将来のお金の不安を抱える人がほとんどといっても過言ではないでしょう。また、物価高で生活が苦しくなった、新NISAやiDeCoなど投資を始めてみたものの円安や暴落で資産を減らしてしまった、年金だけではやっていけないので働いている……という人も多いはず。

どうすればお金の不安なく、健やかに楽しく人生の後半を過ごすことができるのか、それがシニア世代の最大の関心事といえます。そんな悩みを解決してくれる一冊が、長野県を平均寿命と健康寿命日本一にし、医療費の安い県に導いた医師の鎌田實さんと、生活実感あふれるアドバイスで人気の経済ジャーナリスト・荻原博子さんの対談を実現させた『お金が貯まる健康習慣』(主婦の友社)です。健康とお金、それぞれのプロのお二人が、年代別に気をつけたい病気の具体策から、介護にかかるお金、実際に老後にかかるお金の考え方などを語り合います。今回は、「メタボとお金の深い関係」についてご紹介します。

文/鎌田實、荻原博子

メタボは認知症のリスクも高める

荻原 糖尿病の医療費は、合併症が多いほど金額が上がります。合併症が3つあると医療費は約2倍になるそうです。しかも糖尿病になると、認知症にもなりやすくなると聞いたんですけれど、本当ですか?

鎌田 そうですよ。血糖値が正常な人に比べて、糖尿病の人は認知症の発症リスクが約2倍に高まることがわかっています。

荻原 2倍! 甘いものが大好きな私は気をつけなくちゃ……。

鎌田 高血圧も認知症のリスクを高めます。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の研究で、最高血圧140mmHg以上、最低血圧90mmHg以上の人は、正常な血圧の人よりも認知症のリスクが49%も高まることがわかったんです。血糖値と血圧は要注意です。

荻原 そうなんですか! 5年前のひどい腰痛の頃には、最高血圧が190まで上がっていたんです。幸い、やせたことで改善しましたが……。

鎌田 改善してよかったですね。日本高血圧学会のガイドラインでは、上は120、下は80を正常血圧にしていますから、それを上回ったら認知症リスクも高まったと考えたほうがいいかもしれません。今後も注意していきましょう。血圧は運動で下げることもできるので、荻原さんにはぜひともやってほしいなあ。

荻原 わかりました。やっぱりメタボっていろんなリスクがあるんですね。

鎌田 スイスのジュネーヴ大学の研究では、中年期の肥満が認知症のリスクを高めていると発表しています。特にBMI30以上の人は要注意です。

荻原 認知症になると、通常の要介護の人よりも介護にかかる費用が増える傾向があるともいわれています。お金の面でも、認知症のリスクは回避したいですね。

不健康は「老後貧乏」の原因になりかねない

鎌田 定年退職後の60代男性のケースがあります。この人は年金暮らしで、少しアルバイトもして、年収は400万円あります。ある日、脳梗塞で倒れてしまい、個室に33日間入院しました。高額療養費制度を使ったのですが、1回の入院で41.4万円の費用がかかっています。

荻原 高額療養費制度を使ったのに、そんなにかかったんですか?

鎌田 医療費の自己負担分は高額療養費制度の上限があるので9.8万円ですんだのですが、差額ベッド代が27.1万円、食費が4.5万円、合わせると月額41.4万円の出費になってしまった。治療費以外の出費があることは覚悟しなくちゃいけません。

荻原 差額ベッド代はかなり高額ですね。医療費の出費が増えると、その分、貯蓄もできなくなりますから、どんどんお金が出ていく悪循環に陥ってしまうんです。健康がいかに大切かを痛感しますね。

鎌田 それにいくら高額療養費制度で上限額が決まっているとはいえ、約9万円という金額はけっして安くはありません。治療が長期化すると、これを毎月払わなくちゃいけないので大変です。

荻原 具合が悪いと自分で料理するのも負担になりますよね。外食が増えたり、買ってきたものですませたり。移動するのもタクシーを使ったりして、本来は使わなくてすむ出費が増えてしまいがちです。

鎌田 だからね、50代、60代は病気にならないために、まずはメタボにならないことです。あとはがん検診をきちんと受けること。とくに子どもがまだ独立していない人は、ちゃんと健康診断やがん検診を受けて、生活習慣病の早期発見・早期治療を心がけてほしい。それがなによりも重要だと思っています。

荻原 いま子どもの学費は、1人あたり1千万円かかるといわれているんですよ。学費がかかる段階で働けなくなって教育ローンのお世話になると、その先の返済が大変になります。子どもの教育費も老後資金も、出どころは同じですから。

鎌田 そのとおり。健康は財産を守ってくれるんです。

【Column】医療にかかるお金について教えてください!

Q.手術や入院にかかる費用が心配です

A.日本は国民皆保険の国。心配しすぎなくて大丈夫!

どんなに健康に気をつけていても、病気やケガから逃げきれるとはかぎりません。「入院費が払えなかったらどうしよう」「抗がん剤治療は長期化するっていうし……」と不安が募り、高額の医療保険に入る人もいるかもしれません。でも、少しお待ちください。日本には世界に誇れる「公的医療保険制度」があるのです。会社員なら会社の「健康保険」、自営業やフリーランスは「国民健康保険」に入っているので医療費は最大3割ですみますし、75歳以上になると後期高齢者医療制度に移り、多くの人は1割負担。さらに1か月の医療費が一定額以上になると、それ以上は払わなくていい「高額療養費制度」もありますし、会社員や公務員であれば、仕事を休んでいる間は「傷病手当金」も給付されます。「民間の医療保険や生命保険に入ったほうが安心」と思うかもしれませんが、健康であれば払い損。多くの場合、貯蓄で対応できる範囲ですから、ご安心を!

*  *  *

お金が貯まる健康習慣
著/鎌田實、荻原博子
主婦の友社 1,650円(税込)

鎌田實(かまた・みのる)
1948年、東京都生まれ。医師。東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院に赴任。「地域包括ケア」の先駆けをつくり、長野県を長寿で医療費の安い地域へと導く(現在、諏訪中央病院名誉院長)。現在は全国各地から招かれて「健康づくり」を行う。2021年、ニューズウィーク日本版「世界に貢献する日本人30人」に選出。2022年、武見記念賞受賞。ベストセラー『がんばらない』(集英社文庫)ほか著書多数。チェルノブイリ、イラク、ウクライナへの国際医療支援、全国被災地支援にも力を注ぐ。現在、日本チェルノブイリ連帯基金顧問、JIM-NET顧問、一般社団法人 地域包括ケア研究所所長、公益財団法人 風に立つライオン基金評議員ほか。

荻原博子(おぎわら・ひろこ)
1954年、長野県生まれ。経済ジャーナリストとして新聞・雑誌などに執筆するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとして幅広く活躍。難しい経済と複雑なお金の仕組みを生活に即した身近な視点からわかりやすく解説することで定評がある。「中流以上でも破綻する危ない家計」に警鐘を鳴らした著書『隠れ貧困』(朝日新書)はベストセラーに。『知らないと一生バカを見る マイナカードの大問題』(宝島社新書)、『5キロ痩せたら100万円』『65歳からは、お金の心配をやめなさい』(ともにPHP新書)、『年金だけで十分暮らせます』(PHP文庫)など著書多数。

 

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