文/印南敦史
『50代からのちょっとエゴな生き方』(井上裕之著、フォレスト出版)の著者は、6万人以上のカウンセリング経験を生かした治療方針が広く支持されている歯学博士。その傍ら、経営コンサルタントとしても活動しているという異例の人物でもある。
年齢的には50代後半であるため、同年代の多くの人たちと同じような現実に直面しているとも明かす。
50代になると、40代までははっきりと見えなかった現実が、目の前に浮かび上がってきます。
仕事、お金、人間関係、健康、このままでいいのかーー。
避けられない多くの問題に直面し、心配事や悩みを抱えている人が多くいるという事実があります。
その一方、幸せで、満ち足りた日々を過ごしている颯爽とした人も多くいます。
前者と後者、あなたの人生は今どちらでしょうか。
「この差は“何の違い”から生まれるのか」ということがわかれば、多くの人が後者になることができると考え、今回執筆を決めました。
後者は前者よりも、少しだけ自分のエゴを通して、自分を大切にしています。
これは、ちょっとした勘所を知れば、他人に迷惑をかけることなく、自分の心配事を小さくすることができる、50代に与えられた特権だと言えます。この特権をうまく使いこなしましょう。(「はじめに」より引用)
本書ではこのような考え方(適度にエゴを通すことの重要性)を軸として、自分を消耗させる心配事や悩みを解消し、幸せな価値ある人生を生きるための指針となることを記しているのである。
今回は第3章「人 距離感をコントロールして「人間関係」をシンプルにする」のなかから、なにかと気になる人間関係についての考え方を抜き出してみたい。
人間関係は、何歳になっても人間にとっての最大の悩み。人とどう向き合い、どうつきあっていくかによって、幸せにも不幸にもなるということだ。しかし、それでも50代になったら一度、友だちや知り合いとのつきあい方を考えなおしてみてもいいのではないかと著者は提案する。
交友関係は広いほうがいいと言われるが、この年代になったら、むしろ少し狭くしてもいいのではないかというのである。
いうまでもなく、20代、30代、40代に求められるのは、人脈を広げること。好奇心のアンテナを張り、いろいろな人とつながることができれば、人生にいい影響を与えることができるからだ。
この時期に、勉強会や集まりなどへの参加を勧められることが多いのも、つまりはそんな理由があるから。40代までは、「自分にとって、なにが本当に大切なのか」ということになかなか気づけないため、大量の情報を得て、大切なことを見極めようという考え方である。
しかし50代になったら、人生の残りの時間をより大切に、良質に過ごしていかなければならないと著者は主張する。
「誰とでも会う」「人と広く浅くつきあう」といった発想を改め、「人生の質を高めていくためには、どんな人と、どんなつきあい方をしたらいいのか」ということを真剣に考えていくべきだというのである。
非情で自分勝手のように聞こえるかも知れませんが、「この人は、自分の人生の質を高めるために重要な人か?」という視点から、交友関係を考えてください。
人生の質を高めるために旅行をしたいと思う人は、たくさん世界中を旅行してきて詳しい人。
自分が体づくりをしていこうと思う人は、健康で美しい体をつくっている人。
このように、すでに結果を出していて、その分野に関して詳しい人たちと関わっていくことが重要です。趣味分野でも、仕事分野でもなんでもそうです。(本書80ページより引用)
つまり、一緒に成長していこうというような仲間よりも、こちらに対してなにかしらの指針を示してくれる人とつき合っていくべきだということ。つきあう相手をそのような観点から厳選し、交友関係を狭めていくことが50代には必要だというのである。
では、仕事の関係者についてはどうだろうか。友人や知人なら自分で厳選することも可能だが、ビジネスパートナーの場合、なかなかそうできないものでもあるはずだ。ましてや仕事で関係する人に対しては、ストレスを感じやすいものでもある。
ビジネスパートナーとの関係性については、私は常に「相手に結果を出させてあげること」を第一に考えて接します。自分が結果を出すことだけにとらわれていると、相手の熱意、仕事の能力などの高低によって自分の心を乱す可能性があるからです。(本書87ページより引用)
40代までは、少しばかり心が乱れたとしても、自分の結果のためにがんばればいい。しかし50代になったら、心の状態を大切にすることも考えつつ、人とつきあっていくことが大切だというのである。
仕事に関しては、相手が思いどおりに動いてくれず、うまくことが運ばないため心が乱されるというケースも少なくない。そのため、視点をずらすことが重要になってくる。
たとえば、自分がいままでの仕事人生で培ってきて、なおかつまだ相手が知らないこと、足りないことを伝えていきつつ、相手に「結果を出しやすい状況」をつくってあげる。つまり、自分の実績づくりのためではなく、「人を育てていく」「応援していく」という意識で接していけばいいということ。
これは人間関係のストレスを消すだけでなく、さらにいい効果があると著者は考えているそうだ。
相手が結果を出し、成長すると、相手はあなたに感謝してくれます。
すると、その人は、その後末長くあなたを応援してくれるようになるのです。
私の周りの60代以降の人で、人生を謳歌している人は、必ず応援者が多くいます。(本書88ページより引用)
60代でも第一線で働いている人は、仕事に関して言えば超一流。普通の人は仕事からフェードアウトしていくもので、しかも60歳を超えると、だんだん人が離れていくことにもなるだろう。だからこそ貴重なのは、60代になったときに応援してくれる人を見つけることだというわけである、
ただし大切なのは、いまの自分にとってベストな状態をつくるために人を利用しようと考えるのではなく、次の段階に進んだときにも仕事を楽しめるように準備をしておくことだと著者は言う。自分と関わっていきながら、相手が結果を出せる人になっていくことで絆が生まれ、それがのちの応援につながるということだ。
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人間関係だけでなく、「仕事」「お金」「学び」「品格」「健康」と、本書ではエゴに生きるために知っておくべきことをさまざまな角度から明かしている。リタイア後をより快適なものにするために、ぜひとも参考にしたいところだ。
50代からのちょっとエゴな生き方 井上裕之著 フォレスト出版
文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』などがある。新刊は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)。