健康に良いとされる「酢」は、古代より身近な存在だった。その種類と製造過程を知り、味わい深い料理を名店から学び、日常の食生活に取り入れたい。

手間暇かけた昔ながらの純米酢

仕込み用の杉桶が並ぶ蔵内。この道13年目というベテラン職人の谷下利幸さんが、子どもの成長を見守るように醸造を行なう。

奈良県中部、畝傍山(うねびやま)、天具山(あまのかぐやま)、耳成山(みみなしやま)の大和三山が優美な姿を見せる橿原市に、明治27年(1894)創業のミヅホがある。明治から大正にかけて建てられた重厚な母屋や蔵は国の登録有形文化財で、今もここで脈々と米酢造りが行なわれている。

ミヅホの酢の最大の特徴は、木造の蔵に置かれた吉野杉の大桶で仕込むこと。杉桶でじっくり3か月以上熟成させることで、ツンとした特有の匂いが和らぎ、カドのないまろやかな味に仕上がる。蔵内には約80本の杉桶が並び、じつに壮観だ。4代目である社長の大西甚吾さん(67歳)は酢造りについて次のように話す。

「国産の米を使い、麹蔵(こうじぐら)で良質の米麹を作り、3段仕込み(※日本酒の醪(もろみ)をつくるため、原料を3回に分けて投入する方法)で酒造りを行ないます。できた酒と水、種酢(たねず) を同量、5400Lの杉桶に入れ、そのまま静かに静置酢酸発酵をさせます。蔵に棲み着く酢酸菌がいい働きをしてくれます」

作業場には、醪を入れた酒袋を大きな木枠の中に積み、上から圧力をかけて酒を搾る槽(ふね)があり、さながら老舗の酒蔵のようだ。毎年10月から4月にかけて丁寧に日本酒を醸造し、年間を通して発酵作業を行なうという。

杉桶のなかで発酵が進む日本酒。アルコール度数が20度ほどで仕上げ、薄めて利用する。
醪を酒袋に入れて重ね、圧力をかけて酒を搾る槽搾り。すべてが手作業の重労働である。

文化財登録で見えてきた歴史

ミヅホは大正元年(1912)に本格的な米酢造りを開始。その4年後の「御即位記念全国特産品博覧会」で「瑞穂(みづほ)酢」として1等金賞を受賞し、確かな品質が認められた。しかし戦中・戦後の食糧管理法や物資不足により醪で酢を造ることができなくなり、アルコールを使用した酢を製造した時期もあったという。昭和52年(1977)には醪の製造免許も取得し、より良質な米酢造りが行なえるようになった。これらの歴史は、建物の文化財登録を機に、資料を整理することで明らかになったと大西さんは話す。

伝統の製法を守り、手間暇かけて生み出されるミヅホの酢は奈良や京都の一流料亭や宿で重宝され、繊細な日本料理の味を引き立てている。今後は蔵の見学ツアーなどを行ない、酢造りの現場をもっと知ってもらう計画も検討中だ。

杉桶で熟成させた酢は、ろ過しつつ手でも濁りを取り除き(画像)加熱殺菌後、瓶詰めされて製品となる。
左は「純米酢」500mL、460円、右は真昆布の出汁と純米酢、リンゴ酢などを合わせた「すし酢」500mL、460円。購入はオンラインショップ(※こだわりの手しごと三春 https://www.teshigoto-miharu.jp)から。

ミヅホ

奈良県橿原市中町267
電話:0744・22・3317
見学不可

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※この記事は『サライ』本誌2023年3月号より転載しました。

 

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