夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。火曜日は「暮らし・家計」をテーマに、進藤晶子さんが執筆します。
文/進藤晶子
「でたっ、お稽古マニア!!」と言われたのは、ある対談でのこと。インタビューの名手・阿川佐和子さんに手を叩いて喜ばれたことを覚えています。
小児喘息を治すために4歳で始めたクラシックバレエに始まり、ピアノ、お絵描き、習字、水泳、英会話、声楽、タップダンス、テニス……と、今思えばかなり忙しい小学校から高校時代でした。さらに大学生になってからは日舞にお茶。そうそう、阿川さんに誘われてフラメンコにも通った記憶が(笑)。
長いものは12〜13年続けましたが、1年足らずでギブアップしたものもあります。性に合わないと感じたら無理して続けずに、興味のあることにどんどんチャレンジさせてもらえたのは、本当にありがたいことでした。
私はどうも、子供の頃からコツコツ練習することは苦手だったみたいです。その時その場で、体を動かして表現することが好きなんですね。現在の仕事も何か月もかけて準備するというよりは、本番の一時に集中して作り上げるたぐいのもの。こうしてお稽古歴を振り返ってみると、自分の性分や仕事との共通点などが見えてきて、おもしろいものだと感じます。
結局どれも“特技”と胸を張って言えるような腕前にはならず、「お金と時間を無駄にしたなあ」と残念に思っていました。が、意外とこれらの体験が今、私の助けになっています。
さまざまな分野のトップランナーにインタビューする際、子どもの頃のわずかな体験でも、そこから想像を膨らますと、相手の方のスゴさを痛感します。寝食を忘れるほど、そして身を削る努力が苦にならないほど、その分野を極めることに邁進してこられたプロフェッショナルに、より一層、尊敬の念が湧いてくるのです。
財産を残すより、知識や技術に投資する
「自分への投資は、生きたお金の使い方」。
両親から教えられたことのひとつです。財産を残し与えても、すべて失ってしまうこともある。でも知識や技術として身につけてしまえば、それは誰にも奪われない。そう何度も聞かされてきました。
でも、「怠けている」と判断されると厳しかった……。「ここに座りなさい」と、紙と電卓を取り出し、どれくらいの“投資額”なのか、私にかかる教育費に関して淡々と説明を受けました。お金に敬意を払っていない、生かそうとしていない、と。ひょっとしたら、身の丈にあった範囲の投資を覚えたのは、この時なのかもしれません(笑)。
その後“死に金”もたくさん使ってきたように思います。でも、それも肥やし。失敗してこそ学べることもあるのだと、自分を納得させています。
40代は「心のよりどころ」を探す種まき期間
40代も半ばを過ぎて、生きたお金の使い方が少しずつわかってきたように思います。自分の助けとなることには使い、我慢できるものは排除する。
神経がいら立っている時には、美術館を巡る。良い音楽を聴く。本を読む。最近ではお寺に座禅を組みに行き、心を和ませることも知りました。また悲しいことがあった時には、ちょっと奮発して、とびきりおいしいものを食べてみたりしています。
これからは、年を重ねても楽しめる、「心のよりどころ」を見つけるための種まきの時期だと考えています。
そのひとつとなりそうなのが、以前お話しした、朗読を中心とした活動(第6回)です。メディアを通した発信力とはまた違った魅力があり、毎回、新鮮な発見があります。
加えて最近、ゴスペルを始めました。前回もご紹介しましたが、佐々木かをりさんにお誘いいただいたのがきっかけです。ゴスペルといえば、教会で歌う黒人霊歌。聴くことは好きで、本場ニューヨークで聴いた時には、魂が揺さぶられるような迫力に大感激しました。
でも、それを自分で歌うとなると、「日本人の私が?」「クリスチャンじゃないけれど?」「歌うなんて何年ぶり?」 と、たくさんの「?」が浮かびました。でも、これも何かのご縁。と、練習に参加してみたら……大きな声で歌うって気持ちいい! 佐々木さんは10年近く続けている大ベテラン。天を仰ぎ、手をかざして、歌を捧げていらっしゃる傍らで、私は楽譜を読むので精一杯ですが、これから地道に頑張ります。ハレルヤ!!
「お稽古」という言葉には、どこか「お遊び」というニュアンスも感じられますが、「心のよりどころ」を探す絶好の機会でもあります。職種も肩書きも気にしない仲間との出会い。好きなことだけでつながれる気楽さ。なにより、今後の生活が彩り鮮やかになるとしたら、こんな生きた“投資”はないかもしれません。
文/進藤晶子(しんどう・まさこ)
昭和46年、大阪府生まれ。フリーキャスター。元TBSアナウンサー。現在、経済情報番組『がっちりマンデー!!』(TBS系)などに出演中。