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日本酒の世界には、酒米という特別なお米があります。その中でも「雄町」は、江戸時代から続く歴史と独特の個性を持つといわれる酒米です。今回は、この雄町について詳しくご紹介し、日本酒初心者の方にもその魅力を分かりやすくお伝えします。
文/山内祐治
目次
雄町の読み方は“おまち”
雄町の特徴は江戸時代からの歴史と育てにくさ
雄町で造る日本酒は芳醇で複雑な味わいが魅力
雄町米日本酒のおすすめは岡山と京都の名門蔵
雄町と山田錦の違いは野性味と優等生気質
まとめ
雄町の読み方は“おまち”
「雄町」という漢字を見て、正しい読み方に迷う方も多いのではないでしょうか。「雄町」は“おまち”と読みます。これは岡山県岡山市中区にある地名「雄町」に由来しており、この地域で良質な酒米が育てられていることから、この名前が付けられました。
この読み方を知っていると、日本酒店や居酒屋で「“おまち”の日本酒はありますか?」と自然に尋ねることができ、日本酒好きとしての第一歩を踏み出すことができるでしょう。
雄町の特徴は江戸時代からの歴史と育てにくさ
雄町の最大の特徴は、その歴史の古さにあります。1859年、江戸時代に篤農家の岸本甚造さんによって発見されたこの酒米は、品種改良が行われる前の“より源流に近い”酒米として知られています。
現代の酒米と比べて、雄町にはいくつかの特徴があります。まず「芒(のぎ)」と呼ばれる先端の尖った部分が付いており、これは比較的古い形質です。また「晩生(おくて)品種」として分類され、秋が深まった11月頃に収穫される場合もあります。

さらに「長稈(ちょうかん)」と呼ばれる背丈の高さも特徴で、160センチを超え、170〜180センチに達することもあります。この高さは台風などの強風で倒れやすいという弱点を生み出し、栽培を非常に困難にしています。岡山県の農家さん方は、肥培管理や圃場条件の工夫などに加え、稲を支柱やひもで支える農家さんもあり、様々な工夫を凝らして酒米雄町を守り続けているのです。
雄町で造る日本酒は芳醇で複雑な味わいが魅力
雄町を使った日本酒の味わいは、その栽培の困難さに見合った素晴らしさがあります。晩手品種である雄町は、お米が溶けやすく、造りによっては芳醇で深い味わいを生み出しやすいとされています。
特に雄町らしさとして注目されるのは、余韻の長さと複雑な印象です。あまり精米歩合を上げず、お米本来の味わいを活かした造りでは、特にその真価を発揮します。また、雄町を使った熟成酒は、複雑さと柔らかい渋みが溶け合い、満足度の高い味わいを楽しむことができます。
これらを含めた独特の味わいに魅力を感じる愛好家は“オマチスト”とも呼ばれ、他の酒米とは一線を画す個性を愛でています。
雄町米日本酒のおすすめは岡山と京都の名門蔵
雄町を使ったおすすめの日本酒として、まず挙げられるのが岡山県の「酒一筋」です。赤磐地区の雄町を使用し、雄町の良さを存分に引き出した造りで高い評価を得ています。
京都の「玉乃光」も雄町を語る上で欠かせない存在です。1982年から岡山の契約農家と組んで雄町の復活栽培に取り組み、“幻の米”と呼ばれた雄町の復活に寄与しました。純米大吟醸の備前雄町は、その代表作の一つです。
静岡・神沢川醸造の「正雪 純米大吟醸 雄町」も、雄町を使った純米大吟醸として有名で、雄町の太く複雑な印象とは少し趣を異にする、繊細な仕上がりが特徴的です。

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また岡山県で栽培される雄町の中でも、赤磐地区の「赤磐雄町」は、ワインでいうグランクリュのような特別な存在。備前雄町という岡山県産雄町のブランドの中でも、さらに品質が高いとされています。
先ほど紹介した「酒一筋」を醸造している利守酒造も、赤磐雄町を使った銘柄を手掛けており、雄町の最高峰産地の品質を味わうことができます。
雄町と山田錦の違いは野性味と優等生気質
雄町と並んで、もしくは雄町以上に有名な酒米である山田錦との違いも気になるところです。実は山田錦は雄町の系譜を持つお米で、山田錦の父親系統にあたる「短稈渡船(たんかんわたりぶね)」が雄町の系統とされています。つまり、山田錦は雄町の“子孫”の関係にあるのです。
両者ともに晩手品種という共通点がありますが、味わいの傾向には違いがあります。山田錦が柔らかさ、丸さを持つ「優等生気質」になりやすいのに対し、雄町はより旨味が強く、複雑さが出しやすく、野性的な印象を持つと酒蔵では説明されています。
この特徴を活かし、雄町では味わいの強みを前面に出した醸造方法を選択することが多く、結果として個性的で力強い日本酒が生まれやすいのです。
まとめ
雄町は江戸時代から続く歴史ある酒米で、その育てにくさと引き換えに、他では味わえない芳醇で複雑な日本酒を生み出すことが可能です。近年では雄町サミット、という雄町のみのお酒を集めた催しを開催するなど、米、蔵、飲み手を繋いでいます。“おまち”という読み方を覚えて、ぜひ一度その味わいを体験してみてください。
ワインの品種違いのように酒米の違いによる味わいの変化を楽しむことも、新しい日本酒の楽しみ方でもあります。雄町によって造られた日本酒は、きっとあなたの日本酒体験をより豊かにしてくれることでしょう。

山内祐治(やまうち・ゆうじ)/「湯島天神下 すし初」四代目。講師、テイスター。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。ソムリエ、チーズの資格も持ち、大手ワインスクールにて、日本酒の授業を行なっている。また、新潟大学大学院にて日本酒学の修士論文を執筆。研究対象は日本酒ペアリング。一貫ごとに解説が入る講義のような店舗での体験が好評を博しており、味わいの背景から蔵元のストーリーまでを交えた丁寧なペアリングを継続している。多岐にわたる食材に対して重なりあう日本酒を提案し、「寿司店というより日本酒ペアリングの店」と評されることも。
構成/土田貴史











