文/小林弘幸

「人生100年時代」に向け、ビジネスパーソンの健康への関心が急速に高まっています。しかし、医療や健康に関する情報は分かりづらいもの。例えば、朝食を食べる、食べない。炭水化物を抜く、抜かない。まったく正反対の行動にもかかわらず、どちらも医者たちが正解を主張し合っています。そのうえ、なかなか医者に相談できない多忙な人は、どうしたらいいのでしょうか? 働き盛りのビジネスパーソンから寄せられた相談に対する「小林式処方箋」は、誰もが簡単に実行できるものばかり。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説します。

精神的な疲労が溜まったら、

A.運動で解消

B.食事で解消

不調の原因は腸内環境にもある

現代社会は、ストレスだらけです。とりわけビジネスパーソンは精神的疲労が蓄積し、疲労困憊している人は少なくないでしょう。

では、その疲労をどう取り除くか。スポーツで汗をかく。カラオケで歌いまくる。飲んで騒ぐ。人それぞれ、いろいろなストレス発散の仕方があると思いますが、実際、そのことで精神的疲労がどれほど軽減されたか、追跡している人はいるでしょうか。結論から言えば、「実はそれほどでも……」という人が多いのです。

なぜなら、メンタルヘルスの不調は「腸内環境」に原因があることが多いのです。

私の便秘外来には、毎日多くの患者さんがやってきます。こうした患者さんの中には、うつ病を患っている方や、メンタルヘルスの不調を抱えている方が少なからずいます。

こうした患者さんの便秘や下痢が改善すると、実は鬱症状やメンタルヘルスの不調がなくなる場合が多いのです。

なぜか。それは腸管が血液の質を決める働きを担っているからです。栄養を含んだ良い血液が送り出されているならいいのですが、腐敗物質や毒素を含んだ悪い血液が全身に回っている場合は、当然、体のあちこちで問題が出てきます。

太りやすくなる、全身の疲労感、老化なども、腸内環境の悪化がひとつの原因です。

さらに、この時、血液中の赤血球も変形し、酸素の運搬がうまくいっていないことがわかっています。結果、全身の細胞は、酸素不足の状態に陥ります。やがて細胞の生命力が失われていきます。

脳も血流不足、酸素不足に陥っていますので、働きが低下します。これが、マイナス思考を生み出している要因だと考えられるのです。

ということは、換言すれば、「腸内環境を整えれば、メンタルヘルスも整う」ということになります。

発酵食品はなぜ体にいいのか?

では、日頃の食生活で無理なく腸内環境を整えるには?

それが「発酵食品」と「食物繊維」です。その理由をお教えしましょう。

私たちの腸内には、1.5キロもの腸内細菌が住んでいます。そのうち、消化吸収を助けてくれたり、免疫機能を高めたりしてくれるのが「善玉菌」です。一方、毒素を発生させたり、病原菌を増殖させたり、腸の炎症を引き起こしたり、といった悪さをするのが「悪玉菌」です。つまり、腸内環境を整えるには、善玉菌を増やし、悪玉菌を減らすように心がければいいのです。

ただし、悪玉菌をゼロにすることはできません。

ここでも自律神経同様、バランスが重要になってきます。腸内環境が整った腸を調べると、一様に、善玉菌2割、悪玉菌1割、日和見菌7割というバランスです。

「日和見菌」とは、腸の状態によって、善にも悪にも転んでしまう菌で、例えばストレス、不規則な食事、睡眠不足などによって悪玉菌に転じてしまうと、腸内環境が途端に悪い状態になります。

腸内環境は、自律神経と密接に結びついていますので、これが悪化すれば、自律神経のバランスも崩れ、仕事のパフォーマンスも落ちてしまいます。

ではどうしたら、日和見菌を善玉菌に変えることができるのか。

それが「発酵食品」と「食物繊維」というわけです。

いちばん手っ取り早いのは、発酵食品の代表格、ヨーグルトを食べることです。腸内で善玉菌に変わってくれる乳酸菌やビフィズス菌などの生菌が入ったヨーグルトを、朝食の時にプラスするだけで、腸内環境は整います。

さらに、ヨーグルトの相性チェックをしてみることもお勧めします。

やり方は難しくありません。1日100グラム、2週間から4週間、同じ種類のヨーグルトを食べ続けます。この時、便がバナナ状になった、肌の色が明るくなった、疲れにくくなった、良い睡眠がとれるようになった、などの変化が見られるようであれば、それはあなたに合ったヨーグルトだという証拠です。

毎日ヨーグルトを食べていると、途中で「お腹が張る」という症状が出ることがあります。しかし心配には及びません。これは、腸内環境が変化してきているサインです。症状は3日から4日で治まります。ただし、以後もその症状が継続するようならば、それは「合わない」可能性が高いと考えられます。すぐに別のヨーグルトに替えてみてください。

私たちに身近な発酵食品は、ヨーグルトだけではありません。

例えば和食の中には、発酵食品が多くあります。納豆、みそ、醤油、梅干し、ぬか漬けや柴漬けなどの漬物。これらも、発酵食品の優等生です。和食以外ですと、ナンプラーやキムチ、チーズなども発酵食品ですね。これら発酵食品を、意識してとるようにするだけで、腸内環境は以前よりも改善されます。

腸をきれいにする食物繊維の作用

もうひとつは、「食物繊維」です。

なぜ食物繊維が、腸にいいかといえば、人間の消化酵素で消化されにくいので、そのまま排出されるのです。その際、腸の中のさまざまな老廃物、カスをくっつけながら、便の主材料になって出てきてくれます。この作用によって、腸内がきれいになるのです。「腸の掃除係」と呼んでもいいでしょう。

細かく言えば、食物繊維は「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維」に分類されます。

不溶性食物繊維を多く含んでいるのは、バナナ、ゴボウ、こんにゃく、オクラ、枝豆、たけのこなどです。

水溶性食物繊維を多く含んでいるのは、海藻、らっきょうなどです。

不溶性食物繊維は、腸の中で水分を吸って膨らみ、水溶性食物繊維は水に溶けて便を軟らかくしてくれます。ですから、便秘中は不溶性食物繊維をとり過ぎないほうがいいでしょう。

不溶性食物繊維が膨らむことで腸が刺激され、腸の蠕動運動が起きます。通常は、便通が促進されるのですが、蠕動運動の際、溜まっていた便の水分が吸収され、便が硬くなってしまい、便秘の方はそのことで便が出にくくなってしまうのです。

ただし便秘で悩んでいない限りは、そこまで気にする必要はないでしょう。

キウイ、りんご、みかんなどは、不溶性、水溶性とも多く含まれています。ほとんどの野菜、果物、海藻、きのこ類には、不溶性、水溶性の両方が含まれていますので、この4つを食べたほうがいい、と意識するだけで、食生活は変わります。

例えば、納豆を食べる時に、海藻のもずくをプラスしてみる。みそ汁にワカメやきのこを入れる。ヨーグルトにバナナやキウイなどの果物を入れるのもいいですね。

コンビニで手軽に買えるもので言えば、ドライフルーツもお勧めです。

答え   B.食事で解消

まずは1回の食事で、最低限1つずつ、ヨーグルトや納豆、みそなどの「発酵食品」、海藻や野菜、果物などの「食物繊維」をとる。こうした食事によって、腸内環境が整い、その結果、精神的疲労も軽減される。

『不摂生でも病気にならない人の習慣』

小林弘幸 著
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文/小林弘幸
順天堂大学医学部教授。スポーツ庁参与。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。また、日本で初めて便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」でもある。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説した『不摂生でも病気にならない人の習慣』(小学館)が好評発売中。

 

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