文/印南敦史

病気を治したいならば、体を冷やしなさい。
免疫力を上げたいならば、体を冷やしなさい。
そして、若返りたいならば、体を冷やしなさい。
(本書20ページより)

このように主張されれば、多少なりとも戸惑ってしまうことになるかもしれない。どちらかといえば、「体を温めなさい」という考え方のほうが一般的に思えるからだ。

しかし『体を冷やせば健康になる』(南雲吉則 著、光文社)の著者は、そんな既存の“常識”を真正面から一蹴するのである。

体は外から温めれば温めるほど、体温を一定に保つために深部体温を下げようとするのです。深部体温が上がらなければ、免疫力を下げ、細胞の老化を招くことになります。細胞が老化すれば、外見も老けて見えます。厚着をしている人ほど、寒がりで、老けて見えるのはそのためです。(本書20〜21ページより)

なるほど、そういわれれば、たしかにそのとおりだ。

ちなみに深部体温が上がるのは、寒冷刺激を与えられたときである。だから、著者は毎晩、風呂上がりに「水シャワー」を浴びるのだという。それこそが、細胞から健康になり、若返るための最善の手段だからだ。

だが気になるのは、なぜ体を冷やすと健康になり、細胞レベルから若返っていくのかということではないだろうか。そこに大きなポイントがありそうだが、どうやらそれは「ミトコンドリア」が影響しているようだ。

寒冷刺激を与えられると、細胞内のミトコンドリアが酸素とともに脂肪を燃焼させ、その影響で深部体温が上昇する。さらに寒冷刺激が繰り返されるとミトコンドリアはどんどん細胞分裂し、その数を増やす。

したがって、エネルギーを産生する小器官であるミトコンドリアの活性化こそが、免疫力の良好化と健康増進、若返りを叶える鍵になるということ。

著者が水シャワーを推奨するのも、そのせいなのである。

とはいえ、風呂上がりに水シャワーを浴びるためには相応の勇気が必要かもしれない。なにしろ、いかにも寒そうであり、体が冷えてしまいそうにも思えるからだ。ましてや冷え性の方であれば、なおさら実行に移そうという気持ちにはなれないだろう。

とはいえ、著者はこう反論するのだ。「体に水をかけるだけで深部体温が下がってしまうならば、トカゲなどの変温動物と同じになってしまう」と。

しかしご存じのとおり、人を含む哺乳類は恒温動物である。そのため、体に水がかかれば深部体温を上げようとするわけだ。だからこそ、冷え性の改善には水シャワーがいいというのである。

体温調節中枢は、外側から体を温めれば温めるほど毛穴を開き、体表面積を広げて放熱するのだという。体を温めると汗をかくが、それも熱を放出するためだ。

そして汗が乾くと、気化熱として体の表面から熱が奪われる。そのようにして、深部体温が上昇しすぎないようにコントロールしているというわけである。

しかし、その放熱の働きが過剰になると体内の熱が奪われ、深部体温が0.1度単位というわずかな温度ではありますが、下がっていきます。私たちは恒温動物ですが、身体活動によっておおむね1度程度の変化は起こしています。深部体温が37度から36度まで下がれば、体は寒いと感じます。(本書31ページより)

つまり、一生懸命に体を温めれば温めるほど、深部体温が下がる方向に体温調節中枢が働くことになる。長湯をすると湯冷めしやすいといわれるが、それも体を温めすぎたから。そのため開いた毛穴がなかなか戻らず、適度に熱が放出されるからだというのだ。

だが、風呂上がりに水シャワーを浴びれば、開ききっていた毛穴がキュッと締まり、熱が出ていくのを防いでくれる。だからこそ、深部体温を高く保つことができるのである。

しかも体に寒さ刺激を与えるということには、ミトコンドリアが活性化するというメリットもあるようだ。そのため脂肪と酸素が燃焼してエネルギーの産生量が増え、深部体温が上がるということだ。

体表温を温めれば温めるほど、深部体温は低下します。反対に、体に寒さ刺激を与えれば、体の内側はぽかぽかと温まっていくのです。(本書31ページより)

こうした記述を目にしながら思い出したのは、強力な健康法として昭和の漫画などによく登場した「寒中水泳」だ。いわれてみればそれもまた、同じ考え方なのかもしれない。

ただし習慣として考えた場合、風呂上がりの水シャワーのほうが手軽で、しかも継続しやすそうではある。慣れるまでには相応の時間がかかるだろうが、とはいえ人間には、慣れやすいという特徴もある。

免疫力を上げるために“ちょっとの努力”をしてみれば、思いもかけない効果を実感できる可能性は大いにありそうだ。

『体を冷やせば健康になる』
南雲吉則 著
光文社

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文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( ‎PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

 

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