結局最後まで踏ん張ったのは、生え抜きの社員たちだった
それは、当社の大株主である証券大手の担当者がしびれを切らし、役員会に乗り込んできた時のことだ。
その時は、このままではもはや、手元資金の枯渇がカウントダウンという状態。
大株主として座視できず、役員会に参加して徹底的な改善策を聞かない限りは会社に帰らないという覚悟での参加であり、追求は深夜3時まで及んだ。
なおこの時はすでに、何が異常で何が正常なのかの見極めまでは、月次決算の数字でできる状態にまで、整理ができていた。
そしてその数字に基づき、ステークホルダーからの協力を取り付けるため、課題の改善を進めていこうと言う段階ではあったが、しかし現預金はもはや、非常に厳しい状態に陥っていた。
このような会議では、即効性があり、なおかつ大きなコストの削減に繋がる提案が要求される。
筆者は製造原価、製造労務費、製造経費、それに販管費のそれぞれのコストから把握できている課題をリストアップし、即効性と数字の大きさからプライオリティを整理して、各担当部長に対策を振る。
しかしここで返ってくる、大手商社や大手メーカーで責任者をしていたはずの人たちから返ってくる答えは、
「部下と一丸になって、今以上の努力をします」
「営業部の皆が寝ないで営業をすれば、きっと目標数字が達成できます」
という、全く無意味な回答ばかりであった。
それに対し、定量的なセンスで仕事を進める癖がある証券会社の投資担当者は当然、
「精神論は止めて下さい。睡眠は十分に取るべきであり、部下の方にもおかしなことを強要しないで下さい」
と、ますます追い詰める。
精神論での回答は、全てとは言わないがほとんどの場合は、追い詰められた上での無意味な逃げ口上だ。
そして言葉を失った上司に代わり、高校卒業後、30年に渡り現場で汗を流し、今は課長をしている幹部が突然、口を挟んだ。
この日は、部長だけでなく、課長クラス以上もオブザーバーとして、部屋の隅にイスを並べ会議の様子を見学し、気がついたことがあれば発言をするよう株主から要請されていた。
「さっきCFOさんがいったことやけど、その程度の問題なら材料の仕入先でA社分をB社に振り替えてロットを大きくすれば、多分仕入れ単価で10円は下がるんちゃうかな」
この提案に、株主の担当者も熱心に食いつく。
「その商品はどれくらいのロットを扱っているのですか?」
「俺、頭悪いし数字のことは余りわからんわ。でも、最低でも月間5万個は使ってるはずやで」
「仕入先を変更することで、品質に与える影響はどうお考えですか?」
「同じに決まってるやん。卸と製造型番が違うだけで、同じメーカーの同じ商品やで(笑)」
このような会話こそが、数字を中心に経営を把握するCFOと、現場を熟知する製造責任者とのあるべき姿だ。
これを皮切りに、その後も課長クラスの現場責任者から
「そんなん、こうすればいいやん」
「あ、多分それは〇〇が原因ですわ。これはお金もかかるので、解決を諦めたほうが賢明です」
など、プライオリティの整理に非常に役立つ、建設的な会話が次々に生まれた。
その間、高給で採用された偉い人たちはほとんど会話に参加できない状態が続く。
そして後日、偉い人たちの何名かから自主的に辞表が出され、その後任に課長クラスの生え抜きが座ることになった。
この体験から筆者が言いたいことは、いうまでもなく人材紹介会社が機能していないということではない。
むしろ逆で、受け入れ側の企業経営者が安易に、有名企業の責任者クラスであれば自社のステージに関わりなく活躍をしてくれると盲信していることに問題があるのではないか、ということだ。
大企業で責任者クラスを務めていた人が、スタートアップの会社や、ターンアラウンド(事業再生)の段階にある会社で結果を出すことができるだろうか。
結局のところ、どれほど便利なサービスも企業経営者が使いこなせなければ、採用する側も採用される側も、お金と時間の無駄ということである。
そして何よりも、実は自社の生え抜き社員の価値を、経営者が本当に理解しているかどうか。
人材紹介という便利なサービスを使う前に、長年に渡り自社で働いてくれた社員の知見を引き出す努力にも、もっとコストを掛けてみても良いのではないだろうか。
【参照】
[1]矢野経済研究所
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2034
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いかがだっただろうか。安易に経歴だけで優秀な人材を採用しようとするよりも、社内の人材に目を向けることが重要である、ということがおわかりいただけただろうか。
引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/