取材・文/池田充枝
明治から大正にかけて日本の第一世代の建築家として活躍した辰野金吾(1854-1919)が没して本年で100年を迎えます。
幕末の唐津に生まれ、幼いころから勉強熱心だった辰野は、苦学の末、明治政府が設立した教育機関・工学寮の第一回生として首席で卒業し、3年間の英国官費留学のチャンスを得ます。帰国後は教育者、在野の建築家として活躍し、日本の建築界の近代化に貢献しました。
重要文化財に登録された日本銀行本店や東京駅のほか、裁判所、学校、住宅などその生涯で数多くの建築を手がけました。
近年の研究では、辰野が建築における美術教育の重要性を訴え、美術界と関係が深かったことが注目されています。
東京駅の設計で知られる辰野金吾の没後100年を記念した展覧会が開かれています。(11月24日まで)
本展では、辰野が受けた教育や渡欧中の影響、またこれまで紹介されることの少なかった洋画家、松岡壽との交友関係から、辰野の人物像に迫ります。
本展の見どころを、東京ステーションギャラリーの学芸員、半澤紀恵さんにうかがいました。
「本展は美術史家・河上眞理氏と建築史家・清水重敦氏の共著『辰野金吾 美術は建築に応用されざるべからず』との出会いから、『美術』の関わりを通して辰野の人間性を見つめ、その建築をより深く理解するための機会になればと企画しました。
本展の見どころの1つが、若かりし頃の辰野が留学先で持ち歩いたスケッチ帳《滞欧野帳》です。ここには英国・フランス・イタリアと、訪れた先々で見た建築の材料や構造などのメモとともに装飾の一部が丹念に描きこまれています。官費留学生として貪欲に西洋の技術を吸収し、帰国後に活かそうとする懸命な思いが伝わってきます。会場にはその複写を設置し、全ページご覧いただけます。
見どころの2つ目は、辰野が留学中に出会った洋画家・松岡壽との関係を示す、肖像画や東京大学に現在も残る石膏像です。松岡との関係から見えてくる辰野と美術のつながりを紐解きます。
そして見どころの3つ目は、初公開を含む東京駅創建時の図面です。辰野晩年の大作である東京駅のデザインが決定するまでの経緯とあわせて、図面から創建当時の各部屋の配置や内装計画を知ることができます。
また、会期中には様々なイベントを開催しますので、展示とあわせてぜひお楽しみください」
日本の近代化の顔であった東京駅、その生みの親の人物像を探る展覧会です。ぜひ会場に足をお運びください。
【開催要項】
辰野金吾と美術のはなし 没後100年特別小企画展
会期:2019年11月2日(土)~11月24日(日)
会場:東京ステーションギャラリー
住所:東京都千代田区丸の内1-9-1
電話番号:03・3212・2485
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/
開館時間:10時から18時まで、金曜日は20時まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:会期中無休
取材・文/池田充枝