文/鈴木拓也
精神科には「気軽に」来院してもいい
年々増加傾向にある、うつ病患者。特に40~50代はうつ病の好発年齢とされており注意が必要だ。
幸いというべきか、今の時代はうつ症状で精神科を受診することが、昔ほどためらわれることではなくなっている。
そして、「クリニックには気軽に来ればいい」と説くのは、早稲田メンタルクリニックの益田裕介院長。
精神科の専門医として、多くの患者を診てきた益田院長は、「『困りごとを専門家に相談に行く』というようなノリで、気軽に考えればよい」と、著書『精神科医の本音』(SBクリエイティブ)の中で述べている。
「気軽に」とは、どのような症状・基準をもとに判断すればいいのだろうか?
益田院長は、幾つかの目安を本書の中で挙げる。
その1つが「動悸がしたり、涙が出たりしていないか」という自覚症状だ。
出勤前に動悸がしたり、会社に向かう電車の中で涙がポロポロこぼれるようになったら、受診した方がよいでしょう。ここまで追い込まれていても、「つらいわけじゃないのに、なぜか涙が出るんです」と言う患者さんもいますが、それが「つらい」ということなのです。
このほか、食欲がないとか眠れないというのも、心の病のサインでありうるし、「死にたい気持ち」が出てきたら、それこそ通院すべきだとも。
自分では、そこまで深刻ではないと思い込んでいても、医師の視点からでは、「もっと早く来ればよかったのに」という例は少なくないという。
あたたかみのある医師が名医とは限らない
Googleで「精神科医」で検索しようとすると、予測変換で「精神科医 信用できない」「精神科医 クズ」といったワードが出てきてちょっと驚く。
精神科医は玉石混交で、「石」の方が多いのかと不安になる。ネットの評価・クチコミはあまり当てにはできないとわかっていても、名医とそうではない医師を見分ける方法はあるのだろうか?
益田院長によれば、「相手の感情に飲み込まれやすい医師か、そうでないか」が、判断のポイントの1つになるという。本書に次の解説がある。
患者さんが「うわーっ」と泣き叫んでいるときに、医師があたふたしても仕方ありません。感情を扱う場面だからこそ、あまり過度に感情を刺激するより、冷静に話し合った方がいい。患者さんが自分の話したくないことを話してしまって、トラウマが刺激されて泣き出したときも同じです。(中略)
相手の感情に飲み込まれ、精神科医自身が混乱したり、一緒に悲しくなって、その感情に囚われてしまったり、逆に患者さんに腹を立てたりするようでは話になりません。
ともすれば、やさしくて人情味ある医師が名医だと考えがちだが、そればかり気にかけると判断を誤る可能性がある。冷静で、冷たい感じのする医師の方が、実は優秀である可能性が高いというわけだ。
また、感情面以外の問題で、あきらかにNGな精神科医は存在するという。そうした医師は、ガイドライン通りに診療をせず、処方される薬が「おかしい」など、はっきりした特徴がある。ここで「おかしい」というのは、「理由もなく、4種類の抗うつ薬を1錠ずつ処方された」というような、素人目にも違和感のある薬の出され方をいう。ただ、しかるべき理由があって、そうした処方をしていることもあるので、医師にそれぞれ薬の目的・効果を確認する姿勢も必要となる。
再診が「5分診療」のわけ
特に大病院について、俗に「3時間待ちの3分診療」と言われるように、診療時間の短さは以前から問題視されてきた。
精神科の場合はどうか?
益田院長は、「初診は30分から1時間程度、再診は5分+αというのが一般的な外来診療」だと、率直に打ち明ける。
再診が5分程度なのは、理由がある。1つは診療報酬制度の問題。再診の場合、5分以上30分未満で保険点数は330点(3300円)。30分以上はいくら長くても400点(4000円)で固定されており、医師の裁量でこの額を変えることができない。経営が立ち行かなくなるようなリスクを冒すわけにはいかず、「『再診は5分+α』でいこう」となる。
もっと大きな理由は、400万人を超えるといわれる患者数に対し、精神科医の数(1.5万人)がまったく足りていないことだ。精神疾患の治療は長期化しやすい事実が、この問題に拍車をかける。
その現実を無視して、少ない患者を時間をかけ診療するとなれば、多くの患者を受付拒否せざるを得なくなる。
そのジレンマを少しでも解消するため、益田院長は、YouTubeで積極的に情報提供を行っている。これは何人かの患者の求めに応じて始めたもので、そのおかげで病気や薬の説明をする時間を減らせたなど効果を上げている。
また、「5分は実は、案外長い」という点も強調する。
5分だけでも、必要なやり取りは十分にできますし、患者さんの頭の整理もできます。診療時間と治療効果や満足度は、必ずしも比例するわけではありません。5分の時間を最大限活かすためにも、診療前後の時間にYouTubeなどを用いて、しっかり情報提供を行うことはとても重要だと思います(本書より)
このあたり、患者側の意識改革も必要ということだろう。
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精神疾患は数多くあるが、うつ病だけを見ても10人に1人はかかるといわれ、実は身近な病気。もしも、「精神科に行った方がいいのでは」と考えるなら、「気軽に」受診しよう。担当医師は、きっとあなたの力になってくれるはずである。
【今日の健康に良い1冊】
『精神科医の本音』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。