ふぐ刺し、ふぐちり、焼きふぐ、創作料理…。さまざまな「福」を呼ぶ魚をたらふく食す。
全国には様々なふぐの調理法と食べ方がある。薄切りの刺身であるてっさから鍋のてっちり、焼きふぐや珍味まで。ワインとの相性も知り、ふぐを取り寄せて自宅でも楽しみたい。
ハコフグは、分類上はフグ科のトラフグなどからは離れたハコフグ科の魚で、フグ毒で知られるテトロドトキシンも持たない。長崎県五島列島には、昔からこのハコフグを食べる習慣がある。
「ここ福江島では、漁師さんたちは“よっかど”とも呼びますね。4つの角がある、つまり四角い魚体のふぐということだと思います」
こう語るのは、五島市の繁華街、中央町で『四季の味 奴(やっこ)』を営む金正武司さん(67歳)だ。
近年、五島列島の名物として名を高めているハコフグだが、もともとは値のつかない雑魚だった。定置網や刺し網にかかっても、見てくれがぱっとせず売り物にならない。だが、味はすこぶるよい。島の魚屋にも並ばないため、長い間漁師だけの味だったが、昭和50年代から徐々に魅力が知られていく。観光客の耳目を集める役割として白羽の矢が立ったのだ。
魚体そのものが調理具で器
ハコフグは、全身が硬い六角形の鱗で包まれている。身の量は極めて少ないため一般のふぐ料理のような方法では食べられない。調理の仕方はただひとつ。腹の部分を切って内臓を取り除いたら、中にたっぷりと味噌を詰めて焼く。つまり魚体そのものを調理具と器にした直火焼きである。
「身は背中側にごく小さなものがふた筋あるだけ。でも、箸でほぐして味噌に絡めると、なんともいえない味わい深さが生まれます。ここ五島は焼酎文化で日本酒の蔵はないんですが、ハコフグの味噌焼きをひと口食べると、10人が10人、やっぱり日本酒をくださいとおっしゃいますね」(金正さん)
味噌は店ごとに秘伝がある。金正さんは麦味噌に味醂や柚子胡椒を加える。焦げたときの香ばしさをイメージして調合するそうだ。
四季の味 奴
長崎県五島市中央町4-10
電話:0959・72・3539
営業時間:18時〜23時
定休日:日曜、月曜 ※12月29日〜1月3日は休み。
交通:福江港から徒歩約15分 予約制。
金正さんが薦める招福スポット
大宝寺
※この記事は『サライ』本誌2024年1月号より転載しました。(取材・文/鹿熊 勤 撮影/奥田高文)