マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)」が、ビジネスの最前線の問題を解説するシリーズ。みなさんは「心理的安全性」という言葉をご存知でしょうか? 今回は、企業がいかにして心理的安全性を高め、従業員のメンタルケアに努めるべきかを考察します。
メンタルケアにおける企業の役割責任を考えるにあたり、「心理的安全性を従業員に与える職場環境を作ること」がその答えではないかと考えます。心理的安全性を一言で言えば「どのような発言や指摘をしても問題がない状態」となりますが、果たしてどのようにその環境を醸成すればいいのでしょうか?
「心理的安全性」とは?
そもそも「心理的安全性」とは具体的に何を指すのでしょうか? 「心理的安全性」という言葉を最初に組織論で用いたハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授の発言から引用すると、「このチーム内では、対人関係上のリスクをとったとしても安心できるという共通の思い」を意味するようです。
つまり、普通に考えれば同僚から嫌われたり、上司からいい顔をされないようなリスクのある発言や指摘であっても、「心理的安全性」のある組織では、それらに対してリスクを感じずに済む環境であることを意味しています。
同僚のプレゼンに対して思うままに意見を述べてほしいと言われた場面で、「根拠が乏しく、そもそも当初目的を見失っていると思うが、わざわざ波風立てて同僚との人間関係が悪くなるのは嫌だし、ポジティブな感想だけにしておこう」
上司にバッドニュースを即座に上げるべき場面で、「朝の1時間はいつも不機嫌極まりないので、もう少し様子を見て機嫌が良くなってから報告しよう」
このような経験をされた方は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか? これらはまさしく「心理的安全性」のない組織と呼べます。
「心理的安全性」と日本の国民性は相性が悪い?
Googleのリサーチチームが、効果的なチーム作りに重要なポイントの一つであると解明したことで、より市民権を得た「心理的安全性」ですが、実際にはどのように醸成すればいいのでしょうか? 私の経験上、上述のような「心理的安全性」のない状態となっている組織は過半数を優に超えています。
これらの組織は「心理的安全性」を感じさせるためには誰もが誰に対しても言いたいことが言えることが大事であると考え、メンバーの自由度を上げる、上下関係を弱めることなどにより、その環境を作ろうとします。
その結果、「それぞれが思うままに言いたいことを言い合うので組織が一つにまとまらない」「上司が部下に遠慮しなくてはならず、ぬるま湯な組織になってしまった」のように狙いに反する組織状態となっていき、みんなが心理的安全性のようなものを感じてくれることに比例して業績は伸び悩んでしまいます。
また、「本音と建前」「忖度」という言葉が日本らしさを象徴していることからも、日本人は他民族と比べても他人から(特にストレートに)否定や意見されることを嫌いがちな民族です。よって、日本ではその運用が難しいと考え、このような環境作りを道半ばで諦めてしまうのです。
心理的安全性とメンタルケア
ここからが本題です。そもそも、この環境はメンタルケアに必要なものなのでしょうか? 必要であるとして「心理的安全性」の運用は日本人には難しいのでしょうか? 答えはともにYESとなります。
その必要度はGoogleのリサーチチームが時間とお金を掛けて導き出した結論であることからも、疑う余地はありません。ポイントは、いかに「心理的安全性」を正しく捉えることが出来るかです。ここさえ理解できれば、「日本人には合わないのでは……」という民族性という名の言い訳も排除できるはずです。
改めて、「心理的安全性」の定義を振り返ってみましょう。
「このチーム内では、対人関係上のリスクをとったとしても安心できるという共通の思い」でした。
つまり、あくまで「リスクをとったとしても安心できる」環境なのです。わざわざリスクを取りにいく必要もありませんし、他者からの否定や意見を全て受け入れたり共感しなくてはならないわけでもありません。これを前提に私なりの「心理的安全性」の正しい作り方を解説いたします。
心理的安全性の正しい作り方
ポイントは大きく以下の2つに分けることができます。
1:ルールと事実を基にする
2:役割を明確にする
「ルールと事実を基にすること」で対人関係上のリスク発生そのものを最小化し、「役割を明確にすること」で否定や意見を情報に変換し、決定スピードは落とさずにぬるま湯状態にはしないイメージです。
ルールと事実を基にする
そもそも、対人関係上のリスク(人間関係のもつれ)は何故発生するのでしょうか? それは、人間が感情の生き物であるためです。
「仲良くなるとその分喧嘩する可能性も増える」
「自分の価値観と異なるので感情的になってしまった」
プライベートではこのような出来事は避けて通れないですし、それこそが人間らしさでもあります。
一方で、組織には作られた目的があり、会社においては「その会社が社会性を獲得すること」がそれに当たります。目的にスムーズに向かううえで、メンバーの「感情」は往々にしてブレーキ要因となってしまいます。それこそが、対人関係上のリスクとなります。
そこで重宝するのが「ルールと事実」です。会社の統一ルールを設定し、その「ルール」および感情の正反対に位置する「事実」(主観やプロセスではなく、客観的な数字や結果)を軸に組織運営を行えばいいのです。
例えば、「同僚の発表したプレゼンに対して問題点があれば事実のみを報告する。それに対して感情的な反論はしない」、「部下は重要な事実情報であれば即座に上長に報告する」というルール設定をすればいいのです。
こうすることで、会社が「心理的安全性」を作る際に対人関係上のリスクがそもそも発生しない環境を作ることができます。
役割を明確にする
対人関係上のリスクが発生しなくなったとしても、「それぞれが思うままに言いたいことを言い合うので組織が一つにまとまらない」「上司が部下に遠慮しなくてはならず、ぬるま湯な組織になってしまった」という問題は解決しません。
そこで、「役割の明確化」が必要になります。前述の通り、上司は部下からの否定や意見を全て受け入れ、共感しなくてはならないわけではありません。
識学では上司の最大の役割を「情報収集」と「意思決定」と伝えています。この役割を損なわないためにも、部下には否定や意見をさせるのではなく、情報提供することがその役割であることを認識させましょう。
そうすることで、部下は「心理的安全性」のある環境で情報提供を行うことができ、上司は部下に気を遣うことなく「心理的安全性」を感じながら意思決定を行うことができるのです。
まとめ
いかがだったでしょうか? 上記のようにルールと事実を軸にマネジメントをすることで、日本人の民族性を意識せずに「心理的安全性」を組織環境に落とし込むことは可能です。また、上司と部下の役割を明確にすることで、「心理的安全性」をベースとした組織でも決定スピードは落とさず、ぬるま湯状態にしないこともできるのです。
組織のリーダーが「心理的安全性」の意味を正しく理解し、ルールと役割を整え、「感情」ではなく「事実」でのやり取りを主環境にする覚悟さえ持てば、組織の誰もが迷うことなく心理的安全性を感じながら業務を行うことができます。 これこそが、どの企業も再現性高く実行できるメンタルケアの取り組みではないでしょうか?
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