そして旨いのは蕎麦だけではない。この店自慢の美酒、「中汲み」を味わってほしい。
これは『澤の井』で知られる地元の酒蔵、小澤酒造の生酒で、極めて少量、製造番号を打って特約の店にのみ配布されるもの。一般には流通していない商品のため、店に納品される荷姿は、一升瓶が古新聞に包まれた形で届けられる。
「中汲み」とは、もろみをしぼるときに、最初に溢れ出す「荒走り」に続いて出てくる酒のこと。味と香りのバランスが最も良いとされ、小澤酒造の「中汲み」は、酵素の働きを止めるなどの目的で行う「火入れ」をしていない。
口に含めば、その香りの華やかさに吐息がもれる。吟醸酒といえば、フルーティーで香り高いことが特徴のひとつだが、その個性に透明感を加えたのが、この酒だといえる。酒米は五百万石で、精米歩合は55パーセント。
『蕎麦 榎戸』は、11時30分から15時まで、昼しか営業しない店だ。夜、酒を飲む蕎麦居酒屋ではないため、酒の売れる量は多くはない。しかし、もとの酒蔵の出荷量が少なく、希少な酒のため、いつまでも飲めるというものでもない。興味をお持ちの方は、早めの訪問をお薦めする。
蕎麦「十割」は945円。「中汲み」は1合840円。売り切れ仕舞いで、定休は水曜日と、第三木曜日である。
■『蕎麦 榎戸』
東京都青梅市裏宿町629 電話0428-21-0822