選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
18世紀後半、すなわち古典派の始まりから、19世紀全般、すなわちロマン派の時代にかけて、主役ともいえる楽器だったフォルテピアノ(現代のピアノと区別してそう呼称される)の多様な響きを探求する演奏家たちの動きは、現代のクラシック音楽において最も重要な潮流のひとつである。
山名敏之・朋子のデュオによる『シューベルト:フォルテピアノによる4手連弾作品全集』は、かつて家庭やサロンで演奏されていた連弾作品の真価を、フォルテピアノの手触り優しくも明晰な響きによって問い直そうというもの。ウィーンの1820年ローゼンベルガー製、1782年ワルター製のフォルテピアノを用いたその演奏は、シューベルトの音楽から新鮮な柔らかい響きと夢見るような寂寥感を引き出していて、聴きごたえ充分である。エキゾティシズムと対位法という二つの観点も興味深い。
【今日の一枚】
シューベルト:フォルテピアノによる4手連弾作品全集 第1巻エキゾティシズムと対位法
山名敏之・山名朋子(フォルテピアノ)
発売/ALM RECORDS コジマ録音
電話:03・5397・7311
3400円(2枚組)
文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2019年7月号のCDレビュー欄「今月の推薦盤」からの転載です。