おしゃべりする、ぼーっとする、読む、学ぶ、考える、俗世間の塵を払う──そこは人間にとって大切なものに満ちた場所。喫茶店でしか出会えない“普段着の京都”をご案内します。

青い光に包まれた東郷青児ゆかりの店

2階。「豊潤、繁栄」の象徴であるブドウが彫刻されている。音楽はないのでとても静か。

四条通から高瀬川沿いを北上すると、ビルのすき間に尖塔のある小さな2階屋が見えてくる。この建物は、画廊や雑貨店を営んでいた元木和夫が、友人の彫刻家・池野禎春の助けを借りて建てた。池野はフランスに留学経験があり、フランスの田舎の教会をモチーフにして外装や内装を考えたという。

店内は、淡く青い光に包まれている。染色研究家・上村六郎の「青は、女性が美しく見え、男性が若々しく見える」というアドバイスを取り入れたそうだ。

東郷青児の『夜会の女』。創業者のお気に入りで、東郷と語らうときはここに座ったという。佐々木良三、鶴岡義雄 、小磯良平などの絵も展示。

透き通る5色のゼリー

「ゼリーポンチ」750円。使用しているサイダーは100年以上変わらぬ製法で作られている神戸のサイダー。やさしい炭酸。

壁には、東郷青児ら二科会(※大正3年、文部省美術展に対抗して結成された在野の美術団体。現在も二科美術展覧会を開催)の画家たちの絵がかかっている。創業者・元木は、東郷青児の作品のコレクターであり、やがて同じ二科会の佐々木良三に連れられて、東郷本人も店を訪れるようになった。東郷は店を気に入り、店のために絵を描いた。今もコースターやタンブラー、カップなどに彼の絵があしらわれている。

「ブレンド」600円と「バタートースト」500円。コーヒーは酸味の少ないまろやかな味。

名物は、一連のゼリードリンク。当初は、「ソワレ」(夜会)という名のとおり、午前2時までやっていて、男の客が多かった。2代目・元木英輔の妻、成子が「若い女性にも来てほしい」と考えて、1960年代から「ゼリーコーヒー」などの提供を始め、やがて5色のゼリーを使った「ゼリーミルク」や「ゼリーポンチ」を考案する。青い光のなかで見ると格別に美しい。甘さはひかえめである。

店の内外は池野禎春の木彫りで飾られている。扉の左に歌人・吉井勇の直筆歌碑。2階窓辺席からは高瀬川が見える。(吉井の吉は正しくは土に口)

喫茶ソワレ
京都市下京区西木屋町通四条上ル真町95
電話:075・221・0351
営業時間:13時~19時30分(最終注文18時30分)
交通:阪急電鉄京都線京都河原町駅より徒歩約1分
アルコール類あり(フィーズ850円ほか)。

【立ち寄り情報】
・河原町の繁華街や先斗町通まで徒歩約1分。
・店主・下山純子さん(創業者の孫)のおすすめの店は『イノブン四条本店』。京都の女性ならみな知っている大型雑貨店。地下1階から4階までの全5フロアに文房具やキッチン用品が並ぶ。徒歩約3分。

取材・文/大塚 真、撮影/小林禎弘
※この記事は『サライ』2021年10月号別冊付録より転載しました。

 

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