文/鈴木拓也

ウェブメディアの「朝日新聞Reライフ.net」が2021年に行ったアンケートによれば、老後の生活不安で上位を占めたのは、健康、お金、孤独に関することであった。

誰しも年をとれば、「病気になったら……」「貯金が尽きたら……」「孤立化したら……」など、不安が尽きないもの。こうした不安とは、どのように折り合いをつけていけばいいのだろうか?

1つの解決策として、「老後をやめる」ことをすすめるのは、順天堂大学医学部の小林弘幸教授だ。

小林教授の言う「老後」とは、「定年後の隠居生活」を指す。イメージとしては、仕事をしておらず、かといって何か打ち込む趣味もなく、ひとり日々を過ごしていく生活だろう。

そうしたライフスタイルと縁を切ることで老後不安は解消できると、小林教授は著書『老後をやめる 自律神経を整えて生涯現役』(朝日新聞出版)で説いている。

一番重要な対策は「運動」

本書で語られるのは、自律神経の老化を抑えることで、定年後も元気に生きる処方箋の数々だ。

自律神経は、呼吸や血圧など体内の諸機能を制御する重要な神経で、交感神経と副交感神経に分かれる。交感神経は何か活動している時に優位になり、逆に副交感神経はリラックス時に優位になる。

加齢に伴い自律神経は老化していくが、それによって働きが低下するのは副交感神経のほうだという。結果として、交感神経ばかりが優位となり、神経性胃炎や更年期障害といった不調となって現れる。俗に「キレる老人」の増加も、自律神経の老化によって感情のコントロールがうまくいかないことが根底にあるそうだ。

60代男性だと、若いときと比べて自律神経の働きは「約45パーセントも低下」していると小林教授は指摘する。

その対策として挙げるのは、「食事・睡眠・運動」の3点セット。なかでも一番重要なのが「運動」とのことで、特にウォーキングがいいそうだ。

毎日20~30分くらい、近所をゆっくりマイペースで歩くだけでかまいません。
ウォーキングは全身の血流をよくしますし、外の空気を吸うことでリラックスできます。何よりお金もかからないのですから、やらない手はありません(本書73pより)

多忙で、そのための時間が惜しいという人でも、通勤時に少し遠回りして駅まで歩いてみるのでもいい。ちょっとした隙間時間を生かして「ついでウォーキング」を積み重ねことが、大事だとも。また、ウォーキング以外にも、「自分がワクワク」して続けられそうな運動・スポーツであれば、なんにでもトライしてみることもすすめられている。

自分の顔を鏡で見る

自律神経のためにも、朝は漫然と過ごさないことが肝心。

小林教授は、「朝をどう過ごすかで1日が決まる」と述べており、起きたら部屋の空気を入れ換え、思いきり伸びをするといった健康習慣をルーティン化するようアドバイスする。

その1つに「自分の顔をじっくり鏡で見る」というのもあって、以下のように説明されている。

ヒゲを伸ばしっぱなし、髪はボサボサ、鼻毛も出ている……。そんな状態では、どこかに出かける気力もわきません。家の中でダラダラ、ゴロゴロする生活になってしまいます。
人の目を気にしなくなったら、それが老後の始まりです。
みなさんは最近、自分の顔を鏡で見ていますか?(本書109pより)

鏡を見れば、いやおうなく身だしなみを気遣うようになるし、顔の表情にも気を配るようになる。ふだん鏡を見ることの少ない男性なら、なおさら身につけたい習慣だ。

さらに、家の中では朝から「きちんとした服」を着ておく。かしこまった服装にする必要はないが、そのまま電車に乗って、どこかで買い物ができるぐらいの身なりにはしておきたい。服の色は、交感神経を活性化する明るめの色とし、靴もみがいてきれいにしておく。

そうしておけば、外出するつもりはなくても、どこかに出かけたいという気持ちもわき、まさに「一石三鳥」の効果が期待できる。

免許返納を何かを始めるチャンスと考える

小林教授は、ゴロゴロ生活の脱却とともに、人から「求められて生きる」ことも目指すよう説く。

現役時代は、職場では周囲の仲間から、家庭では家族から求められていたが、定年後は何もしないとそういう機会がなくなってしまう。それはなにも賃労働である必要はなく、町内会の活動や孫の世話など、ささやかなことでまったくかまわないという。

また、免許返納のような一見してネガティブな出来事も、新しいことを始めるチャンスと捉えることもできる。今までは近い場所でも車を使っていたのが、歩いて行ってみることで、「こんなお店があったのか」など新たな発見もあるし、健康にもいい。

シニアになれば、できなくなることはどうしても増えてくる。しかし、それで落ち込むのではなく、新しい体験をする機会が開けたと気持ちを転換することで、老後の不安も軽いものとなるはずだ。

* * *

本書で語られる自律神経の視点からのアドバイスは、どれも明快で実践しやすいものばかり。老後の不安に悩んでいるのなら、簡単にできるものからトライしてみるといいだろう。

【今日の健康に良い1冊】
『老後をやめる 自律神経を整えて生涯現役』

小林弘幸著
定価924円
朝日新聞出版

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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