慌ただしく過ごした一年も、ようよう大晦日。災厄を断ち切り、新しい年の息災を願うに欠かせないのが年越し蕎麦。本格顔負けの「新蕎麦の乾麵」で年を越す。
近年、乾麵の蕎麦の味がどんどん向上しているという。その理由はどこにあるのか。長年にわたり乾物と乾麵の広報と普及に努めてきた星名桂治さんに訊ねた。
「昔から“蕎麦は三たて”とよくいわれます。挽きたて、打ちたて、茹でたてがいちばんおいしいという意味です。長く保存がきく乾麵はその条件にあてはまらないように思いますが、製造技術の進化により打ちたての蕎麦のような風味を再現する製品もあります」
乾麵も乾物であるため、保存に適した食材であり未開封の賞味期限は1年だ。そこに、手打ち蕎麦のような鮮度を再現する製品もある。矛盾するような条件をどのように克服していったのか、星名さんはこう答える。
「明治以降、製粉や製麵が徐々に機械化され、乾麵蕎麦が普及をみせていきます。しかし、製法が未熟で保存中にカビが発生してしまうこともありました。ですが戦後、ヨーロッパから小麦製粉用の機械式石臼が導入され、製麵機の性能が向上し自動化もされていきます。自動化により製品が均質となり、保存に適した安心・安全な乾麵が誕生したのです。その上で風味や食感が生麵に近づいていったのは、各メーカーの努力の賜だと思います。2024年の年越し蕎麦には、手軽に入手できておいしい乾麵の蕎麦をぜひ召し上がってください。これが乾麵かと驚くと思います」
「乾麵」のよいところ
1.水分の含有率が14%以下と少ないため、長期保存ができる。
2.乾燥することで蕎麦の風味が持続し、本来のおいしさが維持される。
製粉から乾燥まで一貫生産
製造現場はどうなっているのか。
蕎麦の産地として知られる、長野県の戸隠(長野市)で乾麵蕎麦をつくる「おびなた」を訪ねた。訪れたのは、秋の新蕎麦の収穫のころ。自社の蕎麦畑では蕎麦の刈り取り作業の真っ最中であった。
同社社長の大日方大治さんはこう語る。
「新蕎麦が穫れると、私の子どものころは水車で蕎麦の実を挽いていました。できた蕎麦粉をふるいにかけて蕎麦を打つわけですが、工場でやっていることは、人の手が機械に置き換わっただけで、基本の手順は変わっていません」
おびなたは蕎麦の製粉から製麵まで一貫して行なう専門メーカーである。
「うどんの乾燥では温度と湿度を加え熟成させますが、うちの蕎麦の場合は比較的低い温度の風を当てて、湿気を抜きながら、ゆっくりと乾燥をかけます。外気を取り入れ、時間を惜しまず、低温で乾燥することが、蕎麦の風味を損なわず、おいしい乾麵に仕立てる秘訣のひとつです」(大日方さん)
解説 星名桂治さん(エイチ・アイ・フーズ代表取締役・78歳)
取材・文/宇野正樹 撮影/寺澤太郎
※この記事は『サライ』本誌2025年1月号より転載しました。