取材・文/わたなべあや

照りつける太陽やじっとりと汗ばむ湿気にうんざりしながらも、ふと傍らの緑に目をやると涼を感じる。そうしたひとときは、心まで潤すことができる貴重な時間です。山野草の寄せ植えや生け込みを、楽しんでみてはいかがでしょうか。

花政の店頭に掲げられた燈籠。店名の書は、藤田さんが影響を受けた栗崎昇氏のもの

今回は、文久元年に創業した京都の老舗花屋「花政」の五代目主人・藤田修作さんに、夏におすすめの山野草について教えていただきました。

「花政」店内には、よく手入れされた山野草が並ぶ。

「花政」の五代目主人・藤田修作さん

鉢植えにして愛でる夏の山野草

育てやすく、一種類でも絵になるものを選ぶなら「八角蓮(はっかくれん)がおすすめです。台湾や中国の山深い場所に自生していて、蓮のような葉に角があるため、その形から八角蓮と呼ばれています。

青もみじと八角蓮の寄せ植えが涼を誘う

濃い緑の照り葉、肉厚の緑の葉は、二対になって成長するのですが、背丈は50cm以上にもなる大振りな山野草です。やがてピンクや濃い紫、白の小さな花を咲かせるのですが、その後、球形の実を結実させます。

花だけでなく、実もほんのり色づくのがまた一興。寄せ植えにするのもいいのですが、八角蓮だけでも絵になるので、気に入った器に植えて楽しむのもいいでしょう。足元には苔を入れると、より一層涼やかで美しい寄せ植えになります。あまり日当たりのいいところは好みません。20度前後のところが適しています。

野趣あふれる趣にしたいなら、青もみじがおすすめ。初夏に白い花穂をつける「白糸草(しらいとそう)」も寄せ植えしやすい山野草です。

生けこんで室内で楽しむ夏の山野草

山野草は寄せ植えにしてもいいのですが、切り花にして花器に生けるのも一興。植木鉢や花器は、花を引き立てるために、色味を抑えた素朴な質感のものを選びましょう。

「大山蓮花(おおやまれんげ)は、関東以南~九州、四国の山に自生する落葉低木樹で、奈良県の大台ケ原や大峰山に群生しています。5~7月にかけて白く大きな花がうつむき加減に咲き、その美しさから「森の貴婦人」とも呼ばれています。

鮮やかな緑との対比も見事。利休が好んだ「利休七選花」のひとつで、茶花としてもよく使われるのですが、ふっくらとした蕾のまま生けられます。自然のままの枝ぶりが美しいので剪定しないでおきますが、あまりにも生い茂ってきたら、落葉期に枝をさばくといいでしょう。

清楚ながらも存在感のある「大山蓮華」

「山芍薬(やましゃくやく)」は、春に花咲く山野草です。茎の先端につく、ふっくらとした形の花は白く可憐。紅山芍薬はピンクと白のグラデーションが見事です。

この山芍薬は花もいいのですが、夏に結実した実も存在感にあふれています。実は、赤の実と黒の実があるのですが、割れ目からちらっと見える深みのある紅が艶やか。黒い実は、表皮の薄皮をむいて蒔くと、春に発芽します。葉の形も面白く、開花までは3、4年かかりますが、じっくり待つかいがある山野草です。

ちらりと見える赤い実が美しい(花:藤田修作/花器:澤清嗣作/敷板:泰山堂)

「ウチョウラン」は、青森県から鹿児島県まで幅広く分布している山野草で、岩場や渓谷、老木などに自生しています。初夏に花を白やピンクの開花させるのですが、深い紫の花も凛とした風情があります。

このウチョウランのように花茎が細く、小さな花を生ける時は、花器に入れる水はほんの少しだけ入れるといいでしょう。鉢植えにする場合は、春と秋は、日当たりの良い場所で育てますが、夏は、日陰の風通しの良いところを好みます。たった一輪飾るだけでも、目に優しく、心にしみる花です。

ウチョウランの美しさを花器が引き立てる(花:藤田修作/花器:澤清嗣作/敷板:泰山堂)

最後にご紹介する「山荷葉(さんかよう)は、北海道から本州中部の湿地帯に分布する山野草です。初夏から7月にかけて白い花をつけるのですが、花びらが雨に濡れると透明になり、美しさを増します。

中央に切れ込みの入った葉の形も個性的で、薄い緑が涼を誘う山野草です。花期が終わった後には、薄紫の実をつけるのですが、葉と実だけでも十分絵になります。

切れ込みのある葉と薄紫の実が表情豊か(花:藤田修作/花器:澤清嗣作/敷板:泰山堂)

*  *  *

以上、今回は京都の老舗花屋「花政」の五代目主人・藤田修作さんに、夏におすすめの山野草について教えていただきました。

「花、そしてしつらえなどすべてのものは生き様を表す」と藤田さんは言います。軸や器など、身の回りにあるものを上手に使い、自身を表現すること。すなわち、それこそが花を楽しむことなのです。入梅から盛夏へと、好みの山野草を探して、夏を過ごしてみませんか。

指導/藤田修作(ふじた・しゅうさく)
文久元年創業の老舗花屋「花政」の主人。旧態然とした京都の花の世界に違和感を持ちつつ後を継ぐ。挿花家(そうかか)で茶人でもある栗崎昇に出会い、独創的な花の世界に魅了され、新境地を開く。京都の老舗漬物店「村上重」をはじめ、京都「和久傅(わくでん)」、国指定重要文化財杉本家住宅などで、既存の価値観にとらわれない生け込みを披露している。先ごろ、その集大成とも言える書籍「花政のしごと」(青幻舎)が刊行された。

『花政』
京都府京都市中京区河原町通三条上る東入恵比須町433
075-231-2621
営業時間:9:00~19:30
年中無休(正月の三ヶ日を除く)
http://hanamasa-kyoto.com/

取材・文/わたなべあや
1964年、大阪生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。2015年からフリーランスライター。最新の医療情報からQOL(Quality of life)を高めるための予防医療情報まで幅広くお届けします。趣味と実益を兼ねて、お取り寄せ&手土産グルメも執筆。

 

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