南九州の土壌で育った黄金千貫で全量仕込む。『一刻者(いっこもん)』とは土地の言葉で頑固な人を意味する。
黒壁蔵工場長の髙橋悠典さん。清酒、焼酎の製造管理や開発に携わり、商品開発(焼酎)の部長を経て’25年より現職。

宮崎県高鍋町は、九州南東部、海沿いの小さな町である。東に日向灘を望み、背には名峰・尾鈴山を擁する。その山裾には美しい緑の畝が並ぶ畑が点在している。

秋のある日、畑の端から次々に掘り上げられていくのは、まるまると太ったサツマイモ。金色に輝く皮の色と収量のよさから黄金千貫と名付けられたこの芋は、九州の芋焼酎づくりには欠かせない。

この日収穫された芋が届いたのは、高鍋町にある宝酒造の「黒壁蔵」。全量を芋で仕込む本格芋焼酎『一刻者(いっこもん)』はこの蔵で生み出される。芋焼酎とはいえ麹には米を用いるのが一般的で、同社の芋焼酎にも米麹を使用した商品は存在する。しかし『一刻者』は、麹も芋を使ってつくると工場長の髙橋悠典さんはいう。

「当蔵の芋麹は、黄金千貫を賽の目に切り、麹菌を植え付けます。これを用いて、芋焼酎の酒母を仕込むのです」(髙橋さん)

収穫された芋は、すぐに黒壁蔵へと運ばれる。洗浄ののち、手作業で芋の選別をしながら、包丁で両端を切り落としていく。
賽の目に切った芋に麹菌を植え付ける製麹(せいきく)作業。栗や洋菓子のような芳香が漂う。芋麹ができあがるまでに40時間ほどかかる。
芋麹は「外硬内軟」の状態が最良とされると髙橋さんはいう。

タンクの中のもろみからは、栗の甘さに焦がしバターの香ばしさを加えたような芳香が立ち上る。

「芋麹を使う試みは、焼酎業界ではほとんどなされていませんでした。かつて芋焼酎は、芋味が全面に出ているほうがよいとされており、当社も1999年頃に、芋味の強い酒を狙い開発を始めたのです。しかしできあがったのは思いのほか美しく華やかな酒でした」

市場には珍しくとも、開発チームはこれを独自性と捉え、同蔵の芋焼酎の主軸に据えていくことを決めた。その後ほどなくして美しく香り高い酒を中心に本格焼酎のブームが始まることになる。

こうして仕込まれた焼酎は、蔵の敷地内にある「石蔵」と呼ばれる倉庫で寝かされる。

「2019年に、品質のさらなる向上を目指して建設した貯蔵設備です。壁には天然の石材を用い、年間を通じて温度変化の少ない蔵でじっくりと熟成させるのです」(髙橋さん)

宝酒造黒壁蔵に新設された貯蔵庫「石蔵」。壁に天然石を用いることで、庫内の温度変化を和らげ、湿度も一定に保たれる。
石蔵には、タンクや素焼きの甕(かめ)が並ぶ。熟成された焼酎は、芋のほっこりした甘みに、とろりと舌に乗るなめらかさが加わるという。

飽くことなき品質向上へのこだわり。黒壁蔵では、次世代の焼酎づくりに向けて、新しい芋の品種の開発にも成功した。その名も「百ノ香(ひゃくのかおり)」。紫系統の芋の華やかな芳香と、橙色の芋の果実様の香りを併せ持つ。この芋を用いた新たな『一刻者』を現在開発中というから楽しみだ。

新品種「百ノ香」。紫系の芋と橙系の芋を掛け合わせて開発された。華やかでフルーティな新時代の焼酎へ期待がかかる。

古来、一徹に励む人をこの地では「いっこもん」と呼ぶ。ひと筋に酒の未来へ歩みを進める、一刻者の本領がこの酒にはある。

全量芋焼酎 『一刻者(いっこもん)』

南九州産の芋(黄金千貫)全量で仕込み石蔵で貯蔵させた。芋の甘さに、すっきりとした上品な酒質が身上。25度、720ml 1681円。

問い合わせ先/宝酒造お客様相談室 電話:0120・120・064(9時〜17時/土日祝日を除く)

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