毎日、どれだけスマホの画面を見ていますか?

スマホを使いすぎると目に悪い。誰もがそう思っているはずです。視力が落ちる、目が疲れる、乾く、かすむといったことは容易に想像がつき、実際に経験している人も多いでしょう。

しかし実は、スマホの本当の怖さは別にあります。たとえ視力検査の数字が悪くなくても、眼球運動が鈍くなる、視野が狭まる、内斜視の原因になる、依存性を高めるなどの悪影響が生じることがあるのです。

そんな新現代病といえる「スマホアイ」の恐ろしさを眼科医の松岡俊行さんが新著『スマホアイ 眼科専門医が教える目と脳と体を守る方法』(アスコム)にて解説しています。今回は、スマホアイが生じる原因や弊害についてご紹介します。1日2時間以上、スマホを見る人は必読です!

文/松岡俊行

目の機能に異常が起きる「スマホアイ」。スマホを手放せないからこそ要注意!

あなたはスマホが手元からなくなったら何日耐えられますか? ある調査では、1日も耐えられないと答えた人は、30代以下の女性で50%を超えたそうです。

言うまでもなく、スマートフォン(スマホ)の登場は、私たちのライフスタイルを大きく変えました。今や電話やメール、カメラ撮影に加えて動画や音楽の視聴にSNSやチャット、さらには読書やゲーム、調べ物に買い物などなど、さまざまなことが、どこにいてもたった1台の端末で行なえます。

スマホに頼れば頼るほど、私たちの「目」はストレスを受け続けることになります。たとえばみなさんが、スマホを使用しているとき、目と端末の距離がどれぐらいあるか、ぱっとは答えられない人がほとんどではないでしょうか? 私たちがスマホを利用する際、目と端末との距離はおよそ20センチほどしか離れていません。さらに、1時間以上そのような状態でいることも珍しくはありませんよね。もちろん、この状態は目にとって決していいことではありません。

人類の目は、長い時間をかけて環境に適応し、進化を遂げてきました。生物の変化はそう簡単には進むものではありませんし、何千年単位、何万年単位といった気の遠くなるような歳月が必要となります。一方で、スマホが世の中に登場してからまだ20年も経っていません。私たちの目がスマホを見るのに適したつくりにはなっていないのは言うまでもないことです。それにもかかわらず、20センチほど先の小さな画面に、しかも長時間ピントを合わせ続ける人がなんと多いことか。

この目にとってストレスフルな状況になんとか適応しようともがいた結果、誕生するのが「スマホアイ」です。この言葉は私が定義した言葉で、要するに、近くの狭い範囲を見ることに慣れた「スマホ用の目」のことで、具体的には次のような特徴があります。

● 眼球運動が鈍い
● 視野が狭い
● 両眼視機能が弱い

そしてスマホアイには、それによって引き起こされるさまざまな症状があります。

● 調節緊張/調整麻痺(スマホ老眼)
● 急性内斜視
● 近視の進行
● 眼精疲労(疲れ、かすみ、充血、頭痛、肩こりなど)
● ドライアイ

さらに、睡眠不足や自律神経失調、スマホ依存など間接的に与える影響まで含めると、もっと広範囲に及びます。

歩きスマホで人にぶつかりそうになる本当の理由

駅や街中で「歩きスマホ」をしている人をよく見かけます。みなさんも、よくないとわかっていながら、仕事でどうしてもスマホを見なければいけないなど、ついやってしまうことがありますよね。なかには、スマホでメールやニュースを読みながら歩いていると、突然目の前に人が現れてうっかりぶつかりそうになる……そんな経験がある人もいるのではないでしょうか。

このとき、あなたの目のピントはスマホの小さな画面に合っています。すると周囲が視界に入っていても、実は認識されていないことがあります。単に注意が散漫になるだけでなく、視界に入っても認識できない、つまり周囲が“見えていない状態になるのです。このような視野の狭窄(きょうさく)は「スマホ視野」ともいわれ、愛知工科大学の小塚一宏名誉教授によれば「画面を凝視している状態では視野の95%が失われる」という実験結果もあるそうです。

そもそも、ものが「見える」のは、目に映ったものを脳が認識しているからです。ところが視界の中心にある対象物だけを凝視していると、脳は「周りは見なくていい」と判断します。周辺視野の視細胞は機能していて、脳へ刺激が伝わっているにもかかわらず、認識しなくなるのです。

怖いのは、ずっとスマホの画面ばかり見ていると中心ばかりに注意が向けられ、周辺視野の刺激を感じないように脳が調教されてしまうこと。幼いころからスマホの画面を凝視することに慣れてしまっている場合は、周辺視野に注意を向けるための経験が不足したまま成長していくことになります。その結果、本来は広いはずの視野が狭まり、視界の中心しか認識できないスマホ仕様の目になってしまうのです。

両目がうまく使えなくなる!?

遊園地のアトラクションなどにある、3Dで飛び出してくる映像を見たことはあるでしょうか。とっても臨場感があって楽しいアトラクションですが、実は飛び出して見える人と、そうでない人がいます。これは、目の「両眼視機能」がうまく働いているかどうかの違いです。

両眼視機能とは、同時に両目でものを見る能力のことで、水中から陸上へ上がった生き物のなかで、人をはじめとした限られた動物だけが身につけています。この機能は同時視、融像、立体視に分類されます。左右の目で捉えた情報を脳内で合わせることで、立体感のある映像として認識することができ、遠近感もつかめるわけです。

なんだか難しくてピンとこない人は、もし近くにゴミ箱があったら、丸めた紙を投げ入れてみてください。最初は両目で見て、次に片目をつむってやってみると、片目のときは遠近感がうまくつかめないのがわかると思います。もしくは、その辺にあるコップやペットボトルを片目でつかもうとすると、ちょっと距離感に不安がありませんか? それは両眼視機能が働いていないからです。この両眼視機能が、スマホの使いすぎによってうまく働かなくなる危険があります。

もし、あなたが20センチや15センチなど、非常に近い距離でずっとスマホを見ているとしたら危険です。両目で近くを凝視すると黒目が中央に寄った「寄り目」の状態で固定されます。それが長時間続くと黒目が内側に寄って戻らない急性内斜視になることがあります。両眼視機能は、視力に左右差がある場合や、内斜視などで目の位置や眼球運動に異常があるとうまく働きません。

急性内斜視は一時的なものですが、スマホの使いすぎで内斜視が続くと片目で見るくせがついたりしますし、寝転がってスマホを使うと左右の視力に差ができたりします。こうしたことが結果的に両眼視機能に悪影響を及ぼすのです。

また、両眼視機能は、生後さまざまな経験を積むなかで磨かれていきます。子どものころからスマホばかり見ていると、疲れるうえに経験も不足して両眼視機能が十分に育まれない危険もあるでしょう。スマホの画面は平面ですから、立体視ができなくても文章を読んだり漫画を読んだり動画を見たりできますよね。そういう平面環境に合った目になってしまうともいえます。

*  *  *

スマホアイ 眼科専門医が教える目と脳と体を守る方法
著/松岡俊行
アスコム 1,540円

松岡俊行(まつおか・としゆき)
医学博士。眼科専門医。
大阪市出身。幼少より左右の視力に差があること(不同視)で目に興味を持つ。灘中学校・高等学校を経て、1992年京都大学医学部医学科卒。眼科研修の後、1996年京都大学大学院医学研究科、2001年ロンドン大学UCL客員研究員。京都大学大学院在学中に「Science」に、ロンドン留学中に「Nature」に論文掲載。2008年、京都大学大学院医学研究科准教授。2019年大阪府吹田市に江坂まつおか眼科を開業。2021年医療法人アメミヲヤ設立。2022年「近視の撲滅を目指す Dr.まつおか」YouTubeチャンネルを開設。スマートフォンの普及による子どもの視力低下や、眼球運動、両眼視機能への悪影響などを懸念し「スマホアイ」と称して警鐘を鳴らす。子どもの目を守る眼科医として、寝ている間に専用のコンタクトレンズを装着することで視力回復を図る「オルソケラトロジー」を推進するほか、自宅でできる手軽な視力回復メソッドとして「マジカルフレーズ」を考案。視力の維持・回復だけでなく、視機能を守ることで子どもの健やかな成長を促す活動に注力している。

 

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