文・写真/原田慶子(海外書き人クラブ/ペルー在住ライター)

ラルコ博物館

海外旅行で博物館を訪れることは、その国の文化や歴史を知るために欠かせないアクティビティだ。とはいえ、ただ近場にあるからといって手当たり次第に訪ねても、満足のいく結果が得られるとは限らない。加えてペルーの博物館は英語の解説すらないところが多く、ただ「眺めて終わるだけ」という残念なパターンになりがちだ。

では逆に、リマで1か所だけ行くとしたら? それなら断然「ラファエル・ラルコ・エレーラ博物館(通称:ラルコ博物館)」だ。大手旅行ポータルサイト“トリップアドバイザー”の「世界で人気の美術館・博物館トップ25」で2018年は20位、ラテンアメリカでは堂々の第1位に輝く博物館。その理由をこれから説明しよう。

プレコロンビア時代の遺跡の上に建つ白亜の博物館

リマ市プエブロ・リブレ区の閑静な住宅街にあるラルコ博物館は、純白の壁が美しいコロニアル様式の瀟洒な建物だ。赤やオレンジ色のブーゲンビリアがその枝を美しく伸ばし、博物館全体を優しく取り囲んでいる。

プレインカ時代のピラミッドの上に建てられた屋敷を利用した「ラルコ博物館」

プレインカ時代のピラミッドの上に建てられた屋敷を利用した「ラルコ博物館」

ラルコ博物館の創業者は、ペルー考古学界の重鎮ラファエル・ラルコ・ホイレ。彼が敬愛する父の名を冠したこの博物館は、1926年7月28日に創設された。ペルー北部海岸エリアに栄えたモチェ(紀元前後~800年)を中心に、アンデス文明に関する貴重なコレクション約4万5000点を所蔵。そのうち約3万5000点もの土器を収めた「土器収蔵庫」も一般向けに公開している。

ラルコ博物館をおすすめする理由 その1

第1の理由は、ラルコ博物館の解説が7か国語(スペイン語、英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、ポルトガル語、日本語)に対応していること。展示物の注釈だけでなく、館内に配されたラミネート加工の説明書や博物館発行の公式ガイドブックにも日本語版が用意されているのだ。かの大英博物館や日本人旅行者の多いアジア地域の博物館ならいざしらず、ラテン諸国でこれほど日本人に優しい博物館は他に類を見ない。この点だけでも訪れる価値は十分にあるといえよう。

ラミネート加工の説明書。日本語で概要をつかんでから見学すれば、より理解が深まるだろう。

ラミネート加工の説明書。日本語で概要をつかんでから見学すれば、より理解が深まるだろう。

ラルコ博物館をおすすめする理由 その2

テーマごとの展示形式で、大変見やすい作りになっているところも好ましい。イントロダクション用の部屋から始まり、ビデオ室、図書室、そして土器を中心とした文化展示室などがある。モチェを中心とする北部海岸エリアの文化をメインに、ナスカやチャンカイ、インカ帝国時代の考古学遺物も展示されているので、アンデス文明5000年の流れをしっかりつかむことができるだろう。土器だけでなくパラカスやナスカ、ワリ時代の織物や、シカン、チムー文化の黄金製品、古代の楽器などもあり、飽きることなく見学できる。

モチェの戦士を模った写実的な土器。

モチェの戦士を模った写実的な土器。

眩いばかりの黄金製品も多数展示されている。

眩いばかりの黄金製品も多数展示されている。

ラルコ博物館をおすすめする理由 その3

ラルコの名を一躍有名にしたのが、「エロティック・ギャラリー(官能の間)」と呼ばれる展示室。ここには生や死をテーマにした芸術作品が並べられている。古代の農耕社会において新たな命を育む性の営みに豊穣への願いを重ねたとする解釈は、素直に納得できるものだ。人間や動物の区別なく等しく行われるその行為を、モチェの人々はリアルに、そして生き生きと表現した。

エロティック・ギャラリーの入口。撮影可と言われても、このギャラリーの中でカメラを構えるのは少々勇気がいる。

エロティック・ギャラリーの入口。撮影可と言われても、このギャラリーの中でカメラを構えるのは少々勇気がいる。

まじめすぎる表情がかえってリアルなモチェの土器。

まじめすぎる表情がかえってリアルなモチェの土器。

一方でモチェの人々は、生殖を伴わない性行為も頻繁に行っていたようだ。肛門、口内性交、自慰、そして死者とのまぐわいは、死者の世界に対する供物の一部であったと考えられている。

モチェではさまざまなスタイルで性行為が行われていた。

モチェではさまざまなスタイルで性行為が行われていた。

性病にかかった人まで土器のモチーフにしてしまうモチェの人々。見事な写実性に加え、どこかユーモアにあふれるこの表現力はまさしく芸術といえよう。

こちらまで痒みが伝わってきそう!

こちらまで痒みが伝わってきそう!

それにしてもこの満足げな表情といったら!互いに「おつかれさま~」と労っているのだろうか、それとも楽しくて仕方がないのだろうか。“エロティック”という言葉のイメージからはかけ離れたあっけらかんとした表現に、どの観光客もただただ笑うしかないようだ。

恐らくこのギャラリーで一番人気と思われる土器。それにしてもなんと清々しい笑顔だろう。

恐らくこのギャラリーで一番人気と思われる土器。それにしてもなんと清々しい笑顔だろう。

ラルコ博物館をおすすめする理由 その4

古代アンデス文明の洗礼を受け、中には軽く目眩を覚える人もいるかもしれない。そんな時は館内のカフェレストランで一息つこう。美食の都リマでもトップクラスの人気を誇るこのカフェレストランは、中庭を挟んで展示室の向かい側にある。サンドイッチやパスタ類から、本格的なペルー料理までメニューも豊富。季節の花が咲き乱れる美しい中庭を眺めながら、世界が注目するペルー料理に舌鼓を打つ。ラルコ博物館は、知識欲と食欲の両方を満たしてくれる。

ワインリストも充実のカフェレストラン。

ワインリストも充実のカフェレストラン。

ラルコ博物館をおすすめする理由 その5

ラルコ博物館は年中無休、日中忙しい旅行者がアクセスしやすいよう開館時間は夜10時まで。15人のグループツアーなら、1人あたりわずか10ソレス(約340円)で英語ガイドを頼むことができる。館内は撮影可(フラッシュは禁止)、フリーWi-Fiなのもありがたい。

大型荷物の一時預かりサービスも見逃せない。ペルー発日本行きのフライトは夜中の便が多いため、旅行最終日の過ごし方に悩む人は少なくない。観光後再びホテルに戻って荷物を受け取るのが億劫な旅行者は、迷わずラルコ博物館へ。館内の受付でスーツケースを預け、気軽に館内を見学。前述のカフェレストランでペルー最後の夕食を堪能したら、受付に手配してもらったタクシーで空港へ向かおう。比較的空港に近いので、時間調整しやすいのも魅力だ。

幅広い情報公開と、きめ細やかなサービスで名高いラルコ博物館。ペルーの文化振興に向き合う真摯な態度は、わかりやすく丁寧に構成されたウェブサイトを見れば一目瞭然だろう。リマには旅行者に足を運んでほしい博物館がたくさんある。でも、あえてひとつだけ選ぶなら、私はラファエル・ラルコ・エレーラ博物館を推したい。

【Museo Rafael Larco Herrera】
住所:Av. Simón Bolivar 1515, Pueblo Libre, Lima
URL:www.museolarco.org

文・写真/原田慶子(ペルー在住ライター)
2006年よりペルー・リマ在住。『地球の歩き方』(ダイヤモンドビッグ社)や『トリコガイド』(エイ出版社)のペルー取材・撮影を始め、ラジオ番組やウェブマガジンなど多くの媒体でペルーの魅力を紹介。海外書き人クラブ(http://www.kaigaikakibito.com/)所属。

 

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