文・五本木基邦
新型コロナウイルスに感染したのが8月下旬のこと。発症後10日で治癒となったが、「体がだるい」「疲れやすい」「においがわからない」といった症状が残った。私は61歳(もうすぐ62歳)。雑誌『サライ』の嘱託編集などを生業とする“おじさん”が、後遺症に直面し、ときに難渋しながらじわじわと回復していく様子をお伝えする(日々の変化は乏しいため、症状の傾向がつかめる1週間単位で以下に記していく)。
復帰第1週(発症から3週目)
嗅覚障害と倦怠感があり、異様に疲れやすい
新型コロナウイルス感染症が治って、サライ編集部に顔を出したのは発症から3週目のこと。まる2週間、ほぼ寝たきりの自宅療養で過ごしたことになる。
「大丈夫でしたー?」「大変でしたね」「痩せたんじゃない?」などなど声をかけられ、想像以上に心配かけていたことに恐縮至極。
編集部、ライター、デザイナー各位、仕事仲間の絶妙なフォローのおかげで、担当していた特集も無事に進行している。ひたすら感謝するばかり……。
治癒後、初めて修琴堂大塚医院に行って、渡辺医師の診察を受けたのがこの週である。
前シリーズ(【『サライ』編集者の新型コロナウイルス闘病記】4:https://serai.jp/health/1041047)の最後に触れたように、この時点で嗅覚障害・倦怠感が残っていた。毎日ではないが、ときどき頭痛にも悩まされてもいた。
新型コロナウイルス感染症では、感染から回復した後も後遺症に悩む人が多いと聞いていたが、わが身にも起こったか……。
だが、まあそうだろうな、といった感覚で、深刻には感じていなかった。いち早く漢方治療したおかげで軽症で済んだわけだし、後遺症も軽くて済むだろうと考えていたからだ。味覚はほぼ戻っていたし、スローなペースながら嗅覚も回復傾向にあった。
咳が治まってから、漢方薬は「桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)」を服用。昨年来、処方してもらっていたもので、自律神経の乱れを整える作用がある。発症以前のようにこれを飲みながら全身状態の改善を目指す。
緊急事態宣言は継続中だったから、仕事は在宅でのリモートワークが中心だ。とはいえ商品の回覧が必須の会議などがあって、この週は2日だけ出社した。
困ったのは、倦怠感と疲労感である。とにかく異様に疲れやすいのだ。
発症以前は50分少々の自転車通勤(雨天は電車)だったが、とてもムリ。10日間、寝込んで脚がすっかり細くなっている。体重は2.5kg減。
電車を乗り継いで約50分の通勤路がめちゃくちゃ遠く感じる。緊急事態宣言ゆえ、電車が空いていて座れるのが救いである。
復帰第2週(発症から4週目)
倦怠感・疲労感は変わらず。猫はええなぁ
ダルい。目覚めてから寝床を抜け出すまで1時間ではきかない。
頭の中にその日のToDoリストを思い浮かべて、そろそろ起きねば……と思うのだが、しばし目を閉じると、頭の中のリストがリセットされて、あれ今日の予定は何だったっけな、というループを繰り返す。頭も体もダルいのだ。
月に1度の企画会議はリモート併用になったので利用させてもらって在宅で参加。
とはいえ、グズグズした果てに意を決して起き上がればなんとかなるのである。それなりの経験と責任感から、半ばオートマチックのように仕事をして、帳尻を合わせることはできる。
ただ、心身ともに異様に疲れる。
在宅で仕事をしている日は、夕方、1時間くらい横になれるからありがたい。出社がつらいのは疲れても体を縦にしておかなくてはならない点だ。
体のダルさもさることながら、頭もダルい。なかなか集中できなくて思考がまとまらない。ものごとに順番をつけてこなす、なんてことも面倒くささが先に立つ。後遺症として知られるようになった「ブレインフォグ(直訳すると脳の霧)」のような気もするが、もともとそういう性格だったようでもあり……。
それでも先週よりは改善している気がした。この週、ウチから20分ほどのスタジオで撮影の予定があり、自転車で出かけた。感染後、初の自転車による出動である。上り坂が2か所、こんなにキツい坂だったのかと思う。
ほぼ寝たきりの2週間で、脚はびっくりするほど細くなっていた。
自宅からスタジオへ直行直帰だったが、疲労を心地よく感じた。多少なりとも体が回復しているような気がする。帰宅するなり横になって一眠りしてしまったけれど。
朝晩、秋らしい涼しさとなったためか、明け方に猫がベッドに乗ってくる。
私が寝床の中でグズグズしているとき、猫はタオルケットの上でいかにも気持ちよさそうに寝ている。猫はええなぁ。
復帰第3週(発症から5週目)
「3歩進んで2歩下がる」の繰り返し
先週までのダルさ、倦怠感はかなり改善してきたように思う。
1日単位では、改善しているのかどうかよくわからない。日によって体調にけっこう違いがあるから、前日より悪化しているように思う日もある。でも3,4日前よりはマシ、先週よりはだいぶいい、と思える。
夜10時前には横になってしまう日もあるけれども、週単位でみると、その頻度は少なくなっているようだ。しつこかった頭痛も、数日に一度くらいに減った(しかもバファリンで対処可能)。
下に掲げた図のように、調子のいい日もあれば悪い日もあるものの、均せば回復方向であり、かつ変化率がだんだんと小さくなる(回復のペースがだんだん遅くなる)イメージ。直線的に回復するわけではないらしい。
加えて、頭のダルさは体のダルさよりも改善率が低い。たぶん。
倦怠感や疲れやすさのほかに、気になっているのは嗅覚障害である。
多少はわかる。二度咲きしたキンモクセイの香りもわかった。しかし、不思議なことには発酵や腐敗したにおいがよくわからない。
つまり、納豆やチーズのにおいはわずかしか感じない。鼻に近づけて、しっかりと嗅げばにおいの片鱗を感じるレベル。
味覚はほぼ回復しているのだが、発酵食品についてはちょっと怪しい。納豆でもチーズでも、塩味と旨味は多少感じるのだが、鼻に抜けるにおいがしないので風味がない。甘いとか辛いといった味はわかるので、食事が味気なくて困るということはないけれど……。
嗅覚については日々の変化も少ないように思う。
腐敗系の悪臭もあまり感じないので、生ゴミを捨てるときは便利だ。発酵とか腐敗の際、微生物がつくり出す物質を、センサーで感知できないらしい。
ところが猫のトイレを掃除するときには、以前同様に臭いと感じる。アンモニアとかの臭いはわかるらしい。不思議。
渡辺医師にメールで経過報告したところ、「嗅覚障害と倦怠感に対して補中益気湯(ほちゅうえっきとう)にするかどうか、というところですが、とりあえず桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)で様子をみましょう。回復具合を見て、次回診察の時にまだ症状残っているようであれば調整します」とのこと。
私としては、焦る気持ちはなかった。「3歩進んで2歩下がる」の繰り返しでも、そのうちなんとかなるだろう。と、楽観していたのだが、そうは問屋が卸してくれなかった。
【『サライ』編集者、新型コロナウイルス後遺症回復記】2に続きます。