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文/中村康宏

ヘルスリテラシーを高めて新たな健康リスク「ポリファーマシー」から身を守ろう

「毎日サプリを手のひら一杯飲んでいる」「いろんな先生から薬を出してもらっている」
一見すると健康そうなこの行動、実は危険にはらんでいることをご存知でしょうか? 今、“ポリファーマシー”が問題視されています。今回は、ポリファーマシーについて、そしてポリファーマシーから身を守る方法を解説します。

■ポリファーマシーとは

「ポリファーマシー(polypharmacy)」とは、一人の患者さんが複数の薬剤を服用している状態をさす学術用語です。(*1)最近では、常時使用しているサプリメントや市販薬を含む薬剤が5剤以上の状態と定義されます。(*2)近年、サプリメントの常用が“普通”になっていることに加え、高齢化が進む日本において、ポリファーマシー状態はどんどん進行しています。内閣府の調査によると「約5割の人が2種類以上のサプリメントを利用し、2種類以上のサプリメントを利用している人の約7割は、ほぼ毎日利用している」という結果が出ています。(*3)さらに、加齢とともにヒトは複数の病気、複数の慢性的な症状を有するため、病気や症状に応じた治療をすべて行えば、おのずと薬剤数が増加します。現在、高齢者の約50%がポリファーマシー状態にあると言われています。(*1)

■ポリファーマシーの問題

ポリファーマシーは様々な問題を含むとされます。

(1)薬剤関連有害事象

薬やサプリメントには相互作用があり、飲み合わせによっては思いもよらない有害事象に遭遇します。特に高齢者は、肝臓・腎臓の代謝機能が低下しており、多数の薬剤を使い続けることによって薬物関連有害事象を招きやすいと言われています。日本老年医学会によると、80歳以上のヒトに6剤以上の薬剤を投与した時には、30%程度に副作用がでる恐れがあることを警鐘しています。(*4)例えば、転倒して骨折した患者さんの飲み薬を見てみると、ふらつきや転倒の原因となる睡眠薬や利尿剤がたくさん入っていることがよくあります。

(2)服薬アドヒアランスの低下

意味あって処方されている薬を、医師の意図した通りに患者さんが飲むこと。それを「服薬アドヒアランス」と呼びます。しかし、飲む薬が増えると薬の名前を覚えることもままならず、治療内容(薬)に対する患者さんの理解が低下し医師の意図した通りに薬を飲まないようになってしまうことがあります。例えば、血圧を測ってみたらそれほど高くなかったので、自己判断で降圧薬の服用をやめた、など。薬の種類が多くなればなるほど、薬が正しく服用されないことが分かっています。

(3)医療費の増加・経済損失の拡大

たくさん薬が出れば医療費が増加するのは当然です。しかし、問題はさらに根深いのです。薬の飲み間違いや処方箋の日数調節で発生する“残薬”は年総額で約500億円とも言われています。(*5)それだけではありません。薬の処方が増えると、患者さんが薬を間違えて飲まないように、薬剤師さんは“朝飲む薬”“昼飲む薬”といったように薬を小分けにして患者さんにお届けします。これを「一包化」と呼びますが、これには薬剤師さんの大変な手間がかかります。しかし、医師が処方内容を変更するとさらに大変です。ある薬が処方内容から消えると、一包化された袋からその薬を抜く必要があり、これは全て薬剤師さんの手作業になります。今、全国の薬剤師さんがこの手作業に膨大な時間を奪われていることを考えると、大きな労働力の損失であり、経済損失です。

それでは、なぜポリファーマシーが問題になるのでしょうか?

■ポリファーマシーを引き起こす原因

薬が多くなる理由は、(1)細分化された診療科による診察・処方(2)医療機関同士のコミュニケーション不足(3)薬局の機能不全(4)患者のヘルスリテラシー不足、などが挙げられます。

(1)細分化された診療科による診察・処方:高齢化が進むにつれて、複数の病気を持つことが当たり前になってきています。東京都健康長寿医療センターのまとめたデータによると、後期高齢者の8割が2疾2患以上の慢性疾患を併存、6割が3疾患以上の慢性疾患を併存していることが分かっています。(*6)

(2)医療機関同士のコミュニケーション不足:このような現状において、各科の連携が十分に取れていないと薬が雪だるま式に増えていくことがあります。これを「処方のカスケード」(prescribing cascade)と呼び、ある薬の副作用に対して別の薬が処方され、さらにその副作用に対処するために次の薬が処方される、という連鎖のことを意味します。(*7)医師が患者さんの全ての薬を把握するには、現在の制限された診察時間と情報を共有する土壌がない状況下ではとうてい無理です。

(3)薬局の機能不全:“薬剤師”が増えた今、調剤薬局に患者さんを誘導するように、処方箋を出す方が院内処方するより病院側にメリットがあるように診療報酬は設定されています。そのせいで、薬剤師さんが「薬多いな」と思っても、薬剤師さんはカルテを見られず処方の経緯も知らないので、調剤薬局側から病院側に処方内容の確認をすることにハードルがあります。また、診療所の医師に対する遠慮もあり、心理的ハードルも高いと言えます。これらのことから、本来果たすべき薬剤師の役割が機能していないのです。

(4)患者のヘルスリテラシー不足(後述):薬に対する期待、あるいは依存度が高い人が多く存在し、患者さん自らが薬を希望するケースも多々あります。「午前中に風邪で他院を受診したけど、改善しない。抗生剤や解熱剤を出して欲しい」という理由で受診される方もいます。また、患者さんが「この薬とこの薬が欲しい」と指定してくるときがあります。(特に、解熱鎮痛薬、湿布、睡眠導入薬などが多い)“モンスターペイシェント”という言葉が世に出て久しいですが、今の医療はサービス業的側面を無視できません。これらのようなケースの場合、医学的・医療経済的に大正解である「お出しできません」という答えでは“ヤブ医者”扱いされかねませんので、副作用が懸念されない場合薬を処方してしまう医者がほとんどです。(これを「防衛医療(defensive medicine)」と呼ぶ)

■ポリファーマシーから身を守るために

上述のように、ポリファーマシーの問題は医療機関や制度による構造的な原因が多数を占めます。しかし、これから身を守るために一番大切なことは、患者さん自身が「なぜこの薬を出されているのか」「サプリを飲んでいるのか」を、再確認することです。つまり、様々な情報を立体的に捉え、情報を使いこなしそれを自分の健康に応用する能力である「ヘルスリテラシー」を高める必要があります。サプリも何でもかんでも飲むのがいいわけではありません。医師から処方された薬であっても、相互作用があるので、薬をたくさん飲むことが健康を害することも往々にしてあります。

個人がヘルスリテラシーを持つことは基本ですが、薬の必要性を判断するような専門性が高い知識を必要とする場合、すぐに相談できる “顧問ドクター”を見つけましょう。顧問ドクターは幅広い知識と中立的な視点を持った医師で、(1)個々の患者における薬剤有害事象の全体的なリスクを把握し、積極的に介入をすべきかを評価する、(2)潜在的なリスクとベネフィットを評価し、中止の妥当性について検討する、(3)低リスク・高ベネフィット、患者の希望などを考慮して中止薬剤の優先順位を決める、(4)中止プランを実行し、アウトカムの改善や副作用発現のために注意深く患者を観察する、ことであなたをポリファーマシーから守ってくれます。(*8)

以上、ポリファーマシーの現状と問題点、解決方法を解説しました。ポリファーマシーは聞きなれない言葉かもしれませんが、あなたやあなたのご家族の健康を脅かす身近な存在です。サプリはたくさん飲めばいいというものではありませんし、病院にたくさんかかることも時に危険をはらみます。ポリファーマシーから身を守るためには、ヘルスリテラシーを高め「自分の命は自分で守る」ことを肝に命じて、今飲んでいるサプリ・薬を再確認することから始めましょう。

【参考文献】

    1. 日本食品工学会誌2017: 64; 517-8
    2. the Pharmaceutical Journal
    3. 内閣府
    4. 日本老年医学会
    5. 厚生労働省
    6. 東京都健康長寿医療センター
    7. BMJ 1997: 315; 1096-9
    8. JAMA Intern Med 2015: 175; 827-34

文/中村康宏
医師。虎の門中村康宏クリニック院長。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。予防サービスが充実したクリニック等での研修を通して予防医療の最前線を学ぶ。また、米大学院で予防医療の研究に従事。同公衆衛生修士課程修了。帰国後、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」にて院長。一般内科診療から健康増進・アンチエイジング医療までの幅広い医療を、予防的観点から提供している。近著に「HEALTH LITERACY NYセレブたちがパフォーマンスを最大に上げるためにやっていること」(主婦の友社刊)がある。

HEALTH LITERACY NYセレブたちがパフォーマンスを最大に上げるためにやっていること

http://shufunotomo.hondana.jp/book/b454468.html

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