マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)」が、サライ世代に向けて、ビジネスの最前線の問題を解説するシリーズ。今回は、組織の公正性を高める方法について学びましょう。

近年、所得格差拡大やダイバーシティの尊重から企業内においても「公正」「平等」に関する意識が高まり様々な議論がなされています。改めて「公正」と「平等」の違い、「組織の公正性」について触れ、マネジメントへの応用の仕方をお伝えいたします。

「公正」と「平等」の違い

まずは、言葉の意味の違いを確認しましょう。似た言葉である「公平」も併せて解説します。

平等:偏りや差別がなく等しいこと
公平:全てのものを同じように扱うこと。また、判断や処理などが偏っていないこと
公正:偏りがなく正当であること

このように、偏りがなく等しいことを表す場合は「平等」を、判断や行動が偏らないことを表す場合は「公平」を、不正がないことを表す場合は「公正」を使います。

「組織の公正性」とは?

その組織において「公正だ」と思う従業員の感覚を指します。例えば、評価制度において「会社は公正に評価している」と従業員が思っていれば、組織の公正性が高いと表現できます。

「組織の公正性」(organizational justice)という概念は、欧米では1960年代から研究されています。基になった理論に「相対的剥奪理論」があるとされ、これは自分が他人より資源を得られているかどうかによって、自分が得た資源に対する満足感が変わるという理論です。研究の結果、上司を公正だと感じる部下の方が、仕事への抑うつ感が少なく、パフォーマンスが高いことが明らかになり、企業活動での研究が積極的に行われてきました。

当時日本では多くの企業が終身雇用や年功序列に基づいた、「平等」を後押しする人事制度であったため、「フェアマネジメント」という名称とともにその重要性に着目されるのは後年のことになります。

組織の公正性を決める4つの要素

それでは、公正な組織とはどのような組織なのでしょうか。組織の公正性を決める4つの要素をご紹介します。

(1)分配の公正性

配分された結果が他者と比較して公正かどうかを意味します。ここでいう配分された結果とは、給与額や出世、成長など幅広い意味での報酬を意味します。

公正と感じるかどうかは個人の主観ですが、人は誰でも自分が投資した労力(インプット)に見合う報酬(アウトカム)を得たいと願っています。アダムスの衡平理論によると、インプットとアウトカムのバランスが取れていると「公正」だと感じ、逆にバランスがずれてしまうと不公正だと感じるとされています。

(2)手続きの公正性

配分された結果の決まるプロセスが公正だと思えるかどうかを意味します。

具体的には…
・評価制度が明確になっている
・被評価者は自らの責任を果たすうえで障壁となる事実情報を報告することができる
・評価の手続きに責任範囲外の第三者の意向が過度に反映されるなど偏りがない
・評価者の主観や思い込みではなく、正確な事実情報に基づいて評価の手続きがなされている

このような場合、手続きの公正性は高くなります。

(3)対人の公正性

コミュニケーションが公正だと感じることを意味しています。

・上司が部下に対し一人の人間としての尊厳を尊重して接している
・上司が部下からの報告や相談を聞く環境が用意されている

また、「対人の公正性」は、(4)の「情報の公正性」と併せて「相互作用的公正」と称されることもあります。

(4)情報の公正性

適切な情報を開示してもらえているという感覚です。

ルールやマニュアルといった情報が開示されていないと、部下は上司の意思決定に対し疑念を持ってしまったり、都度上司に確認相談しなければならなかったりし、手続きの公正性を下げる要因にもなってしまいます。

組織の公正性を高めるには

これまで組織の公正性を決める4つの要素をご紹介しましたが、マネジメントにおいてはまず「手続きの公正性」を高めることをお勧めします。

なぜなら、分配の公正性を高めることは簡単なことではないからです。前述のとおり分配の公正性は「自分の投じた労力に見合った報酬を得られている」と従業員が感じた時に高まるものです。ところが、人によって何が「労力」であり、何が「報酬」かという認識はズレる可能性があります。

例えば、長い時間働くことが労力だととらえる人もいれば、短時間で集中して効率よく働くことが労力だととらえる人もいます。また、報酬も単に給与を報酬だととらえる人もいれば、何よりも出世することやスキルアップできることが報酬だととらえる人もいます。

このように分配の公正性を突き詰めていくと、従業員一人一人のその人なりの労力と報酬を考慮することになり、組織としての基準を示すことが困難になると同時に、管理コストも膨大化していってしまいます。

さらに、当然のことですが会社として報酬に用いることのできる金額には限りがあります。すべての従業員が十二分に満足し、公正性を感じられるほどの原資を用意できる会社のほうが少ないのではないでしょうか。

手続きの公正性を高める3つのポイント

それでは、手続きの公正性を高めるための3つのポイントをお伝えします。

(1)評価制度が明確か

「明確」とは相互の認識にズレがない状態です。推奨する評価制度には8つの原理原則があるのですが、そのうち3つをご紹介します。

・結果で評価する(可能な限り評価項目は定量)
・評価者は直上の上司のみ
・自己評価は無し

(2)役割・ルールは明確か

同じ営業部の中で、「新規顧客開拓はなんとなくAさんが、営業資料の作成はいつもBさんが、既存顧客とのリレーション強化はCさんが得意だから担当している」とします。このように、同じ部署の中でも役割がバラバラまたは曖昧であったら公正に評価できるでしょうか。

また、全員が同じく新規顧客開拓を担当していたとしても、「Aさんはいつも大幅な値引きをする、Bさんは短い納期で受注する、Cさんは高額な接待交際費を使う」など、ルールが無いまたは曖昧な場合はいかがでしょうか。きっと互いに不公正だと感じてしまうでしょう。

(3)上司の采配は適切か

上司を公正だと感じる部下の方が、仕事への抑うつ感が少なく、パフォーマンスが高いということは冒頭にも触れました。部下を持つ上司の方は当然、自分の部下に対して公正にマネジメントしようと心がけていると思います。しかし、100%完全な公正の実現は難しいものです。

そこで、より大切になるのは、上司が公正にマネジメントしていると部下側が意識上認識している状態です。この状態を作り出すポイントが「距離感」になります。上司と部下の距離が近すぎると、上司がどんなに公正にマネジメントしようとしても、その小さな差異に部下は気付くものです。一方、上司と部下が適切な距離感を保てていれば、部下は上司のマネジメントの小さな差異が気にならなくなります。

例えば、皆さんも小学校、中学校、高校と進学していくにつれて、学校の先生との距離感が変わっていったのではないでしょうか。そして、距離感が保たれている先生には、「特定の生徒をえこひいきしているのでは?」という疑念すら浮かばなかったのではないかと思います。一方、距離が近い先生ほど、他の生徒との接し方の小さな差異が気になってしまった経験はないでしょうか?

会社の中でも、上司と部下の距離感を適切に保つことは公正性を高めるためにも重要なのです。

組織の公正性が高まるもうひとつの効果

公正性が高まった組織では、もう一つ大きな効果が期待できます。それは「競争環境」です。一般的な考え方として、「アスリートは言い訳をしない」とよく言われます。これは、公正な競争環境下において、自分より優れた人が存在することで、自分の課題や不足が外部環境や他人のせいではなく、自身の責任として捉えられやすいためです。競争の激しい環境にいるメンバーは、自己の成長に向けて努力し、自責の意識を持つようになります。このため、競争環境は自己成長の意欲を引き出し、組織全体の向上に寄与する重要な要素と言えるでしょう。

識学総研:https://souken.shikigaku.jp
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