そも漢方とは② kampo_senji

漢方の基礎知識をわかりやすく解説するシリーズ連載「そも漢方とは何か?」。前回は、漢方の全体像について紹介しましたが(https://serai.jp/health-2/kanpo/29745)、今回は私たちが実際に飲む漢方薬について、慶應義塾大学の渡辺賢治先生に具体例を挙げていただきながら紹介します。

複数の生薬を組み合わせる

そもそも漢方薬とは何なのでしょうか。よくある質問に「どくだみは漢方薬ですか?」「ゲンノショウコはどうですか?」といったものがあります。どくだみやゲンノショウコは民間薬と呼ばれるものです。では、漢方薬とはどう違うのでしょうか。それについて渡辺賢治先生はこう説明します。

「まず、民間薬は単数の生薬であるのに対し、漢方薬は複数の生薬が組み合わさっています。また、民間薬が民間に伝承されてきたものであり、成文化されていないのに対し、漢方薬は出典が明らかです。漢方薬は紀元前からありましたが、書物にきちんと記載されているものは後漢末期(約1800年前)に書かれた中国伝統医学の古典『傷寒論』(しょうかんろん)と『金匱要略』(きんきようりゃく)です。
このふたつの書物は日本漢方のバイブルとなっていて、これらを出典とする処方は今の医療用漢方製剤の約半分を占めています。残りはもっと後の時代に徐々に作られてきたものです。ほとんどは中国で作られたものですが、日本で作られたものがあります。一番新しい漢方薬は、1952年に大塚敬節が作った七物降下湯(しちもつこうかとう)という漢方薬です。現在使われている漢方薬は、1800年前から50年くらい前までの長きにわたって作られたものの集大成といえます」


漢方薬とハーブとの違いは?

ハーブティーは身近で、日々の生活に取り入れている人も多いでしょう。西洋ハーブにもカモミールやセント・ジョーンズワートなどの数多くの生薬が用いられています。西洋ハーブと漢方薬の大きな違いは、漢方薬は生薬の組み合わせに「葛根湯」などといった名前を付けたことです。そのため、漢方薬はこれだけ長く続いてきたともいえますが、生薬の組み合わせについて具体的に教えてください。

「例えば風邪に使われている『葛根湯』は葛根(かっこん)、大棗(たいそう)、麻黄(まおう)、甘草(かんぞう)、桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)、生姜(しょうきょう)という生薬を組み合わせたものであり、生薬の比率も規定されています。名前を付けたことで、いちいち『葛根8g、麻黄4g…の、あの処方』などという必要がないのです」

個人の細かい症状に対応できる理由とは?

日本漢方は、生薬の組み合わせ自体を重んじて行なってきました。その生薬を様々に組み合わせることで、処方できる漢方薬の種類が飛躍的に増え、それが個人個人の細かい症状に応じた治療ができる鍵でもあるといわれます。では、漢方薬の種類が増えるとはどういうことでしょうか?

「例えば、3種類の生薬があった場合、1つずつなら3種類ですが、2つの組み合わせは3通りです。3つの組み合わせは1通りであるので、合計7種類の薬ができることになります。現在医療用として日本で承認されている生薬は200あまりあるので、それらを組み合わせることでできる漢方薬の種類は天文学的数字になります」

しかし、実際にはこれだけでなく、漢方薬は生薬の組み合わせが一定の比率をもって初めて意味をなすので、単に組み合わせの数だけでなく、配合比まで含めるととんでもない数になりますね。配合比を変えると、どうなるのでしょうか?

「例えば、桂枝湯(けいしとう)という漢方薬は、含まれる芍薬(しゃくやく)の量を増量しただけで桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)という全く別の漢方薬になります。個人個人の体質やその時の症状によって、配合比を変えるなどして、症状別に細かく応じることができるのが漢方薬の強みともいえます」

日本のエキス製剤は世界一の技術

漢方薬を服用したことのある人は、小分けされた袋に入った粉薬を服用することが多いのではないでしょうか? 日本において漢方薬を服用する場合、漢方医から処方されるのはほとんどがエキス製剤です。このエキス製剤を水で飲んだり、お湯に溶かして飲んだりします。エキス製剤の利点は何でしょうか?

「漢方のエキス製剤とは、決められた漢方の処方によって、生薬を煎じた液からエキス成分を抽出し製剤化したもので、濃縮したり乾燥させたりして作られたものです。いわばインスタントコーヒーのようなものです。生薬の加減はできませんが、煎じ方によって濃度や成分のばらつきがでることがなくなり、しかも煎じるという手間がかからず、一定の効果が期待できます。患者さんにとっても携帯に便利で、服用しやすく、長期保存も可能で、外出先にいても漢方薬が手軽に飲めるようになりました。
日本は、このエキス製剤を作る技術がとても高く、世界一です。また、農薬や重金属のチェックも非常に厳しく安全性も高いです。安全性を担保した日本のエキス製剤技術は海外からも高い評価を受けています」

漢方薬をもっと身近に

生薬を組み合わせて配合比率を決め、それらに名前を付けた日本の漢方薬。生薬を組み合わせたことで、数多くの処方を作り出すことができ、個人個人の症状に応じたきめ細やかな治療が可能になりました。また、日本のエキス製剤技術は世界一であり、エキス製剤によって患者さんも漢方薬を服用しやすくなっています。

漢方は飲むのが大変そうと思っている人は多いかもしれませんが、日本が誇るエキス製剤を体調管理に取り入れて欲しいと思います。

 

 

文/葉山茂一(はやま・しげかず)
漢方デスク株式会社代表取締役。漢方・薬膳の総合ポータルサイト「漢方デスク(http://www.kampodesk.com)」を企画・運営。

取材協力/渡辺賢治(わたなべ・けんじ)
慶應義塾大学環境情報学部教授医学部兼担教授。漢方デスクの漢方医学監修を務める。

 

 

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