ふぐ刺し、ふぐちり、焼きふぐ、創作料理…。さまざまな「福」を呼ぶ魚をたらふく食す。

全国には様々なふぐの調理法と食べ方がある。薄切りの刺身であるてっさから鍋のてっちり、焼きふぐや珍味まで。ワインとの相性も知り、ふぐを取り寄せて自宅でも楽しみたい。

見ているだけで香ばしい香りが伝わってきそうな味噌焼き。1人前1尾で2300円より。予約制での提供だが入荷のない日もある。
ハコフグは一年中獲れる。味がのるのは9月から3月。特に冬が美味だ。大きなものは40cm近くになるが、25cm前後のものが食べごろ。

ハコフグは、分類上はフグ科のトラフグなどからは離れたハコフグ科の魚で、フグ毒で知られるテトロドトキシンも持たない。長崎県五島列島には、昔からこのハコフグを食べる習慣がある。

「ここ福江島では、漁師さんたちは“よっかど”とも呼びますね。4つの角がある、つまり四角い魚体のふぐということだと思います」

定置網や刺し網、釣りで漁獲された魚が水揚げされる福江漁港。亜熱帯性の魚と温帯性の魚が交じり合う五島列島の海域は魚種が豊富。
人気上昇中のハコフグだが、近年は激減。この日も市場に揚がったのは数尾。「海の中の様子が変わってきているんでしょうかね」(金正さん)

こう語るのは、五島市の繁華街、中央町で『四季の味 奴(やっこ)』を営む金正武司さん(67歳)だ。

近年、五島列島の名物として名を高めているハコフグだが、もともとは値のつかない雑魚だった。定置網や刺し網にかかっても、見てくれがぱっとせず売り物にならない。だが、味はすこぶるよい。島の魚屋にも並ばないため、長い間漁師だけの味だったが、昭和50年代から徐々に魅力が知られていく。観光客の耳目を集める役割として白羽の矢が立ったのだ。

魚体そのものが調理具で器

ハコフグは、全身が硬い六角形の鱗で包まれている。身の量は極めて少ないため一般のふぐ料理のような方法では食べられない。調理の仕方はただひとつ。腹の部分を切って内臓を取り除いたら、中にたっぷりと味噌を詰めて焼く。つまり魚体そのものを調理具と器にした直火焼きである。

「身は背中側にごく小さなものがふた筋あるだけ。でも、箸でほぐして味噌に絡めると、なんともいえない味わい深さが生まれます。ここ五島は焼酎文化で日本酒の蔵はないんですが、ハコフグの味噌焼きをひと口食べると、10人が10人、やっぱり日本酒をくださいとおっしゃいますね」(金正さん)

味噌は店ごとに秘伝がある。金正さんは麦味噌に味醂や柚子胡椒を加える。焦げたときの香ばしさをイメージして調合するそうだ。

季節の刺身。キビナゴ(写真左端)は6月〜8月の禁漁期以外は通年提供。冬期はカツオ、ハガツオ、シイラ、アオリイカ、ウチワエビなど。盛り合わせ1人前1000円より(写真は約4人前)。クエ鍋も人気の品。
店主の金正武司さん。大阪での料理修業を経て福江島に帰郷、昭和53年に『奴』を開く。奥さんのナミ子さんと二人三脚で切り盛りしている。

四季の味 奴

長崎県五島市中央町4-10
電話:0959・72・3539
営業時間:18時〜23時
定休日:日曜、月曜 ※12月29日〜1月3日は休み。
交通:福江港から徒歩約15分 予約制。

金正さんが薦める招福スポット

大宝寺

唐で仏教を学んだ空海が戻る途中に難破・漂着したのが玉之浦。その際に地元の大宝寺で真言密教の講説をした縁から、大宝寺は西の高野山と呼ばれる。
長崎県五島市玉之浦町大宝631
電話:0959・87・2471
開場時間:8時〜18時
交通:福江港より車で約40分

※この記事は『サライ』本誌2024年1月号より転載しました。(取材・文/鹿熊 勤 撮影/奥田高文)

『サライ』2024年1月号の特集は『『ふぐ」で万福』。

 

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