本格焼酎の大ブームが帰ってきた。香りを引き出す減圧蒸留とうま味をもたらす常圧蒸留を使い分け、新時代の蔵元たちがしのぎを削る現在の焼酎は20年前とは大きく異なる。今、飲むべき焼酎の最前線を追う。

世界に誇れるクラフト麦焼酎を目指す

5代目蔵元、多田匠さん
1994年生まれの31歳。幼少の頃から蔵を継ぐ将来を自覚し、進学先の上智大学では「クラフトな焼酎造りに通じるマイノリティ的な学問を志向して」社会福祉学を専攻。Webマーケティング専門の広告会社勤務を経て、蔵に戻ったのはコロナ真っ只中の2021年。「クラフトマン多田」の特約販売店獲得に向けて営業に駆け回り、人気銘柄に押し上げた立役者でもある。

「振り切ったもの造りからしか新しい未来は生まれません」

右から“究極のペアリング体験”がテーマの食中酒「クラフトマン多田」シリーズより『スパニッシュオレンジ』25度720mL(以下同)、1430円。『キャンティブラウン』1705円、ソーダ割り専用として多田さんがリブランディングした『天盃炎ラベルVer5.0』1320円。二次仕込みの水を焼酎に代えて仕込んだ貴醸酒タイプのスピリッツ『ディスティラリーコレクションNo.2230-再醸仕込みTHE FIRST-』62度500mL、1万1000円。

見渡すかぎり新緑の麦畑。青々とした穂波の向こうに、白壁の酒蔵と「天盃(てんぱい)」の文字が見える。蔵のある福岡県朝倉郡筑前町は九州一の穀倉地帯、筑紫平野の北端にあたる。とりわけ麦焼酎の原料となる二条大麦の一大産地であることを、現地を訪れて初めて知った。

「文化的ルーツでいえば、福岡の焼酎は日本酒の酒粕が原料の“粕取り”が主流です。でも、うちの蔵では半世紀以上前から、地産の大麦100%の焼酎造りを続けてきました。異色といってよいと思います」

そう言って出迎えてくれたのは、5代目専務として令和の酒造りと経営の前線に立つ多田匠(ただ・たくみ)さん。快活で闊達な話しぶりに、彼の手掛けた麦焼酎の味のイメージが重なる。自らが酒質設計に携わり、ブランディングも手がけたという代表作『クラフトマン多田 スパニッシュオレンジ』の溌剌としてクリア、でも旨みの芯はぶれない飲み口。「酒は人なり」の金言を久しぶりに思い出した。

二次仕込み2日目の『クラフトマン多田キャンティブラウン』のもろみ。清酒酵母由来のフルーティで甘やかな香りがふわりと立つ。
蒸留後の原酒。貯蔵タンクに移し、1年寝かせて瓶詰めする。

3世代でつなぐ革新のバトン

「天盃」の創業は明治31年。“異色”の系譜は、多田さんの祖父にあたるパワフルな3代目に端を発する。

たとえば、ウイスキー同様の2回蒸留を可能にした自社開発の常圧蒸留器。米麹ではなく大麦麹で仕込み、地元産大麦以外の原材料は使わない完全無添加の焼酎造り。量より質を標榜し、焼酎用ではなく清酒用酵母を使う選択。昭和の時代に3代目が打った斬新にして本質を突く革新の数々は、すべて現在の「天盃」の基盤になっている。

そして、進取のDNAを濃く受け継いでいるに違いない多田さんは、「伝統とは守るものではなく創るもの。振り切ったもの造りからしか、新しい伝統は生み出せない」と頼もしく言い切る。土台にある思いは、ひとつ。3世代にわたって共有されてきた「世界に誇れる麦の蒸留酒を、ここから造る」という強い信念である。

大麦へのリスペクトを表現

もはや「天盃」のアイデンティティともいえる革新は目下、4代目の父、格(いたる)さんとのタッグのもとで営々と更新中。新しい商品を構想するとき、あるいは日々の造りを重ねる中で、ともに大切にしている指標がある。大麦の旨さを究めるということ。

「麦焼酎の香ばしさというと“麦チョコみたいな”とよくいわれますが、自分はちょっと違うと思っていて」と首を傾(かし)げる多田さん。重要なのは大麦の真価であるはずの甘み、コク、深みを引き出すこと。要となるのが、伝家の宝刀である常圧2回蒸留の技術だという。

他所では3時間程度で終わるところを、低めの火力で7~8時間かけて2度の蒸留にかけ、大麦の旨みとコクのエキスをじんわり濃縮させるのが天盃流。

「蒸留中は、加熱温度の微調整や蒸気のモニタリングのために、父と交代で蒸留器に張り付きます。経験と熱量あっての人間業(わざ)で、最も造り手の“人”が出る工程。醸造だけで完結しない焼酎造りの本質が、ここにあると思っています」

「“香ばしさ”よりも大麦の甘さとコクを表現する焼酎でありたい」

日本酒の手法を取り入れた独特の醸造法にも、「常識を妄信しない天盃流」が、くっきり。清酒酵母を使い、生酛製法で仕立てる乳酸発酵もろみは、焼酎ではありえない12~13℃の超低温で管理。香りや味を引き出すために、水と麦麹と酵母を別の20Lタンクに立ててスターターとする“ゼロ次仕込み”の手間をかける。
酒蔵内でひときわ威容を誇る2台のオリジナル常圧蒸留器。伝えたい香りや味わいを透明の液体にどう落とし込むか、緻密なチューニングを含む蒸留技術が必要となるところ。
麹造りと掛け麦の蒸しを兼ねるドラム式製麹機。
原酒の割り水には、敷地内の2か所から湧き出る伏流水を使用。水脈も硬度も異なる2種類の水を、表現したい酒質に合わせて使い分ける。

多田さんが描く未来には、自身の体験を軸とする新しい焼酎像も含まれる。先述の「クラフトマン多田」シリーズの中でも、赤ワイン的なペアリングの相性を意識した銘柄『キャンティブラウン』しかり。日本酒の手法を取り入れた再醸仕込みのスピリッツしかり。異ジャンルの生産者同士の共感からは、コーヒーや胡椒のリキュール類も生まれた。やっぱり異色の顔ぶれだ。若き5代目の革新は、麦焼酎にどんな新風を吹かせてくれるのか。もはや楽しみしかない。

天盃

明治31年の創業。年間生産量は400石ほど。4代目の父と5代目の長男、母の3人を中心に蔵を切り盛りする家族経営で、麦焼酎一筋を貫く。
酒蔵の周囲は一面の麦畑。4月~5月の麦秋の季節には黄金色一色に染まって美しい。

福岡県朝倉郡筑前町森山978
電話:0946・22・1717
https://www.tenpai.co.jp/

博多の老舗で、水炊きとソーダ割りを

博多味処いろは本店

多田さんが足繁く通う博多の老舗水炊き店『博多味処いろは本店』の「地鶏り水炊き」1人前5500円、「クラフトマン多田」ソーダ割り605円。
店主の原田隆史さんは、自身が『クラフトマン多田スパニッシュオレンジ』の大ファン。「店自慢のスープのコクがありつつあっさりした旨み」との鉄壁のペアリングを推す。「みかんを使う自家製ポン酢の相性も抜群です」。福岡生まれの水炊きと麦焼酎のタッグ、ぜひお試しを。

福岡市博多区上川端町14-27 いろはビル
電話:092・281・0200
営業時間:火曜~土曜17時~23時(最終注文22時)、日曜17時~22時(最終注文21時)
定休日:月曜
交通:地下鉄中州川端駅より徒歩約3分

取材・文/渡辺菜々緒 撮影/繁延あづさ

サライ2025年7月号大特集は『夏に沁み入る本格「焼酎」』

 

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