誰にでも訪れる“老い”。人はいつまでも永遠に生きることはできません。限りある命とどのように向き合うのかは、“老い”を感じ始めると誰もが直面する問題です。

累計12万部を突破した『50過ぎたら、ものは引き算、心は足し算』シリーズの著者、沖幸子さんはちょっとした工夫や、考え方を変えることで、老化現象と仲良く付き合いながらも、心は青春時代を取り戻すことはできると語っています。最新作『初めての“老い”を上手に生きる』では、自らの体験に基づいた「若返り」術を公開。いたずらに“老い”に怯えるのではなく、制約や義務がなくなるシニアライフを豊かに楽しむ生活を提案しています。

今回は『初めての“老い”を上手に生きる』から、老いるということ、そして老いたからこその幸せについてご紹介します。“老い”についての考え方を変えれば、上手に付き合うことができるようになるはずです。

文/沖幸子

老いを考える

気がつけば、いつのまにか、後期高齢者と呼ばれ、老人の仲間入りをしていることに愕然(がくぜん)とします。

肉体的にもいろいろとほころびが出て、“老い”を自覚することも多くなる。
でも、心はまだまだ若く元気でいたいと願いながら、現実もしっかりと見つめていかなくては、と自分に言い聞かせる。
まわりから、“年をとることは、その分経験が増え、できることが広がる”と言われても、なかなかそう簡単にやりたいことやできることがぶら下がっているわけではないのだから。

充実した老後を過ごすにはどうしたらいいのか、多くの老人が夢を抱く。
人生100年時代と言われ、“適当にさよならしたい”と言いつつ、内心では、多くの人がいつまでも元気で長生きしたいと望む。

可能な限り、元気で若々しく健康でいたい。介護など受けたくない、と。

この老人の長寿願望に便乗した健康ビジネスがあふれている。
テレビを付ければ、効くかどうかわからないサプリメントや飲み物を「今ならお得!」「初回無料」「30分以内のお電話なら半額」と暇な老人視聴者の心をくすぐる。

でも、よく考えれば、生物には限りがあり、いつまでも永遠に元気で生き続けられない。
人それぞれ、適当な時期がきたら、それはそれなりに覚悟がいる。

どれだけ努力しても老化は避けられない。人は、生まれた途端、老いへの片道切符を手にしているのですから。
永遠の命を与えてくれるサプリは、魔法の国へでも行かない限り存在しない、夢のまた夢の世界。
だから、いつまでも元気でありたいと心で願っても、それはあり得ないこと。
肉体の衰えは止めようがなく、強く願うほど、やがて来るそのときに、はかなくつらさが倍増する。

商魂たくましい世の中に翻弄されない! 騙されない!
テレビや雑誌の派手なCMに出会うたび、“いじけた老人”に変身することにしている。

何でもない一日を、特別のものにするように願い暮らすこと。
巷(ちまた)にあふれるいかがわしい健康サプリも今日の安心のために飲むためのものであって、明日以降の永遠の命や若さを得るためのものではない。
老いとは、最終ゴールへの“準備と諦観”を携え、明るく軽く“助走する時期”なのです。

人は、生を享(う)けた途端、一日一日、老いへの道をひたすら進んでいく。
“老いる”ということは、人生の最終ゴールが見え始めていると自覚し、やがて来るそのときのために、心の準備を始め、この一瞬の今を充実させるときなのかもしれません。

老人と幸せ

ほとんどの人が、ほどよく幸せに老後を暮らしたいと思う。
老人の幸せとは、何か。
人それぞれにその幸せ観は違うようです。

ただ、老化するということは、行動範囲が狭まり、社会生活への関心が薄れること。
だから、欲を出さず、ほどよく幸せに暮らせばいいのです。
生ある限り、幸せに生き続けるためには、肉体的にそこそこ健康であることです。
もちろん、手術を伴わない軽い病気なら、適当に薬を飲んで、医者の言うことを守り、病気と仲良くすればいい。

身体の衰えに反して、大事なのは、心が豊かであること。
それに、少しは社会の変化に関心を持ち、孤立しない程度に、今の環境に適応できれば十分。

老化現象と仲良くしながら、時々は心が青春時代に戻るのも楽しい。
一億総アンチエイジングに過剰に反応することなく、寿命は運命と受け入れ、淡々とわが道を全うしていく。

高齢者は、ややもすると、残り少ない時間、去り行く人々や身内のつれなさを嘆き悲しみ、“何のために生きているのか”と愚痴りたくなることがある。

沖縄に、100歳に近い老人が、畑仕事をしながら自立し、親切なまわりの人々に囲まれ一見、幸せそうに暮らしている村があるそうです。
都会の孤立した寂しい高齢者から見ると、“まるで楽園”のようでうらやましいような幸せで充実した暮らし。
ところが。
そこに住む老人に聞き取りをすると、“長生きしたいわけではない” “何のために生きているのか”と話すという。
なるほど、どんな環境に暮らしても、老人の憂いや不安は共通するようです。

いつまでも、幸せに浸りたいと願うのは、おとぎ話の世界。
“幸せの青い鳥”は、求めるものではなく、自分自身の心の中に見つけ育てるもの。
人間は何歳になっても、どんな環境でも、満ち足りることなく、良くも悪しくも“考える葦(あし)”なのです。

初めての“老い”を上手に生きる
著/沖幸子
笠間書院 1,760円(税込)

沖 幸子(おき・さちこ)
兵庫県生まれ。生活経済評論家。家事サポートサービス「フラオ グルッペ」代表。大学客員教授(起業論)や経済産業省、厚生労働省などの政府審議会委員も務める。
神戸大学卒業後、ANA、洗剤メーカーを経て、ドイツ、イギリス、オランダで生活マーケティングを学び、グローバルな視点を持つ暮らしのデザイナー・女性起業家として、メディアで活躍。「掃除界のカリスマ」として知られ、家
事や暮らしが楽しくなる数々のエッセイや評論を執筆している。
著書は、『ドイツ流 掃除の賢人』(光文社)、『50 過ぎたら、ものは引き算、心は足し算』(祥伝社)、『60 からは 喜びはかけ算 悲しみは割り算』(世界文化社)、『70 過ぎたら あるがまま、上手に暮らす』(祥伝社)など多数。

 

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