日光東照宮の三猿の彫刻

北関東に位置する栃木県は、近年日本酒愛好家の間で大きな注目を集めています。江戸時代から街道筋として栄えた地理的背景を持つ栃木は、東京からのアクセスの良さを活かし、早くから消費者のフィードバックを酒造りに反映させてきました。その結果、北関東で頭一つ抜けた存在として、多彩で高品質な日本酒を生み出し続けています。

栃木の日本酒の最大の魅力は、そのバラエティの豊富さにあります。爽やか、フルーティー、熟成、そして米の旨味を活かしたものまで、様々なタイプの日本酒が揃っており、初心者から上級者まで幅広く楽しめるのが特徴です。

文/山内祐治

目次
栃木の日本酒酒蔵で押さえておきたい代表的な酒蔵
栃木の日本酒が金賞を多数受賞する理由
栃木の日本酒でフルーティな味わいを楽しむなら
栃木の日本酒「鳳凰美田」の魅力と特徴
栃木の日本酒「仙禽」が切り開いた新しい日本酒の世界
栃木の日本酒「惣誉」が表現する米の旨味
まとめ

栃木の日本酒酒蔵で押さえておきたい代表的な酒蔵

栃木県には多くの優秀な酒蔵が存在しますが、特に注目すべき蔵元をご紹介します。

まず挙げられるのが「仙禽(せんきん)」と「鳳凰美田(ほうおうびでん)」です。「仙禽」は爽やかな酸を特徴とするお酒で知られ、最近は“江戸返り”という温故知新なリブランディングが話題です。「鳳凰美田」は北関東でフルーティーな日本酒の先駆けとなった酒蔵として有名です。

他にも「大那(だいな)」「旭興(きょくこう)」「惣譽(そうほまれ)」など、それぞれに個性的な特徴を持つ銘柄が数多く存在します。最近では「朝日榮(あさひさかえ)」や「七水(しちすい)」といった注目の銘柄も登場し、栃木の日本酒シーンをさらに盛り上げています。

特にユニークなのは「東力士(あずまりきし)」で、こちらは洞窟の貯蔵庫で低温熟成させる“洞窟酒蔵”という独特の手法を取り入れており、熟成系の日本酒愛好家から高い評価を得ています。

栃木の日本酒が金賞を多数受賞する理由

栃木県の日本酒は、全国新酒鑑評会で数多くの金賞を受賞しており、その品質の高さが全国的に認められています。2025年では9場が金賞を受賞し、これは北関東の中でも群を抜いた成績です。

長らく福島県が金賞受賞数で一強の地位にありましたが、栃木県もその品質向上により着実に金賞受賞数を伸ばしています。この背景には、各酒蔵の技術向上と、東京という大消費地からの的確なフィードバックを活かした酒造りの改良があります。

金賞受賞酒は数量限定で販売されることが多く、特別な限定酒として市場に出回ります。これらの金賞受賞酒は、栃木の日本酒の技術力の高さを示す貴重な逸品として、日本酒愛好家の間で高く評価されています。

栃木の日本酒でフルーティな味わいを楽しむなら

栃木県の日本酒がフルーティな味わいで評価される理由の一つに、県酵母の存在があります。特に「T-F酵母」と呼ばれる栃木県の酵母は、リンゴ系の華やかな香り(カプロン酸エチル系)を生み出すことで知られています。

フルーティな栃木の日本酒として真っ先に名前が挙がるのが「鳳凰美田」です。リンゴのような華やかさを持つお酒として、多くのファンに愛されています。同様に「七水」や「姿(すがた)」なども、華やかで親しみやすい味わいで人気を集めています。

さらに「T-ND(ティーエヌディー)」と呼ばれる酵母も栃木の特徴的な酵母で、バナナやメロン系の吟醸香を生み出します。この酵母を使った大田原の「旭興」(渡邊酒造)は、T-ND=ニューデルタ酵母に深く関わったとされており、栃木らしい日本酒の代表格と言えるでしょう。

栃木の日本酒「鳳凰美田」の魅力と特徴

鳳凰美田」は栃木県小山市に蔵を構える、栃木を代表する大蔵の一つです。華やかでありながらもピシッと締まった味わいのバランスが絶妙で、贈答品としても人気の高い「GOLD Phoenix」などの商品も展開しています。

日本酒だけでなくリキュールの製造でも高い評価を得ており、特にリンゴ酒やみかん酒は素晴らしい品質で知られています。これらの製品は、初心者が栃木の酒造りの世界に足を踏み入れるきっかけとしても最適です。

技術的な面では「荒走押切合併(あらばしりおしきりがっぺい)」という独特な商品も製造しています。これは槽絞りの最初の部分(荒走り)と最後の部分(責め)を合わせたもので、通常とは異なる個性的な味わいを楽しめる、やや上級者向けの商品として位置づけられています。

栃木の日本酒「仙禽」が切り開いた新しい日本酒の世界

仙禽」は栃木県さくら市に位置し、元ソムリエでもあった造り手が手掛けることで知られる革新的な酒蔵です。現在では全国的にその名が知られるほどの人気蔵となっています。

仙禽」の最大の特徴は、あえて酸を残した日本酒造りにあります。従来の日本酒が甘さを重視する傾向にあった中で、甘さと酸のバランスを取り、むしろ酸に重心を置いた綺麗で甘酸っぱい日本酒を確立しました。この革新的なアプローチは、日本酒と洋食の組み合わせという新しい楽しみ方の扉を開きました。

近年は“ドメーヌ化”という概念を導入し、米作りから酒造りまでを一貫して行う体制を構築しています。特に、米作りに使用する水系と同じ水を酒造りにも使用することで、テロワール(土地の個性)を表現した日本酒造りに取り組んでいます。

さらに“江戸返り”という酒造哲学のもと、木桶を使った発酵など伝統的な手法を現代に蘇らせる温故知新の取り組みも行っており、古き良き技術と現代の革新を融合させた独自のスタイルを確立しています。

栃木の日本酒「惣譽」が表現する米の旨味

惣譽」は、栃木の日本酒の中でも特に米の良さをストレートに表現することで知られる酒蔵です。フルーティさよりも、日本酒本来の米の旨味を大切にした酒造りで知られています。

この蔵の大きな特徴は、原料米へのこだわりにあります。契約農家が栽培する五百万石や、山田錦の中でも最高級とされる特A地区(兵庫県の特定エリア)で作られた山田錦を厳選して使用しています。これらの優良な原料米の特性が、完成した日本酒にもしっかりと表現されています。

酒造りの手法では、江戸時代から続く伝統的な生酛造りを採用しており、特に生酛と特A山田錦を組み合わせた商品は素晴らしい出来栄えです。生酛らしい美しい酸味と、山田錦の上品な旨味が見事に調和しています。

惣譽」の日本酒は“コクとキレ”という日本酒の理想を体現しており、生酛由来の酸味がもたらすキレの良さと、良質な米から生まれるコクが長く余韻として残る、バランスの取れた味わいが魅力です。

「惣譽 生酛仕込 純米70 生原酒」(惣譽酒造)

まとめ

栃木の日本酒は、関東圏での知名度向上とともに、多様性が許容された、成熟した市場を形成しています。これは栃木の日本酒業界にとって非常に素晴らしい現象で、様々なタイプの日本酒が共存し、それぞれが独自のファン層を獲得しています。

爽やか系で温故知新の「仙禽」、フルーティー系の「鳳凰美田」、米の旨味を活かした「譽」など、それぞれが異なる個性を持ちながらも高い品質を維持しており、初心者から上級者まで幅広いニーズに応えることができます。

栃木県の酒蔵は、定期的に東京で試飲イベントを開催しており、一般の方でも参加可能です。これらのイベントに参加することで、自分の好みの銘柄を見つけることができるでしょう。

今後も栃木の日本酒の幅はさらに広がっていくことが予想されます。日本酒に興味を持ち始めた方も、すでに愛飲されている方も、ぜひ栃木の日本酒の多彩な世界を積極的に探求していただきたいと思います。

山内祐治(やまうち・ゆうじ)/「湯島天神下 すし初」四代目。講師、テイスター。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。ソムリエ、チーズの資格も持ち、大手ワインスクールにて、日本酒の授業を行なっている。また、新潟大学大学院にて日本酒学の修士論文を執筆。研究対象は日本酒ペアリング。一貫ごとに解説が入る講義のような店舗での体験が好評を博しており、味わいの背景から蔵元のストーリーまでを交えた丁寧なペアリングを継続している。多岐にわたる食材に対して重なりあう日本酒を提案し、「寿司店というより日本酒ペアリングの店」と評されることも。

構成/土田貴史

 

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