子によってつくられるタンパク質は、細胞内伝達を異常に強めてしまい、無限に細胞増殖を引き起こすと考えられています。

例えば、がん遺伝子は“EGFR”や“HER2”など、細胞増殖を指示するシグナル伝達のスイッチの構造を変化させ、刺激がなくても細胞増殖するようにしてしまうのです(※1)

2:異常増殖を止めるストッパーを外す

そもそも人体には、細胞分裂の際に異常があると、細胞周期をそこから先へ進ませないチェック機能が備わっています。だから正常細胞であれば、異常が感知されると、「ゲノムの守護者」と呼ばれる“p53”などの「がん抑制遺伝子」を活性化させて、増殖を停止させたり、DNAの損傷を修復したり、異常細胞を死なせたり(アポトーシス)というようなプログラムが発動されます。

しかし、がんの発癌過程においては、いくつかの遺伝子異常や遺伝子機能消失が引き金となり、この「がん抑制遺伝子」が不活性化されてしまいます。だから細胞増殖に歯止めがかからなくなるのです(※2)

3:無限の分裂能力を獲得する

一般的な細胞にはそれぞれ寿命があり、分裂できる回数に限りがあります。これは、染色体の末端に「テロメア」と呼ばれる部分があり、このテロメアがある限界を超えて短くなると細胞分裂がストップするようにプログラムされているのです。

しかしがん細胞では、テロメアの長さを維持する「テロメラーゼ」という酵素の働きが活性化されていて、細胞が無限分裂寿命を獲得し、増殖がとまらなくなっているのです(※3)

4:体の免疫反応を巧みに逃れる

人体は、異常をきたした細胞や異物(細菌やアレルゲン)を発見すると、免疫によって排除しようとします。しかし、がんは「免疫チェックポイント」と呼ばれる分子を活性化することによって、免疫システムの監視から巧妙に逃れ、さらにリンパ球によるがんの攻撃能力を弱めていると考えられます(※4)

「夢の新薬」と呼ばれる一方、患者1人当たり年間3500万円という高額な薬価が問題となっているがん治療薬「オプジーボ」は、この免疫チェックポイントをターゲットにした薬です。

5:自ら新たに血管を作って巨大化する

がんが成長するためには、がん細胞に栄養と酸素を供給し、逆に老廃物・代謝産物を運び出すことが必要です。そのため、がんは2mm程度に成長すると、供給量が不足して酸欠状態になります。すると、がん細胞から“VEGF(血管新生因子)”が放出され、毛細血管が作られます。この新たな血管によって十分な酸素と栄養を得たがんは、一気に大きくなります(※5)

しかし、がん組織の中で作られる血管は形態的・機能的に不十分なため、がんの低酸素状態は改善されず、そのためVEGFの分泌は続き、がんがさらに大きくなる、という悪循環に陥ってしまうのです。

6:エネルギー代謝を変えて栄養を過剰に消費する

低酸素状態ではエネルギー代謝環境が変化するため、がん組織内へは盛んにグルコースが取り込まれます。がん検査で用いられるPET-CTは、この特徴を利用したものです。(しかし、PET検査を用いてもミリ単位の早期がんを発見することは難しいのが現状です。)

また、がん発見のきっかけとなる「普通にご飯を食べていても急に体重が減った」という症状は、がん組織で栄養が過剰に使われているためです(※6)

7:未熟な細胞に変化して遠隔転移・浸潤する

がんを治療する上で、転移や浸潤の程度は、がんの再発や予後を知る上で極めて重要です。その過程は多段階からなり、その病態は極めて複雑ですが、その一つに「上皮間葉転換(EMT)」というものがあります。

がん細胞は増殖の過程で、元の臓器細胞の性格を失って、胎児と同じような未熟な細胞である「間葉系細胞」に変化します。そしてこの間葉系細胞は、強く接着した細胞の間を移動することができるのです。

そのため、がん細胞は血管やリンパ管に侵入し、その流れに乗って他組織に到着・定住することで、遠隔臓器に転移すると考えられています(※7)

8:脅威に対して高いサバイバル能力を発揮する

がん細胞は、周囲の環境に適応して生き延びることに優れています。例えば抗がん剤や放射線治療を受けると、がん細胞は、

①薬剤排出ポンプを活性化させ細胞内の抗がん剤濃度を低下させる、

②薬剤を不活性化させる酵素を増やす、

③細胞のサバイバル機能を強化し抗がん剤や放射線からがん細胞を保護する、

などのメカニズムを発動させます。これらの治療効果が弱まったり、薬が効かなくなることが往々にしてあるのはそのためです(※8)

*  *  *

以上、今回はがん細胞の8つの特徴的なふるまいについて解説しました。

がんについては、そもそも発生の瞬間がわからない、進行の早いがんは検診で早期発見することが難しい、他の部位に浸潤・転移することがある、治療が難しい……、といった困難がありますが、それらは今回ご紹介したような、がん細胞の特異性によってもたらされるのです。

がんは、治療がむずかしく、しぶとい病気です。だからこそ、まずはがんを遠ざける生活習慣を徹底していただきたいと思います。

繰り返しますが、日本人の3人に1人はがんで死にます。他人事と思わずに、日頃から情報収集し、一面的な情報に惑わされないようにしましょう。

【参考文献】
※1.N Engl J Med 2005; 353: 123-32
※2.Oncogene 1995; 10: 835-40
※3.Nature 2003; 426: 194-8
※4.Nat Rev Cancer 2012; 12: 252-64
※5.Drug Delivery System 2012; 27: 34-35
※6.J Clin Invest 2013; 123: 3664-71
※7.Cancer Cell 2011; 20: 576-90
※8.Science. 2005; 307: 1098-1101


文/中村康宏
医師。虎の門中村康宏クリニック院長。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。予防サービスが充実したクリニック等での研修を通して予防医療の最前線を学ぶ。また、米大学院で予防医療の研究に従事。同公衆衛生修士課程修了。帰国後、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」にて院長。未病治療・健康増進のための医療を提供している。

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