取材・文/坂口鈴香

親の終の棲家をどう選ぶ?|「もう失敗はできない」母に合った住まいを探す【後編】

船田郁也さん(仮名・55)の母弘子さん(94)は宮崎で37年間一人暮らしを続けていた。数年前、よく吟味せずに入居した地元のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)での暮らしが合わず、“脱走”した経験のある弘子さんだったが、自宅で倒れたことからもう一人暮らしは無理だと判断。船田さん兄弟の住む首都圏に呼び寄せることになった。

前編はこちら】

■手厚い介護は母にとって良いことなのか?

船田さんは、老人ホーム紹介センターを数か所回った。そして弘子さんの心身の状況を勘案し、介護付有料老人ホームとサ高住の5か所ほどに絞り、週末に兄と集中して見学をした。

「母の退院も迫られていたので、一気に見学して決めようと思ったのですが、これがかなりきつかったですね。ただ見学するだけなら数か所いっぺんに見てもいいのでしょうが、実際に母が入居するとなると細かいところまで確認しなければなりません。また失敗はできませんから。ホーム選びの大変さが身にしみてわかりました」

結局、船田さんと兄が弘子さんの終の棲家に選んだのは、サ高住だった。

「候補とした有料老人ホームは、相談センターの方が太鼓判を押すだけあって、施設長も職員も感じが良く、ケアも申し分なさそうだったので、ここなら母も気に入るだろうと思いました。ただ、今の母の心身の状況は一時的なもの。入院して要介護にはなりましたが、倒れるまでは自分で何でもできていました。あまり手厚く介護をしてくれるところだと、逆に母の自立心を削いでしまうんではないかと思いました。その点サ高住は、部屋の掃除や洗濯などできることは自分でやらないといけません。そのかわり母の自由も確保されているので、以前のように“脱走”するようなことにはならないだろうと思ったんです」

実はこのサ高住、船田さんが勤務する企業の子会社が運営している。しかし、決してそれが決め手になったわけではなく、たまたまだったと船田さんは言う。それでも、運営母体が自社で、しかも大企業であるというのは安心できる大きな要因となった。ただし、運営母体の社員だからといって家族割引があるわけではない。要介護2で月22万から23万円かかるが、それでも比較した介護付有料老人ホームよりは安価で、父親の遺族年金で充分賄えるという。

もうひとつ決め手になったことがある。見学の際、サ高住側が弘子さんと同じ南九州出身の入居者2人と懇談の機会を設けてくれたことだった。

「地方、それもかなり遠い地方出身者にとって言葉の壁は首都圏で生まれ育った人には想像できないと思います。私たち世代でも、初めて上京したときは標準語を使うことはかなり大きなハードルでした。関西の人はそのまま関西弁で通せるかもしれませんが、そうじゃない地方出身者、特に親世代にとっては外国語並みの壁になると思います。そこに気づいて、同郷の方の話を聞かせてくれたことは評価できる。ここなら母を呼び寄せてお任せしても大丈夫だと思える一番のポイントとなりました」

【次ページに続きます】

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