文/鈴木拓也
コロナ禍は、世界的な自転車ブームを巻き起こしたが、少し遅れて日本でも「健康づくり」の一環として、自転車が注目を浴びている。
その流れのなか、「健康的に楽しめる生涯スポーツ」として、自転車を推すのは瀬戸圭祐さん。今年63歳で、自転車歴50年の大ベテランだ。
瀬戸さんは、著書『快適自転車ライフ宣言』(三栄)の冒頭で、「若さを維持したいのならそれこそ自転車が効果的だ」と記す。実際、瀬戸さんの周囲には、70~80代で自転車に乗る仲間が大勢いるそうで、下手すると運動不足気味の現役世代より元気なくらいだという。
そう言われても、これから自転車を始めるのに、敷居の高さを感じる人もいるだろう。そんな方々に瀬戸さんは本書のなかで、自転車の魅力を語り尽くしている。さて、それはどんなものなのか、その一端を紹介しよう。
重要なのは疲れないで走ること
健康づくりの自転車のイメージは、限界近くまでストイックに走り続けるというものだろうか。
それもアリかもしれないが、瀬戸さんは、「最も大切なのは楽しむことであり、そのためには疲れないで走ることがとても重要」と説く。これにはいくつかのコツがあって、例えば走行中に起きやすい体のこり。この場合は、ストレッチをするのが肝心。腕、肩、腰がこったら、次のようにストレッチする。
安全な場所を走行している際に片手を離してグルグルと回したり、大きく伸ばしたり手の開閉を繰り返したりすることでこりは和らぐ。
腰もこったり痛くなることがあるが、そういうときは尻を浮かせて前に突き出し上半身を反らしてストレッチしよう。(本書102pより)
これに限らず、我慢は禁物だ。要は、疲れたら休み、喉が渇いたら飲み、お腹が空いたら食べる。身体の声に耳を傾けてそれに応えるのが、疲労を蓄積させず、不調を予防する大きな秘訣となる。
帰宅後も同様で、アフターケアに努める。まずは消耗したエネルギーの補給のため、糖分を摂取。具体的には、ゼリー状の機能性食品やエネルギーバーが最適だそう。そして、入浴して筋肉の血行をよくして、疲労物質を排出する。お風呂から上がったらセルフマッサージ。手のひらを使って脚を重点的にケアしつつ、身体各部をほぐしていく。
疎かになりやすいが、忘れてはならないのは、「家族へのケア」。瀬戸さんは、よく聞く悩み話として、「休日は家族のことは放っておいて、自分ばかり遊んでズルイ」といった家族からの小言が多いという。こうならないために大切なのは、「相手への配慮と愛」が第一で、時には「相手の言い分に合わせる努力」も必要だと、瀬戸さんはアドバイスする。
「ジテツウ」で健康的に通勤する
瀬戸さんがすすめる自転車の活用法に「ジテツウ」、つまり自転車通勤がある。特に毎日満員電車に揺られて通勤している人にとって、「通勤地獄」から解放されるジテツウは魅力的だ。
週2~3回からはじめ、雨の日や飲み会の日は自転車に乗らないルールで、頻度を増やしていく。道中、景色に癒され、新しい店を開拓できたりなど、ジテツウならではの楽しみもある。また、複数の通勤ルートをローテーションすると、マンネリ化を防げる。そしてなんといっても健康にいい。
ジテツウに適した通勤距離は、片道20キロぐらいまで。時間にして片道約1時間が上限の目安。体力がつけばもう少し延ばせるだろうが、遠距離通勤をしていれば、さすがに難しい。その場合、自宅から最寄り駅まで、あるいは何駅か先まで自転車に乗るというやり方を、瀬戸さんは提案する。
愛車のメンテナンスは絶対欠かせない
健康づくりのサイクリングは、どうしても自分の身体に意識が向いてしまうが、自転車の「健康管理」、つまりメンテナンスにも配慮したい。
瀬戸さんが基本として挙げるのは、注油と掃除。メンテナンスの頻度が一番高いチェーンの注油作業は、まずチェーンの汚れを落とすことから始まる。これを怠ると、チェーンに付着した汚れがチェーンやギアを痛めてしまうからだ。そのやり方については、次の説明がある。
チェーンの汚れはウェスで拭いただけではキレイには落ちない。チェーンの外側ではなく、つなぎ目の中やピンなどの可動部の汚れを落とす必要があるのだ。そのためにはチェーンクリーナーが必需品となる。チェーンクリーナーを使って汚れを溶かし、しばらくおいてから乾いたウェスやキッチンペーパーなどでチェーンを包むようにして可動部の汚れを拭き取るのだ。(本書233pより)
フレームの掃除もコツがある。この部分は布で汚れを落としたあと、ケミカルスプレーを布に少し染み込ませて磨いて、光沢をよみがえらせる。サビた部分も同様で、ケミカルスプレーを多めにしてサビを溶かす作業を、20~30分間隔で繰り返す。
また、雨中の走行などで、泥汚れがついた場合などは、本格的な洗車をする。これは、両輪を外してから車体をひっくり返し、目に見えない裏側の汚れを取る。タイヤやホイールは、ホースの水をかけてブラシでこすって問題ないが、ペダルのような回転部分は、バケツに水を張ってクルマ用洗剤か台所用洗剤を少量入れ、スポンジに含ませて優しく拭う。手間暇は多少かかるが、これによって自転車の寿命は延びるし、愛着も深くなる。
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瀬戸さんは、自転車は健康を増進するだけでなく人生も豊かにすると、本書で繰り返し述べている。運動系の健康法にはストイックで長続きしにくいものが多いなか、自転車は、誰でも気軽にはじめられる、数少ないものだろう。興味をもたれたら、一読をすすめたい。それはきっと、楽しい自転車ライフへ導いてくれるはずである。
【今日の健康に良い1冊】
『快適自転車ライフ宣言』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。