本格焼酎の大ブームが帰ってきた。香りを引き出す減圧蒸留とうま味をもたらす常圧蒸留を使い分け、新時代の蔵元たちがしのぎを削る現在の焼酎は20年前とは大きく異なる。今、飲むべき焼酎の最前線を追う。
世界に誇れるクラフト麦焼酎を目指す

1994年生まれの31歳。幼少の頃から蔵を継ぐ将来を自覚し、進学先の上智大学では「クラフトな焼酎造りに通じるマイノリティ的な学問を志向して」社会福祉学を専攻。Webマーケティング専門の広告会社勤務を経て、蔵に戻ったのはコロナ真っ只中の2021年。「クラフトマン多田」の特約販売店獲得に向けて営業に駆け回り、人気銘柄に押し上げた立役者でもある。
「振り切ったもの造りからしか新しい未来は生まれません」

見渡すかぎり新緑の麦畑。青々とした穂波の向こうに、白壁の酒蔵と「天盃(てんぱい)」の文字が見える。蔵のある福岡県朝倉郡筑前町は九州一の穀倉地帯、筑紫平野の北端にあたる。とりわけ麦焼酎の原料となる二条大麦の一大産地であることを、現地を訪れて初めて知った。
「文化的ルーツでいえば、福岡の焼酎は日本酒の酒粕が原料の“粕取り”が主流です。でも、うちの蔵では半世紀以上前から、地産の大麦100%の焼酎造りを続けてきました。異色といってよいと思います」
そう言って出迎えてくれたのは、5代目専務として令和の酒造りと経営の前線に立つ多田匠(ただ・たくみ)さん。快活で闊達な話しぶりに、彼の手掛けた麦焼酎の味のイメージが重なる。自らが酒質設計に携わり、ブランディングも手がけたという代表作『クラフトマン多田 スパニッシュオレンジ』の溌剌としてクリア、でも旨みの芯はぶれない飲み口。「酒は人なり」の金言を久しぶりに思い出した。


3世代でつなぐ革新のバトン
「天盃」の創業は明治31年。“異色”の系譜は、多田さんの祖父にあたるパワフルな3代目に端を発する。
たとえば、ウイスキー同様の2回蒸留を可能にした自社開発の常圧蒸留器。米麹ではなく大麦麹で仕込み、地元産大麦以外の原材料は使わない完全無添加の焼酎造り。量より質を標榜し、焼酎用ではなく清酒用酵母を使う選択。昭和の時代に3代目が打った斬新にして本質を突く革新の数々は、すべて現在の「天盃」の基盤になっている。
そして、進取のDNAを濃く受け継いでいるに違いない多田さんは、「伝統とは守るものではなく創るもの。振り切ったもの造りからしか、新しい伝統は生み出せない」と頼もしく言い切る。土台にある思いは、ひとつ。3世代にわたって共有されてきた「世界に誇れる麦の蒸留酒を、ここから造る」という強い信念である。
大麦へのリスペクトを表現
もはや「天盃」のアイデンティティともいえる革新は目下、4代目の父、格(いたる)さんとのタッグのもとで営々と更新中。新しい商品を構想するとき、あるいは日々の造りを重ねる中で、ともに大切にしている指標がある。大麦の旨さを究めるということ。
「麦焼酎の香ばしさというと“麦チョコみたいな”とよくいわれますが、自分はちょっと違うと思っていて」と首を傾(かし)げる多田さん。重要なのは大麦の真価であるはずの甘み、コク、深みを引き出すこと。要となるのが、伝家の宝刀である常圧2回蒸留の技術だという。
他所では3時間程度で終わるところを、低めの火力で7~8時間かけて2度の蒸留にかけ、大麦の旨みとコクのエキスをじんわり濃縮させるのが天盃流。
「蒸留中は、加熱温度の微調整や蒸気のモニタリングのために、父と交代で蒸留器に張り付きます。経験と熱量あっての人間業(わざ)で、最も造り手の“人”が出る工程。醸造だけで完結しない焼酎造りの本質が、ここにあると思っています」
「“香ばしさ”よりも大麦の甘さとコクを表現する焼酎でありたい」




多田さんが描く未来には、自身の体験を軸とする新しい焼酎像も含まれる。先述の「クラフトマン多田」シリーズの中でも、赤ワイン的なペアリングの相性を意識した銘柄『キャンティブラウン』しかり。日本酒の手法を取り入れた再醸仕込みのスピリッツしかり。異ジャンルの生産者同士の共感からは、コーヒーや胡椒のリキュール類も生まれた。やっぱり異色の顔ぶれだ。若き5代目の革新は、麦焼酎にどんな新風を吹かせてくれるのか。もはや楽しみしかない。
天盃


福岡県朝倉郡筑前町森山978
電話:0946・22・1717
https://www.tenpai.co.jp/
博多の老舗で、水炊きとソーダ割りを
博多味処いろは本店


福岡市博多区上川端町14-27 いろはビル
電話:092・281・0200
営業時間:火曜~土曜17時~23時(最終注文22時)、日曜17時~22時(最終注文21時)
定休日:月曜
交通:地下鉄中州川端駅より徒歩約3分
取材・文/渡辺菜々緒 撮影/繁延あづさ

