文/鈴木拓也

コロナ禍の余白時間が人生観を変えた

長期におよぶコロナ禍は、単に生活様式の変化だけでなく、いろいろなかたちで人々の人生観に影響を与えたようだ。

順天堂大学医学部の教授で、これまで多数の著書もある小林弘幸教授もその1人。平日は大学病院で勤務し、週末は学会に出席、空き時間はメディア応対にと、ワーカホリックを絵に描いたような日常が、がらりと変わってしまったという。

半ば強制的に生まれた余白時間を、小林教授は自分と向き合うことに使った。その時の気づきを、著書『小林教授の肩の力を抜くとすべてよくなる』(クロスメディア・パブリッシング)で次のように述懐している。

少し距離を取って自分を眺めてみると、結局、30代、40代と同じようなガムシャラさで生きようとしている姿があったのです。
私はなぜ、肩に力を入れすぎた生き方になってしまうのか考えました。
すると……あれもこれもやらなければならない。もっとできることがあるはず、といろいろ背負いすぎていることが見えてきたのです。(中略)
大事なのは役割や肩書、評判をプラスしていくことではなく、自分にとって大事なものを残し、余計なものをマイナスしてくことではないのか……?(本書より)

そうした思索を重ねて、たどり着いたのが「力の抜けた生き方」だ。

ここでいう「力」というのは、肩にこもった力みのこと。文字通りの意味だけでなく、義務感といった諸々の心の力みも指す。このことに気づいてから、小林教授は、ほかの人に任せられる仕事はどんどん手放していき、自分がなすべきことに集中するようになる。そうした取り組みをするうちに、力みが取れていくのを体感したという。

本書の中で、小林教授は読者に問う―「あなたは今、肩に力が入っていませんか?」と。同感される方は、多いのではないだろうか。

「昔はよかった」から解放されるために

小林教授は、「肩の力」を抜くための大きなポイントを3つ挙げている。その1つが「過去を手放す」ことだ。

多くの人は40代、50代に入ると、過去を振り返ることが多くなる。これは、残りの人生が見通せるようになり、それはあまり明るくないものと想像してしまうから。その反動で、「確実に楽しかったよい思い出」に浸りがちになると指摘する。一見、思い出に浸るのは好ましいことに思われるが、それも限度があるそうだ。

もちろん、年に何回か、ふと昔のことを懐かしむ程度であれば、何の問題もありません。
私が避けてほしいと考えているのは、「この先の未来に目を向けたくないから、過去に執着する」というネガティブな状態です。
そういったスタンスで思い出に浸ることは、自律神経のバランスを乱します。中長期的に見ると病気の原因となり、心の活力を奪うのです。(本書より)

このクセが身についたままシニア世代に突入すると、心身の慢性不調につながりかねないとも。そこで、「過去を手放す」ためのコツがいくつか挙げられている。

その1つが、断捨離だ。小林教授は、過去数年の間にかなりの物を捨てたそうだが、アルバムに収められた古い写真も例外ではなかったという。思い出の詰まった写真を処分するのは勇気が要るが、「未来のことを考える姿勢が持てるようになった」と、その効用を説く。

写真に限らず、思い出の伴う物品など、「昔はよかった」と想起させるだけのものも同様。ただなんとなく保管しているのであれば、思い切って手放したほうがいいのかもしれない。

不定愁訴には体を動かすことが大事

小林教授の外来患者には、頭痛や疲労など不定愁訴を訴える人が増えているという。調べてみると、血液検査では異常はないが、自律神経に問題がある人が多い。これは、コロナ禍で在宅時間が増え、身体を動かす機会がめっきり減ったことが大きな原因のようだ。
武道の世界に「心技体」という言葉があるが、医療の観点では、「体」が一番先にくる「体技心」がキーワードになるという。つまり「体」の健康が、「心を含めたすべての健康の源になる」と、小林教授は力説する。

不定愁訴は心の問題とされることもあるが、多くの場合「体を動かす」ことが有効な対策となる。そのために、勤務中でも取り入れやすいものとして、1つの作業を45分やったら、15分の運動を兼ねた休憩を入れる方法がすすめられている。

私が実践しているのは、スクワットです。ひざを深く曲げてしゃがむ必要はありません。大腿筋に軽く負荷がかかる程度の“ゆるスクワット”で十分です。1回の休憩中に10回やれば、血流は改善されるでしょう。
たった10回と思うかもしれませんが、1日単位で計算すると、50回以上スクワットをすることになるので、筋力を増やす運動習慣にもなるのです。(本書より)

大腿筋(太もも)を重視する理由として、それが人体で最も大きな筋肉であり、効率的に筋量を増やせること、ひいては基礎代謝量アップの近道でもあることが挙げられている。また、この部位の筋肉と脳の認知機能には密接な関わりがあって、鍛えることで認知症の予防にもなるそうだ。

*  * *

誰しもふと、「人生、このままでいいのか」と考えることがある。あるいは、過去をなつかしんでばかりの自分に気づくこともあるだろう。そんな漠とした不安にとりつかれた方に、本書は一筋の光を投げかける。読み終えたら、人生を前向きに生きる力がわいてくるはずだ。

【今日の健康に良い1冊】
『小林教授の肩の力を抜くとすべてよくなる』


小林弘幸著
クロスメディア・パブリッシング

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文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。

 

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