文/鈴木拓也
ほぼ毎日、深夜に尿意で目が覚めて、トイレに行く。
別に何の問題もないように思えるが、実はこれ「夜間頻尿」という症状だ。日本泌尿器科学会のウェブサイトを読むと、「夜間、排尿のために1回以上起きなければならない」症状が、夜間頻尿と定義されている。加齢とともに、その頻度が高くなるという。
「そういえば若い頃は、1度もトイレに起きることなく朝までぐっすり眠っていたな」と思い出すかもしれない。
あるいは、「夜間頻尿だと言われても、眠りが一時中断してちょっと不快なだけ」と考えるかもしれない。
しかし夜間頻尿は、考えるよりもずっと健康に影響を及ぼしている。そう説くのは、マイシティクリニック(東京都新宿区)の平澤精一院長だ。
平澤院長の近著『朝までぐっすり! 夜中のトイレに起きない方法』(アチーブメント出版)には、夜間に2回以上トイレに立つ高齢者は、死亡率が2倍になるという話がある。また、転倒リスクも2倍になるし、慢性的な睡眠不足に陥りやすくなるのは言わずもがなだ。
夜間頻尿に悩む人の割合は、50代だと5人に1人。それが70代では5人に3人へと増加。これは、夜間頻尿の発症には加齢が大きく関係していることによる。若いうちは、夜間に抗利尿ホルモンが分泌され尿量が少なくなるが、年とともにこのホルモンの働きが悪くなり、尿意で目が覚めてしまう。
夜間頻尿の原因はこれだけではなく、さまざまな要因がからむが、やはり加齢による身体機能の衰えの影響は大きい。
といっても「年だからしかたない」と諦めるのは早計。本書のなかで平澤院長は、夜間頻尿を改善するコツをいくつか教えている。
夜間の水分の摂り方にコツがある
平澤院長によれば、夜間頻尿改善のコツは、「食事」「運動」「睡眠」の3つの生活習慣を見直すことが主軸となる。
まず食事だが、寝る前の水分の摂り過ぎで夜間頻尿になっているという単純なケースが、多く見られるという。これについて平澤院長が指摘するのは、テレビの健康番組で見かける、「夜寝る前に、水分をたくさんとると血液がサラサラになる」といった情報。それに対し、平澤院長はこう書いている。
しかし、医学的には、就寝前に水を飲めば、夜間や早朝の脳梗塞や心筋梗塞の発作が予防できるという確実なエビデンスはありません。起床時から夕食までに、バランスよくこまめに水分補給をすることはよいのですが(2時間おきに飲むとバランスがいいといわれています)、たくさん飲めばいいというわけではありません。(本書より)
では逆に、夜になったら水を飲まなければいいか、というわけでもなさそうだ。それだと今度は、水分不足で脳梗塞や心筋梗塞のリスクがある。夏場だと熱中症にかかりやすくなる。テレビの情報は、まったくの誤りではなく、留意すべきは「“とり入れる量”と“排出する量”のバランス」だと平澤院長は述べている。
また、コーヒーやお茶といったカフェイン飲料やアルコール飲料(特にビール)は、利尿作用が高く多尿になりやすいため、飲み過ぎないようにとも。
食べ物については、辛い料理は水を多く飲むし、膀胱を刺激する。砂糖を多く含む食品は、血中のブドウ糖を増やし、細胞から水分が血管内に引き込まれて、多尿につながる。こうした食品はゼロにまでする必要はないが、食べ過ぎは戒めよう。
簡単な運動で夜間頻尿を防止
夜間頻尿の一因に、下半身に水分がたまってむくんでいたのが、寝るとその水分が上半身に流れて多尿になるというものがある。このむくみは、運動不足で下半身の筋力が低下して起こることが多い。
「だからこそ、運動が大切になってくるのです」と、平澤院長は説明する。おすすめの運動の1つがウォーキング。下半身にたまった水分を上半身に移動させる効果があるからだ。
ウォーキングは足のむくみが起こりはじめる、午後から夕方の時間帯に行います。暑さが厳しい夏場は、夕方がおすすめです。時間は20~30分がいいでしょう。(本書より)
もうひとつがスクワット。足を肩幅に開き、背すじを伸ばしてゆっくりと腰を落とし、5~10秒キープするのを、5~10回繰り返す。正常な排尿を助ける骨盤底筋という筋肉を鍛えられるため、夜間多尿の予防効果は「抜群」だという。これ以外にも、夜間頻尿に特化した体操がいくつか載っているが、テレビを見ながらできて取り組みやすいのが特徴だ。
夜間頻尿を防ぐ入浴のコツ
夜間頻尿は睡眠の質を下げるが、逆に睡眠の質が低くなる睡眠障害が夜間頻尿を引き起こすことがある。特に寝つきが悪く、入眠まで何度もトイレに行くという人に、平澤院長がすすめるのが、寝る1時間前の入浴。副交感神経の働きを高め、眠りにつきやすくなる効果があるという。
その入浴にもコツがある。
お湯の温度は、40度くらいがおすすめです。シャワーでは体が十分に温まりませんので、湯船にしっかり浸かってください。あまり熱いお湯に浸かると、交感神経が優位になり、かえって目が覚めてしまうので注意が必要です。入浴時間は、体を洗うのも含めて20分くらいがいいでしょう。(本書より)
また、寝る時間になったら、スマホやパソコンの画面から発せられるブルーライトを浴びないというアドバイスがある。この光には交感神経を刺激する作用があり、そのせいで「利尿ペプチドが分泌されてしまい、多尿や頻尿」になるからというのが理由。
また、今のような寒さが身に染みる季節は、寝室の室温を2.5度以上(就寝前の3時間平均)高くしておくと、夜間頻尿が約4割減るそうだ。このように、就寝時においてもやっておきたい対策はいくつもある。
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夜間頻尿は、いつの間にか自然に治るという症状ではなく、加齢とともにその頻度は増えていく。しかし、「年だから」と諦める必要はなく、本書にある具体的な対策をとることで、改善は可能だ。費用も手間もかからないので、やっておいて損はないだろう。
【今日の健康に良い1冊】
『朝までぐっすり! 夜中のトイレに起きない方法』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った映像をYouTubeに掲載している。