取材・文/わたなべあや
京都・三条の駅を降りると、鴨川のゆったりとした流れが眼前に広がり、夏であれば納涼床が並ぶ河岸が目にも涼やか。観光客で賑わう通りをそれ、ひっそりとした佇まいの路地に入ったところに、バー『文久(ぶんきゅう)』があります。
わびさびの美意識がしつらえにも
「文久」は、2軒隣の老舗花屋「花政」の五代目、藤田修作さんが、20年前に始めたバー。花政が文久元年に創業したため、「文久」と名付けたそうです。
小さな表札が目印で、狭い間口から入り、暖簾をくぐると細い石畳の廊下が奥へと続きます。いわゆる「うなぎの寝床」という造りです。
突き当りの引き戸を開けると、鴨川あたりの喧騒を忘れさせる、黒を基調にしたしっとりと落ち着いた空間が。大きく、がっしりとしたテーブルを囲むように、ゆったりと椅子が配されています。
ボトルやグラスは壁の後ろに隠れているので、店内はいたってシンプル。壁面に花を一輪飾れるようになっているのは、花政ならではの演出です。取材に訪れた日は、オーナーの藤田さんが、鉢植えにしていた純白の山ゆりを惜しげもなく手折り、壁に飾ってくれました。
漆黒の闇に、ひっそりと、灯りのように浮かび上がる山ゆりの花。藤田さんの手にかかると、まるで再び命を吹き込まれたかのように美しさを増すのでした。
オリジナルカクテルを楽しむ
ニューヨークタイムズで紹介されたのを機に、外国人の客が訪れることも多いという文久。ニッカ カフェモルトウイスキーなど、日本の特色あるウイスキーも各種取り揃えています。もちろん、世界的な潮流にも敏感で、この道20年というバーデンダーの坂内さんは、好みや希望を伝えると、客に合わせてカクテルを考案してくれます。
そんな坂内さんに今回出したお題は、「京都の夏」。「クリスチャン・ドルーアン(Christian Drouin)」というフランス産のりんごのジンをベースに天の川をイメージしたカクテルは、紫とブルーのグラデーションが美しく、はじけるソーダが爽やか。青もみじが涼を感じさせ、夜空を彩る天の川のようにドライフルーツソルトがきらめきます。
ついつい頼んでしまったもう一杯は、ウォッカとクランベリージュースのカクテル。とろりとしたクランベリージュースが底に沈み、赤のグラデーションを描くさまは、熱く燃える情熱的な夏を思い起こさせます。
バーでありながら、和の趣が随所に散りばめられた「文久」。うなぎの寝床になっていると、少し入りにくさも感じますが、たまには冒険を。しっとり古都の夜を楽しんでみませんか。
【訪ねてみたい京都のバー】
文久
京都府京都市中京区恵比須町534
TEL/075-211-1982
営業時間 18:00~
定休日 木曜日
取材・文/わたなべあや
1964年、大阪生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。2015年からフリーランスライター。最新の医療情報からQOL(Quality of life)を高めるための予防医療情報まで幅広くお届けします。趣味と実益を兼ねて、お取り寄せ&手土産グルメも執筆。
取材協力/平井直人(「ダイズ」代表取締役)