素人に何ができるのか

ところで、役員として重い責任を担いながら、全く知らない業界や業種に飛び込んだ場合。

それでもなお、CFOがどのように成果を出そうとするのか、その考え方をご存知だろうか。

CFOなら誰でも共通とまでは言わないが、筆者の場合まずは「正常値」と「異常値」を把握できる仕組みづくりから始める。

売っている商品の特性や強み、業界におけるポジションと言ったことなど、もちろん最初は知りようがない。

しかし、数字を統一の基準で整理し、その数字を前年対比、前月対比、前年同月対比といった形で様々なモノサシから観測すると、必ず正常値と異常値が浮かび上がってくる。

ある月だけ水道光熱費が前年同月対比で2%高いのであれば、それは確実に異常値だ。

そこから水道代、電気代、ガス代の、どの数字に異常値が発生したのかを証憑で特定し、さらにその月だけ例えば電気代が高かった理由を突き詰めていけば、必ず原因がわかる。

この場合は、例えばデマンドと呼ばれる、産業用の電気代を決定する要因の1年に1回の改定が当月にあったことが原因であったことが判明したりする。

原因が分かれば、後はこの事実を経営会議に提示し、部門長に対しこのリスクにどう対応するのか。

もしくは各部署の責任者がそれぞれのポジションから、この問題に何ができるのか知恵を出し合うだけだ。

このようにして、経営会議は成立する。

それがCFOの仕事の一つであり、これは未経験の業界や業種といったことに関係のない、原理原則の整理に過ぎないと言ってよいだろう。

正直、CFOにとって本業ともいい難い初歩中の初歩なのだが、しかし案外、この程度の事ができていない会社が多く、そのためこれだけでも重宝されたりする。

しかし前述のように、この時私が仕事を引き受けた会社ではそもそも、その比較対象になる数字が絶望的にアテにならないという状況だったということだ。

そのためやむを得ず、まずは会計基準と帳票の整理という大仕事から着手せざるを得なかった。

履歴書は立派だが、仕事をしない人たち。

話は急に変わるようだが、2018年度の人材関連ビジネスの市場は、7500億円規模にまで成長したそうだ。

まさに、巨大市場である。

なおここでいう人材関連ビジネスとは、人材紹介、再就職支援、人材派遣の3業種を指す。

このマーケットは、2011年には3900億円であったというのだから、わずか7年で倍増したということになる。[1]

それほどまでに、世の経営者は優秀な人材を高い紹介料を支払ってでも、得たいということなのだろう。

だが、採用する企業側で本当にこのサービスを使いこなせているのだろうか、という疑問がある。

終身雇用制度が崩壊しつつある日本において、人材の流動化、とりわけキャリア人材の流動性を高めるこれらサービスに一定の有用性があることに疑問はない。

しかしながら、採用の受け皿となる企業において、どこまでキャリア人材の目利きができているのだろうか。

具体的には、前述の会社での話だ。

数字が伸びないことにしびれを切らした経営トップは、メインバンク系のVCから紹介された私をCFOとして迎え入れた以外は、営業責任者、製造責任者、さらに部門によっては現場の責任者クラスまでも、人材紹介会社から斡旋された人材をそのまま採用していた。

正直、この時の顔ぶれは履歴書だけ見るとすごい人達ばかりだった。

営業責任者は大手商社出身で、製造責任者や現場責任者クラスは誰もが知る一部上場企業で責任ある管理職を、それぞれしていた人たちばかりである。

当然、生え抜きの社員の倍ほどの給料を受け取っていた。

しかし、ある程度数字の整理が終わり、「異常値」の存在と原因を明らかにすることができても、優秀であるはずの製造責任者や現場責任者クラスから、期待する有効な対策が示されることはほとんどない。

営業責任者も同様で、数字が伸びないことに対して納得の行く説明や次月以降の定量的でわかりやすい行動方針が示されることがなく、形ばかりの無駄な役員会ばかりが繰り返されていった。

筆者は正直、製造や営業のスキルを売りに転職をする人が、どんな会社や業界でも通用する、CFOのような原理原則を持っているのか知らない。

しかしこの時に縁があった人たちが、そういった何かを持ち合わせていないことは明らかだった。

そしてそれがある時、バーストすることになる。

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