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カニの旨味と香りが溶け合う傑作蕎麦!福井『たからや』の「蟹豆乳そば」【片山虎之介の蕎麦談義 第1回】

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文・写真/片山虎之介

■福井に花開いた多彩な蕎麦文化

関東には江戸の蕎麦食文化があるが、そこから脊梁山脈を挟んで日本海側、北陸の福井県にも、江戸に負けない豊かな蕎麦の食文化が花開いていることを、ご存じだろうか。

「福井といえば、越前おろし蕎麦」と、鸚鵡返しのように返ってくることが多いのだが、福井の蕎麦は、それだけではない。驚くほど多彩な蕎麦文化が、彼の地にはあるのだ。

たとえば、越前おろし蕎麦の名前の由来となった出来事が、昭和22年にあった。

昭和天皇が福井に行幸された際、せいろ蕎麦を召し上がり、その美味しさにお代わりをご所望された。このとき召し上がった蕎麦は、ありきたりの蕎麦ではない。極上の茶葉を練り込んだ茶蕎麦であった。

さらに、茶蕎麦といえば、さらしなの変わり蕎麦と思いがちだが、さにあらず。この蕎麦は、福井在来の豊かな風味を生かした普通蕎麦をベースにした茶蕎麦だった。

蕎麦の打ち方は、福井伝統の一本棒・丸延し。うまい蕎麦を打つために、蕎麦切りの歴史の初期の時代から行われてきた蕎麦打ちの技法だ。

日本各地に受け継がれてきた一本棒・丸延しの打ち方は、時代が変わり、家庭から麺棒が消えるとともに、忘れ去られていったが、福井にはこの貴重な打ち方が残された。蕎麦は打ち方によって味が変わる。日本蕎麦本来の美味しさが、この地には受け継がれているのだ。

凝りに凝った、せいろ蕎麦の美味しさに、昭和天皇はいたく感心され、二枚目をご所望になったのである。

その後、東京に戻られてからも、ときどき「あの越前の蕎麦は、おいしかった」とおっしゃったという。そこから福井では、地元の蕎麦に「越前蕎麦」と名付けた。

さらに福井では、大根おろしをかける「ぶっかけ」の蕎麦が人気であったため、この食べ方を「越前おろし蕎麦」と呼ぶようになった。これが現在、福井の名物となっている「越前おろし蕎麦」の名前の由来である。

■北陸の美味の饗宴!傑作「蟹豆乳そば」

昭和天皇が召し上がった、せいろ蕎麦の例からもわかるように、福井県には、おろし蕎麦以外の魅力的な蕎麦が、たくさんある。

そもそも福井県民には蕎麦好きな人が多いため、蕎麦店への要求水準も高い。中途半端な味の蕎麦を供する店は、客が寄り付かず、淘汰されてしまう。だから福井の蕎麦店は、どこに入っても外れがない。店同士の競争も熾烈で、美味しい蕎麦を作ろうという意欲にあふれている。日々、様々に工夫されたメニューが、生み出されているのだ。

そうしたメニューのひとつに、今回おすすめしたい「たからや」の「蟹豆乳そば」がある。

時は福井の美味の一方の雄、エチゼンガニが解禁になる季節である。加えて、もうひとつの福井の美味、福井在来の新そばが登場する季節でもある。

福井を代表する、これらふたつの美味しさを、ひとつの器に盛り合わせたのが「蟹豆乳そば」だ。「たからや」オリジナルのメニューで、この蕎麦を目当てに通う常連客も多い。

食せば、蕎麦つゆとして調味した温かな豆乳のうまさに目を見張る。意外とも思える蕎麦とのバランスの良さに驚かされる。そこに、旬のエチゼンガニの旨味と香りが溶け合い、熱い蕎麦をふうふうと吹き冷ましながら、時間を忘れて美味に没頭する至福の一時に遊ぶことができる。

未だかつて体験したことのない蕎麦のうまさが、ここにある。

東京から金沢まで北陸新幹線も伸びた。金沢から福井までは、特急電車に乗り換えて約45分で到着する。喧騒の観光地ではなく、雪が舞い始めた静かな福井の街を訪ねれば、本当の北陸の魅力を堪能することができるに違いない。

【たからや】
福井県福井市新田塚1-25-1
電話0776-26-1175
※「蟹豆乳そば」は要予約

文・写真/片山虎之介
世界初の蕎麦専門のWebマガジン『蕎麦Web』編集長。蕎麦好きのカメラマンであり、ライター。伝統食文化研究家。著書に『真打ち登場! 霧下蕎麦』『正統の蕎麦屋』『不老長寿の ダッタン蕎麦』(小学館)、『ダッタン蕎麦百科』(柴田書店)などがある。

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