オリックス・リビング社長、森川悦明氏。「グッドタイム リビング センター南」にて撮影。

グッドタイム リビング社長、森川悦明氏。「グッドタイム リビング センター南」にて撮影。

「『老人ホーム』とか『施設』とかいう言葉、使いたくないですよね。楽しいところではなく、仕方なく入るところのイメージ。だから、積極的に入りたいと思う人はあまりいない。私はこの事業を始めるにあたって、最初から一度も老人ホームを作ろうと思ったことはありませんし、今後も老人ホームをつくろうとは思っていません」

そう語り始めたグッドタイム リビングの森川社長。

グッドタイム リビングがつくる有料老人ホーム「グッドタイム リビング」は、確かにこれまでの老人ホームのイメージとはまったく違う。建物内に一歩入ると、そこはホテルのような豪華な空間。天井が高く、ゆったりしたエントランスホールには、品のいい調度品が並び、理美容室も併設されている。

スタッフは、入居者を「ゲスト」、その住まいを「ゲストハウス」と呼び、ケアアテンダントと呼ばれる介護士を中心に、「よくする介護」を実践しているという。

今回は、森川社長が業界に投げかけた、この新しい老人ホームのあり方について、お話を伺ってみた。

ゲストの不自由を支えるだけでなく、できることを増やしていく

———「よくする介護」とは、どのような介護なのですか。

「ゲストのお世話をするだけなら、それは『介助』。『介護』とは、その人がその人らしく生きていくために、よろこびのある暮らしの可能性を広げていくこと。不自由を支えるだけでなく、できることを増やしていく。そして、生きる尊厳を取り戻し、幸せに生きていくための支援をしつづける。それが、私たちが取り組んでいる『よくする介護』です」

「脳梗塞で麻痺が残ってしまった人の身体を元どおりにすることはできなくても、以前できたこと、やりたいことを取り戻していくことはできます。実際、ほぼ寝たきりだったゲストが、歩行器を使って歩けるようになり、一緒に外出できるまでになった例もあります」

——— 具体的には、どのように介護するのでしょうか。

森川社長

森川社長

「例えば、麻痺のある腕を動かせるようになりたいという願いの奥には、以前のように自分で料理がしたいとか、介護してくれる家族に負担をかけたくないといった、その方の生活自体を取り戻したいという希望が隠されています。その生活を取り戻すことで、家族や友人と一緒に楽しい時間を過ごしたいという夢も、その先にあるでしょう。

腕を動かせるようになるという身体機能の回復だけを目指すのではなく、たとえ元のように腕を動かすことができなくても、ほかの方法で料理を作ったり、自分でトイレに行ける方法を見つけることが、とても重要です。麻痺のない方の腕を使える環境を整えたり、補助器具を使って安定した歩行ができるようにして、その方ができる活動の領域を広めて生活を取り戻すことで、希望や夢が叶うこともあるのです。あらゆる方向から『どうしたらその人のできる範囲をひろげられるか』などの解決方法を探り出し、ゲストの方と共に取り組んでいく。1つ達成できたら、次の目標を設定し、ゲストが少しずつ、よろこびのある日常を取り戻していくことが『よくする介護』なのです」

——— そうした介護を実践していくには、専門知識が必要では?

「専門家の中でも、ゲストの最も身近で日々寄り添い、日常生活をサポートしていく中で、その方が今やれている『している活動』を知り、次に何をすればその方の活動能力である『できる活動』を広げられるかを考え、行動することができるのが介護職です。

ですから、介護職が、そのゲストを最もよく知る専門家でなくてはなりません。弊社では『ケアアテンダント』と呼んで、ドクターや理学療法士などと同じプロフェッショナルな存在と位置づけています。

この『ケアアテンダント』が中心となって、ゲストの方の夢を実現していくためのアセスメントをして、その他の専門家とともにプログラムをつくり『よくする介護』を実践していきます」

手探りの介護から、成功率の高い介護へ

——— 実際にケアアテンダントとして仕事をしていらっしゃる吉田主任に伺います。『よくする介護』のためにどのようなことを心がけていますか。

ケアアテンダントの吉田主任

「以前は、私も介護士の仕事は、ゲストをお世話することが全てだと思っていました。今は、ケアを通してゲストの方の日常生活をよく見ること、ゲストの方の性格から身体の動きのクセまでをよく知り、『している活動』と『できる活動』を把握することを心がけています。

本当はできるのに、自分も周りもできないと決めつけたり、あきらめたりすることによって、活動を抑制してしまう。これでは、生活機能が下がりつづけてしまい、その方の尊厳を奪っていく要因にもなりかねません。

これまでも、思わぬことからゲストの方ができなかったことができるようになる姿を目にしてきましたが、そうした成功体験を再現するのは難しいものでした。

しかし、これを理論的に学ぶことによって、手探りの介護から、成功率の高い介護へ変えていくことが可能だということを知り、ゲストの方と一緒によろこびを体験できる日々に変わっていきました」

———具体的に、ゲストと接する中で、ゲストの大きな変化を感じたことはありますか。

「そうですね、いろいろあるのですが、例えばこんなことがありました。認知症の周辺症状としてうつ症状がでてきたため、活動量が極端に落ち、車イスを使うようになってしまったゲストがいました。認知症の方は、本当は何をしたいのかつかみにくいところがあったり、無理矢理に訓練してもらうのも難しい。

そこで、以前はおしゃれが好きだったことを知り、ご家族にも協力していただき、お部屋の洗面台にイスを置き、化粧品を並べ、使いやすいように番号を振り、きれいなお洋服を出しておいたりしたところ、しばらくするとお化粧をしてレストランに歩いてこられるようになりました。お友達と会いたいから出かけたいと言われ、スタッフ一同目を丸くしたこともありました」

森川社長とケアアテンダントの吉田さん。居室が並ぶフロアごとに設置されている共有スペース、 ご家族やゲストの皆さまが自由に使える広々としたリビングダイニングにて。

森川社長とケアアテンダントの吉田主任。居室が並ぶフロアごとに設置されている共有スペース、ご家族やゲストの皆さまが自由に使える広々としたリビングダイニングにて。

制度に縛られないオーダーメイドの介護をするために、あえて住宅型に

———改めて森川社長に伺いますが、これだけの介護を実践しながら、介護付だけではなく、住宅型の有料老人ホームも運営しているのには理由があるのでしょうか。

「介護付老人ホームがいい介護を提供していると思われていますが、本当にそうでしょうか?

お世話型の一律の介護ではなく、ご入居者一人ひとり違う心に寄り添った介護をするには、ある意味オーダーメイドの介護でなくてはならないと私は考えます。住宅型というと、介護がついていない老人ホームと思われますが、実はそうではない。制度に縛られないオーダーメイドの介護をするために、「介護付き」という類型に囚われないようにしているのです。初めはなかなか理解してもらえませんでしたが、少しずつ世の中に理解されてきたのはうれしいことです」

———最後に、こんな贅沢な空間にするのは、なぜですか。

「老人ホームは、住宅としても誰もが住みたいと思う場所であるべきだと思います。さらに、高齢期を迎えた方々こそ、心を豊かにしてくれる、誇りの持てる住まいに暮らしてほしいと思います。それが高齢者の方の尊厳を守り、前向きに生きる力につながるはずですから。

それでも、あくまで日常生活を送るための住まいであって、ホテルとは違います。生活の場をできるだけ豊かに、と考えながら開発、設計をしています。人生のご褒美になる住まい。そんな高齢期の住まいをこれからの老人ホームにしていきたい、と私は考えています」

これからの介護は、人にしかできないことを丁寧にしていくために、理論やテクノロジーを活用していくことも必要。運営する全てのゲストハウスに移乗リフトを導入したり、ITを活用したり、ロボット介護機器の開発・導入にも積極的に取り組んでいるという森川社長。

人生100年時代を迎える超高齢化社会の中で、高齢者がもっと幸せになることが、日本の未来を明るくすることにつながるのかもしれない。

●森川 悦明(もりかわ えつあき)。ハウスメーカー、デベロッパーを経て、2000年にオリックス株式会社に入社。2003年、オリックス不動産株式会社にて、それまでの介護施設の概念を超えた高齢者住宅を大型複合開発に取り入れたプロジェクトを担当し、コミュニティに介護サービスの新しい付加価値を実現。2005年には、開発した高齢者住宅を自ら運営するオリックス・リビング株式会社を設立し、社長就任。2010年、施設類型の枠を超えて業界の地位向上を目指す〝高齢者住宅経営者連絡協議会”発足とともに会長就任(現在)。

 

高齢者向け住宅や老人ホームはスペックだけ見てもわからない。
実際に提供されるサービスやスタッフの内容と質をしっかり見極めて選ぶことが重要だ。
グッドタイム リビングでは、「よくする介護見学会」を予約制で開催している。ぜひ一度見に行ってみることをお勧めする。
「グッドタイム リビング」は、関東圏で14ゲストハウス、関西圏で15ゲストハウス。詳細はグッドタイムリビングのホームページで。
問い合わせ先/グッドタイムリビング株式会社
(フリーダイヤル)0120-123-759(毎週水曜・元日を除く)

https://www.orixliving.jp/

取材・文/弥永祐子 撮影/澁谷高晴

 

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