取材・文/坂口鈴香
この連載のテーマは「親の終の棲家をどう選ぶ?」だが、親を介護する子どもも50代から60代が中心だ。その子どもが倒れるという例は決して少なくない。
50代の妻が脳梗塞に
金澤健司さん(仮名・58)の妻・君江さん(57)は、2度の脳梗塞に襲われた。
脳梗塞とは、脳の血管が詰まり、脳の神経細胞が死んでしまう病気だ。脳梗塞を起こすと後遺症が残ることが多く、日常生活に手助けが必要になることもある。一方、脳出血やくも膜下出血は、脳の血管が破れて、脳の組織が破壊される病気だ。これらを合わせて「脳卒中」というが、その中でもっとも多いのが脳梗塞で、脳卒中の4分の3以上を占めている。
厚生労働省の「平成28年国民生活基礎調査の概況」によると、介護が必要になった主な原因の1位は認知症、2位が脳血管疾患(脳卒中)だ。要介護5では、脳血管疾患が1位となっている。
君江さんの場合、1回目の脳梗塞は症状が軽かった。重大な後遺症も残らず、1週間の入院とリハビリで自宅に戻ることができた。君江さんは、夫の健司さんと健司さんの母親(86)の3人暮らし。夫婦ともに動物好きで、愛犬に加えて、近所の猫もかわいがっていた。近所でも評判の明るい夫婦で、いつも冗談を言い合いながら仲良く暮らしていたという。結婚当時から同居している健司さんの母親は要介護1。自分の身の回りのことはできていたが、家事はすべて君江さんが行っていた。
しかし退院後、状況は一変した。君江さんには手の震えが残ったため、簡単な家事しかできなくなった。そこでほとんどの家事は健司さんがやるしかない。
健司さんは心を決めた。「早期退職をする」――それが1回目の決断だった。
「私はそんなに真面目な性格ではなくて、おおざっぱ。だから家事も完璧にやろうとは思っていなかったね。食事は総菜を買ったりして、やれる範囲でやっていきました」
健司さんが言うほど、初めての家事は簡単なことではなかったに違いないが、こうして健司さんが家事全般を担当する体制が整っていった。思えば、これがこのあとの介護生活へのいい準備期間となったのかもしれない。
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