取材・文/ふじのあやこ
近いようでどこか遠い、娘と家族との距離感。小さい頃から一緒に過ごす中で、娘たちは親に対してどのような感情を持ち、接していたのか。本連載では娘目線で家族の時間を振り返ってもらい、関係性の変化を探っていきます。
「さまざまな状況も重なって母親に私の夫婦関係について嘘をつくことになるんですが、嘘を貫き続けようと思った一番の理由は母親がこれ以上悲しむ姿を見たくなかったから」と語るのは、典子さん(仮名・38歳)。彼女は現在、関西で15歳、13歳の子供を持つ専業主婦です。話を聞いている間も、テーブルにあるコップの水滴やテーブルを拭いたり、片づけたり。テキパキと行動する姿は、育ち盛りの男の子2人を抱える普段の忙しさを想像させます。
物心ついた頃から父親はいない。母、兄妹、祖父母のおかげで寂しい思いはしなかった
典子さんは大阪府出身で、母親と5歳上、3歳上に兄のいる4人家族。典子さんが物心がつく前に両親は離婚しており、父親の姿は一度も見たことがないと言います。
「うちの家に父親がいないことが日常の風景。それに対して何か寂しい思いをしたことはありません。離婚原因もずっと昔に一度だけ母親に聞いたことがありますが、その時に母親から少し嫌そうな雰囲気を感じたんですよ。そこからは聞いていません。すごく小さい頃は一番上の兄がよく面倒を見てくれていました。母親は働き詰めで忙しそうだったんですが、その代わりに近くに住んでいた祖父母もよく様子を見に来てくれていましたね」
決して裕福じゃなかったものの、貧しい思いをしたこともなかったと語りますが、それは祖父母の援助があったから。
「ごく一般的な家庭というか、たくさんおもちゃを買ってもらったわけではないけど、習字道具や体操着なども兄のお古を使うことはありませんでした。まぁ男女で色が違うものや、学年で色が指定されているものがほとんどで無理だったのかもしれませんが……。
祖父母が援助してくれていたことを知ったのは大人になってから。母親には姉がいるんですが、2人の仲は覚えている限りずっと悪くて。祖父母が妹である母親ばかりにお金を使うところが気に入らなかったみたいなんですよね」
ヤンチャになっていく兄たちとの仲は悪化。寂しそうな母の顔を覚えている
典子さんが小学生の頃、一番上の兄があまりよくない交友関係を持つようになり、そしてその姿を追うように真ん中の兄も変わっていったと言います。
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