文・五本木基邦
8月下旬、新型コロナウイルスに感染した。第5波がピークを迎え、東京都の感染者が連日4000人を越えていた最中のことだ。感染者の約9割は50代以下と発表されていたが、私は61歳。雑誌『サライ』の嘱託編集のほか、書籍の企画編集やライター仕事を生業としており、散歩と自転車が趣味で、人ごみが嫌い。そんな“おじさん”が、新型コロナにかかってしまった。
前回は、悪化していく症状についてお伝えした。今回は重症化を脱し、少しずつ回復していく様子をお伝えする。
【前回はこちら】
6日目 頭痛はつらいが、バファリン断ち
■体温 最高38.0℃〜最低37.1℃ 酸素飽和度(SpO2) 97
昨日のような突然の変調が起こると、もしや重症化? と不安になる。だが、渡辺医師のメールは全く慌てた様子がなくて心強い。
「想定内ですので、ご安心ください。激しい熱が出た後にすっきりと治ることがよくあります。酸素飽和度が保たれている間は心配無用です」
パルスオキシメーターは、何度か深呼吸して最大の数値を読み取る。肺炎が進行したら、いくら深呼吸しても数値が上がらなくなるそうだ。恐ろしい……。
振り返ってみると、バファリンがマズかったのかもしれない。漢方治療の要諦は『熱を味方につける』ことにあるのだから、バファリンのような解熱鎮痛剤は、味方を後ろから攻撃してしまうようなものかもしれない。オウンゴールをやらかしてしまった感が強く、バファリン断ちを決めた。
もっとも、専門家である渡辺医師のメールには、末尾に「頭痛がひどければバファリン飲んでいただいて結構です」とあったから、過剰な心配だったのかもしれないが。
この日、東京都から自宅療養者への支援の食料セットが届いた。おかゆのレトルトやカップ麺などでダンボール2箱。プラス飲料水、スポーツドリンクなど。自宅療養中の注意事項ほかパンフレットやウェブ上のハンドブックへの案内とかいろいろ。私、活字中毒者を自認しているけれども、文字を追う気力がない。
頭痛は相変わらずだったが、それ以上に倦怠感が強く、横になって眼を閉じるといくらでも眠ることができた。この日も20時間近く眠っていたと思う。年齢とともに眠りが浅くなり、睡眠時間は短くなっていたのに実に不思議だ。
夜、渡辺医師からのメールには「ピークは越えた感じですね。明日はもっと楽になると思います。倦怠感はカラダが戦った証ですね。体が欲するままに休養をしっかり取ってください」とあった。
7日目 重症化の危機を脱したが、後遺症の不安が残る
■体温 最高37.3℃〜最低36.7℃ 酸素飽和度(SpO2) 98
咳がひどく、明け方まで眠れない。それでも熱はかなり下がって37℃台前半、36℃台になることもあった。
渡辺医師からは「重症化の危機は脱しました。あとは回復一方です。肺の損傷の程度によって回復までの時間は異なりますが、様子をみましょう。後遺症の治療も漢方は得意ですから」とのこと。
後遺症か……。熱が高いときは、肺炎へと進んで重症化することだけは避けたいと願ってきたが、その危機を脱したとなると、今、残っている症状(咳、頭痛、倦怠感、味覚・嗅覚障害)が気になってくる。
咳込むと止まらなくなるので、睡眠不足である。いくらでも眠れるのはそのためか? 相変わらず頭痛は、午前中はグリグリと棒で押すような痛み、午後になると全方位から締め付けるような痛みが続いている。
数日前からは、髪の毛に触ると頭皮が痛む。後遺症のひとつに脱毛もあるそうだが心配である。
それ以上に不安なのは、味と匂いがわからないことである。日々の楽しみが確実に削がれてしまう。重症化の心配に比べると些事に思えなくもないが、このまま長く続くことはなんとしても避けたい。
8日目 後遺症防止フェーズへ
■体温 最高36.7℃〜最低36.3℃ 酸素飽和度(SpO2) 98
重症化の危機は脱したようなので、しつこい頭痛に対してバファリンを再開した。ひどい頭痛がすっと治まるのはありがたくもあり、あまりの効きのよさが不気味でもあり。
頭痛が抑えられるとなれば、現状でもっともつらいのが咳である。夜に強く咳き込むため睡眠不足が続いている。そのことを渡辺医師に伝えると、次の漢方薬の処方が決まった。
「あとは後遺症を残さずに治すことです。本日、『補中益気湯合麦門冬湯(ほちゅうえっきとうごうばくもんどうとう)』を送りましたので、明日午前には着くと思います。清肺排毒湯はしっかり1週間飲み切ってから次の薬に移ってください」
補中益気湯合麦門冬湯は、回復期の代表的な漢方である補中益気湯に咳を改善する麦門冬湯を組み合わせたもので、私の証(しょう=体質や症状の経過)に適合するそうだ。今日で清肺排毒湯は飲みきったので、重症化防止フェーズから後遺症抑制フェーズへ移行することになる。うれしい。
夕食に鯖缶のトマト煮を食べたら、鯖とトマトの風味をかすかに感じた。少しでも回復の兆しがあると、とたんに元気が湧いてくる(ような気がする)。
自分のことを書くのに手一杯だったが、発熱以来、食事の支度をしてくれたのは妻である。彼女自身、免疫力を底上げする生薬カプセルを飲みつつ、厳格な動線分離を立案、実行してくれたおかげで、結局、家庭内感染しなかった。もともと上がらなかった頭が、さらに上がらなくなった。深く感謝している。
頭痛、倦怠感、味覚・嗅覚障害がつづく… 【『サライ』編集者の新型コロナウイルス闘病記】4に続きます。