写真・文/三崎由美子

年齢を重ねるとともに、体を動かしたり歩くのが、つい億劫になりがちですね。さらに家でデスクワークをしたり読書したり、あるいはクロスワードに熱中しているなど、頭を使っているときは、座っていることがほとんどでしょう。

しかし、長い間座りっぱなしで過ごしていると、血糖のコントロールが悪化し、認知能力の低下につながる恐れがあるとの研究を、西オーストラリア大学の研究グループが、米国アルツハイマー協会の専門誌に発表しました。

一体どういうことなのでしょうか。

■血糖コントロールと脳の健康の関連性

人間の脳の重さは、体重の約2%に過ぎませんが、休息時の消費エネルギーの約20%を必要とします。その主な燃料はグルコース、すなわち血糖です。このエネルギー供給が中断されると、脳細胞を損傷する恐れがあることから、脳細胞への血糖の供給状況が、脳の健康に影響を与える可能性があると推論されているのです。

研究によれば、脳の血糖値が高すぎても低すぎても、痴呆を発症するリスクが増大する可能性があるとのことがわかっています。さらに血糖値の変動の幅が大きくなると、認知機能の低下につながることはすでに観察されています。だからこそ、血糖値の高低の切り替えが重要な意味を持ちます。

つまり、血糖の厳密なコントロールが、脳の健康にとって不可欠な要素となるのです。

■座りっぱなしの生活が引き起こす問題

さらに、座りっぱなしでいる人は、早期死亡の危険性が増す可能性があるとの報告もあります。 そして1日に8時間以上座る生活を送っている人が、その分高まる早期死亡のリスクを相殺するためには、中度から強度の運動を毎日60〜75分間行う必要があると推定されています。

これは相当な運動量です。成人に推奨される運動量の少なくとも2倍に当たり、実践できる人は少ないでしょう。しかし、座りっぱなしで過ごす時間を減らすということなら、比較的容易ですよね。

「Alzheimer’s&Dementia」: 食後に軽く動くと血糖値の高低が最適な範囲内に落ち着く

特に食後に軽く歩くと、血糖のコントロールに良い効果をもたらすことが、多くの研究で実証されています。筋肉が動いて血糖を消費するので、血糖値が上がりすぎたり、下がりすぎたりせず 、最適な血糖値を保つのに役立つからかもしれません。

また、 たとえば午前中に集中して運動するよりも、 1日のうちに何度も軽く動くほうが、たとえ運動量は同じでも、血糖のコントロールにいっそう良い効果を発揮することを示す研究もあります。

ちなみに、世界保健機関(WHO)が2010年に発表した「健康のための身体活動に関する国際勧告」では、65歳以上の年齢層に対し、「週に 150 分の中・強度の有酸素運動または週に 75 分の強度の有酸素運動を行い、1 回につき少なくとも 10 分間以上続ける」という運動量を推奨しています。

■歩くことで脳に血液が送られる

ニューメキシコハイランズ大学の研究によれば、歩くと地面から足裏への衝撃が血管に圧力波を送り、結果として脳に送られる血流が増加することが明らかとなっています。

さらにこの血流は、脳の血糖供給の調節に関連しているので、脳の健康にも影響を与える可能性があります。たとえば、アルツハイマー病患者の脳への血流が低下すると、 脳機能の喪失を加速させることが知られています。

■まずは座って過ごす時間を減らすこと

科学者にとって、座って過ごすライフスタイルと、脳機能への影響の関連性を突きとめることは難題です。これまでの研究では、座って過ごす時間を減らせば、認知機能の低下を遅らせる傾向は認められますが、改善させるとまでは言えません。

たとえ科学的な結論が出ていなくても、少なくとも座っている時間を減らすことが大切なようです。特に食後に動くのが効果的のようですので、昼食後には軽い散歩をし、夕食後には片付けやお皿洗いに立ち、外出もできるだけクルマではなく徒歩や自転車にしたいものです。

考えてみれば、1日のなかで座ったままでいることを避けられる機会は、いくらでも見つかりそうですね。

【参照リンク】
※ 米国アルツハイマー協会の専門誌「Alzheimer’s&Dementia」
http://www.trci.alzdem.com/article/S2352-8737(17)30025-2/fulltext

※ 世界保健機関(WHO)「健康のための身体活動に関する国際勧告』
http://www.who.int/dietphysicalactivity/factsheet_recommendations/en/

※ 西オーストラリア大学の科学者による解説:「The Conversation」の記事
https://theconversation.com/could-too-much-sitting-be-bad-for-our-brains-79413

写真・文/三崎由美子
通信社パリ勤務、外資系技術開発会社東京勤務を経て、2016年に取材・執筆活動を開始する。欧州と日本を往復しつつ、弓道の修行に打ち込み剣道観戦に情熱を燃やす武道愛好家。

 

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