取材・文/渡辺陽
3月に入ってから花粉の量もぐっと増え、鼻づまりや目のかゆみにうんざりしている人も多いのではないでしょうか。軽症であっても、毎年毎年鼻水や眼のかゆみに悩まされては生活の質が低下してしまいます。今年こそ舌下免疫療法(ぜっかめんえきりょうほう)で、花粉症をしっかり治してみませんか。たくさんの花粉症患者が訪れるという、大阪の太融寺町谷口医院の院長、谷口恭先生に話を聞きました。
舌下免疫療法とは?
――舌下免疫療法は、どんな治療法なのでしょうか。
谷口恭先生(以下、谷口) 「花粉症の人の場合、身体がスギ花粉を“敵”とみなしているので、花粉を鼻や口から吸う、もしくは眼に付着すると、“敵”をやっつけようと免疫系の細胞が一斉に攻撃をしかけます。すると、身体のいろいろな部位に炎症が起こり、鼻粘膜の炎症によってくしゃみや鼻水、鼻づまりが、結膜の炎症によって眼のかゆみが起こります。免疫療法は、炎症が起こらない程度の微量の“敵”を体内に取り込み、だんだん敵と認識しなくなるよう免役をつけ、身体をならしていく治療法です」
現在、舌下免疫療法に使われている薬には、シダトレンという液体の薬とシダキュアという錠剤があります。シダトレンは2分間、シダキュアは1分間、薬を舌の下に含んでおき、その後飲み込みます。最初から飲み込んでしまうより、舌の下に置いておくと速やかに体内に成分を吸収できるのです」
――シダトレンとシダキュア、どちらがいいのでしょうか?
谷口 「いずれも1日1回服用すればいいのですが、シダトレンは冷蔵庫で保管、シダキュアは錠剤で、常温で保管できます。いずれも少ない量からはじめて、シダトレンは2週後から徐々に増量して維持期(同じ量を飲み続ける)に入り、シダキュアは1週間後から2.5倍に増量し、維持期に入ります。シダキュアの維持期の抗原(花粉)量はシダトレンの2.5倍と高くなっており、より早く効果が出ることが期待されています。
ただ、シダキュアは新しい薬なので現在、2週間分しか処方できません。先に発売されたシダトレンは長期処方ができるため、当院では、いまはシダトレンで治療している人のほうが多いです。今年(2019年)の5月か6月には、シダキュアも長期処方できるようになるので、今後はシダキュアで治療する人が増えてくるでしょう」
規則正しい生活ができる人におすすめ
――治療に長期間かかるので、自分にはできないとあきらめている人もいるようですが。
谷口 「完治するまで3~5年間は治療を続ける必要があり、途中でやめると、また元の身体に戻ってしまいます。治療をはじめて間もなく口腔内が腫れるなど軽い副作用が起こりますが、当院で治療を続けられなくなる人はほとんどいません。長い人生、毎年花粉症に悩まされても対症療法で我慢するのか、数年間治療を続けてQOL(生活の質)を上げるのか、よく考えてみてください。
パイロットなど時差勤務の人、夜勤のある人、規則正しい生活ができない人、意外と多いのですが薬を毎日飲むことができない人には向かない治療法です。逆に、規則正しい生活を送れる人、薬を毎日飲むことができて、副作用の説明を理解できる人には向いています」
あなたは本当に花粉症なのか?
――風邪など、花粉症と似た症状の病気もあると思うのですが。
谷口 「舌下免疫療法は、治療をはじめる前に本当に花粉症なのかどうか、問診や検査ではっきりさせることも大事です。ほとんどの方は問診で分かりますが、検査をすることもあります。慢性鼻炎やウイルス性の風邪なのに、花粉症だと思いこんでいる人もよくいます」
【本当に花粉症なのかチェックしてみよう】
谷口恭(たにぐち・やすし)
91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。
太融寺町谷口医院
http://www.stellamate-clinic.org/
取材・文/渡辺陽(わたなべ・よう)
大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。小学館サライ.jp、文春オンライン、朝日新聞社telling、Sippo、神戸新聞デイリースポーツなどで執筆。