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  1. オリックス・リビング社長、森川悦明氏。「グッドタイム リビング センター南」にて撮影。

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ラオスのお母さんのご飯が伝える、息子への想い(コウケンテツの料理コラム 第10回)

夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。金曜日は「美味・料理」をテーマに、コウケンテツさんが執筆します。

文・写真/コウケンテツ(料理家)

托鉢。ラオスの朝の日常的な風景です。

ラオスの人々って、なんであんなに壁がないんだろう。フィリピンの旅を終えたあとも、テレビ番組のロケでたくさんのアジアの国々を訪れましたが、ラオスでは人と人の間に面白いほど距離感がなくて、驚くばかりでした。

北は中国で、ベトナムとタイに東西で挟まれた、海のない国。こんなにもアジアの大国に囲まれていて、失礼だけれど、地味なイメージ。行く前には、「ラオスなんて、何もないよ」という人もたくさんいました。でも、僕が行って抱いた印象は「豊かな国」。「壁がない」と感じたのは、ラオスの人々は、「人は誰かと繋がらなくては生きていけない」ということをよく分かっているから。やっぱり人間は、社会的存在なのです。

ラオスの名物といえば、バゲットサンド。19世紀半ば、フランス領だったラオスには、当時の食文化の名残があり、今でもあちこちにバゲットをぶらさげたサンドイッチの屋台が並んでいます。内陸ゆえに、良質な小麦が穫れるのだそうです。僕が訪れたのは8年前ですが、バゲットの生地の仕込みは、すべて手間のかかる手ごねでした。外層はパリッパリで、中はモッチモチ。切り込みを入れて、間に紅白なます、春雨のサラダ、レバーパテ、チャーシューを挟みます。バゲットサンドといえば、本場のパリはもちろん、ベトナムにもバインミーがありますが、僕にとってはラオスのバゲットサンドがナンバーワン。そのくらい、おいしかったんです。

とにかく大きくてボリュームたっぷりなので、僕は屋台に並びながら「食べきれるかな…」と心配に。すると、後ろに並んでいたラオス人のおばさんが「ねぇ、半分こしない?」って、いきなり話しかけてきてびっくり。うわっ、壁がないなぁ! 驚きつつも「いいですよ、そうしましょう」と言い、お店の人に半分にカットしてもらいました。

いざ、屋台で買ったものの、道端には食べる場所がない。悩んでいたら、そのおばさんが「一緒に食べよう!」って誘ってくれたんです。「おいでおいで」っておばさんが手招きする先に目をやると、なんとそこはコーヒーショップ。バゲットサンドを手に持ったまま、コーヒーを頼んで、お店に持ちこみ! えっ、いいの!? ドトールのホットドッグを持ちこんで、マクドナルドでコーヒーを買って食べる……みたいな。タブーがない。しかも、さっき初めて会ったおばさんと一緒です。

その後も、壁のなさに驚くばかり。たまたまホームステイさせてもらった家のあった小さな村で、結婚式があるというので、めったにない機会とばかりに、参加させてもらうことにしました。そうしたら、まず驚いたのが、メチャメチャたくさん料理を用意すること! 席数も100席以上あって、村の人を全員呼んでも埋まらないんじゃないか……と心配になるほど。いざ、大宴会が始まってみたら、参列者は見ず知らずの人がいっぱいで、さらに驚かされました。「これから結婚式やるんで、みんなきてくださーい!」って呼びかけると、通りすがりの長距離トラックの運転手が立ち寄って、飲んで食べて、「じゃあね、お幸せに!」って祝福して、去って行く……。食べものも幸せも、みんなでシェアするのが、ラオスの文化なんです。

小さな村の結婚式。写真の料理はほんの一部です。

見知らぬ人との触れ合いだけでなく、親子のやりとりにもを動かされました。

僕が取材させていただいたお母さんには、出家した息子さんがいました。仏教国のラオスでは、男性は一生に一度、出家して修行することで、様々な知識や礼儀作法を学び、社会からの信頼が身につくとされています。しかも、出家をしたとしても、再び俗世間に戻ってきてもいいのだそうです。だから、「一生に一度」。

そのお母さんは、朝起きると鍋に山盛りのスープをつくって、息子の修行先の寺院に毎日、持っていきます。竹の皮に包んで蒸した、モチ米を持っていくこともありました。ラオスの人々の主食なのですが、手で器用にキュッとまるめて食べるのです。ラオスでは、お寺のお坊さんにこうした食べ物を渡すことで、神様にお供えしたことになるようです。僕も何品か料理をつくって、持っていくという経験をさせてもらいました。

でも、お母さんがこうした料理を持っていく本当の気持ちは、息子の無事を確認したいからなのです。遠目でもいいから、元気にやっているかどうか見たい。もちろん修行中だから、話しかけてはいけません。もし、目の前を通ったとしても、決して目を合わせることをせず……。毎日毎日、スープやモチ米を持っていくことだけが、大切な親子の会話なのです。

食べものを分け合うことは、想いをやりとりすることでもある。僕はそんな大切なことを、ラオスの人々から学びました。

文・写真/コウケンテツ(料理家)
1974年、大阪生まれ。母は料理家の李映林。旬の素材を生かした簡単で健康的な料理を提案する。テレビや雑誌、講演会など多方面で活躍中。3人の子どもを持つ父親でもあり、親子の食育、男性の家事・育児参加、食を通じたコミュニケーションを広げる活動にも力を入れている。『李映林、コウ静子、コウケンテツ いつものかぞくごはん』(小学館)、『コウケンテツのおやつめし』シリーズ(クレヨンハウス)など著書多数。

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