取材・文/渡辺陽

可愛いなと思って飼っていたペットの猫が、ある日突然牙をむき、爪を立てて人間や同居している動物に襲いかかる。「そんなことあるわけないでしょう」と思われるかもしれません。猫の問題行動で最も深刻な悩みが『猫の八つ当たり』なのだそうです。動物行動学がご専門の村田香織先生(以下、村田)にお話を伺いました。

■ある日突然猫が豹変する

リビングで楽しそうに動き回る茶トラの猫ちゃん。尻尾を立てて、ゴロゴロいいながらすり寄ってきます。「ニャ~」と鳴いて甘える、その愛くるしい姿には、攻撃性のかけらもありません。ところが、スマホの地震速報の音が鳴った途端、猫は豹変! 飼い主に向かって、「シャーッ」と言って牙を向き、背中の毛を立てたり、尾を膨らませたりして敵意を示すのです。うっかり触ろうものなら、本気で襲いかかられて、血まみれになることは間違いありません。この猫の場合は、地震速報の音が気にいらないのですが、スマホに当たるのではなく、明らかに怒りの矛先は飼い主に向けられています。

―――普段は可愛い猫も、こうなったら生きる凶器ですね

村田 「そうですね。こうした行動を猫の『転嫁性攻撃行動』と言います。直接の原因となる相手ではなく、近くにいる人や動物に攻撃をしかけるので、『猫の八つ当たり』と言っていいでしょう。なぜこのような八つ当たり行動に出るのかは分かっていませんが、視覚や嗅覚、聴覚を刺激された時に、突然態度が豹変します」

■猫は怒りや不快感を八つ当たりして解決する

―――「転嫁」ということは、猫は、事実とは関係ない第三者に当たり散らすということでしょうか。

村田 「人間でも、何か気に食わないことがあったり、間が悪かったりすると、全然関係ない人やモノに当たることがありますよね。猫の場合は、何らかの原因で感情がたかぶると、こうした行動に出ることがあります。たとえば、動物病院で嫌なことをされた時や、飼い主が他の猫の匂いをつけて帰ってきた時、猫同士ケンカしていたら、飼い主が仲裁に入ってきた時など、イラッとした気持ちを、手加減することなく第三者にぶつけてきます。猫は情動をコントロールするのが、非常に苦手なんです」

―――人間だけでなく、他の同居している動物を傷つけることもあるのでしょうか。

村田 「猫が八つ当たりする相手は、人間とは限りません。猫や犬に八つ当たりすることもあるので、そういう場合は攻撃するのをやめさせないといけません。しかし、興奮している猫を素手で触るのは非常に危険です。怪我をしないように注意しながら、毛布や大きめのタオルを被せて落ち着かせましょう。他の動物や人間が傷つかない限り、自然に猫が落ち着くのを待つのが一番です」

■猫が興奮する状況を作らないようにする

―――八つ当たりは一度きりで終わるのでしょうか。

村田 「自然におさまることもありますが、なかなか治らないこともあります。たとえば、電話がかかってきた時に嫌いな猫が部屋に入ってきて、猫が飼い主を攻撃したとします。すると、嫌いな猫がいようがいまいが、電話が鳴るたびに飼い主に八つ当たりすることがあります。電話の音を嫌なことと関連付けて、反応してしまうんです」

―――もしも猫が八つ当たりをした場合、どうすればいいのでしょうか。

村田 「まずは、猫が反応するものや状況を突き止めます。スリッパが原因ならスリッパを見せないようにする、他の猫が原因なら、猫同士接触しないようにします。モノや他の動物、攻撃対象になる人、服装、匂い、音など、あらゆる原因を考えて、猫が興奮するような状況を作らないようにしましょう」

―――そのような状況を作るのが難しいこともあるのでは?

村田 「そういう場合は、猫が好きなものと苦手な状況を組み合わせて慣らしていく『行動修正』を行います。重症の場合は、危険なので猫を隔離したほうがいいでしょう。上下運動ができるケージを用意し、大好きなおやつやキャットフードを入れて、自然に入るのを待ちます。無理矢理入れてはいけません。一番下の段にトイレを設置し、高いところに食事と水を設置、別の場所にベッドを用意して、ケージの中で生活できるようにするといいでしょう。ケージの掃除をする時は、キャリーや別のケージに移動させます。その時も、猫に触らず、おやつなどを使って自ら入るようにします。猫の八つ当たりは危険なので、猫の行動に詳しい獣医師にご相談ください」

普段は可愛い猫でも、本気で牙をむかれたらかないません。突然、猫が興奮して八つ当たりしてきたら、猫に近づかないようにして落ち着くのを待ちましょう。それから原因を考え、猫が反応する状況を回避します。


指導/村田香織先生
獣医師、もみの木動物病院(神戸市)副院長。イン・クローバー代表取締役。日本動物病院協会(JAHA)の「こいぬこねこ教育アドバイザー養成講座」メイン講師。「犬の幼稚園」や「パピークラス」などを主催、人とペットが幸せに暮らすための獣医学と動物行動学に基づいた知識を広めている。著書「こころのワクチン」など。

取材・文/渡辺陽(わたなべ・あきら)
大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。小学館「サライ.jp」、文藝春秋「文春オンライン」、朝日新聞社「telling」、「Sippo」で執筆。自身は、健康のために鍼灸とマッサージに通う。

 

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