文/中村康宏

例年よりかなり早い梅雨明けで、季節の変化に戸惑ってる人も多いのではないでしょうか。

さて、本格的な夏を迎えるに当たり、注意していただきたいのが「熱中症」です。近年のヒートアイランド現象(人やモノなどの一極集中により、そこの気温がその周辺部に比べて高温を示す現象)や地球温暖化等によって、例年、夏季の熱中症患者さんの増加が社会問題として大きく取り上げられています。

熱中症の症状は様々ですが、熱中症が重篤化すると生命へ危険が及ぶこともあり注意が必要です。しかし、熱中症は適切に予防することにより、発症を防ぐことができます。今回は熱中症とその予防方法について解説します。

そもそも熱中症とは

熱中症は「高温の環境下で発症する生体の障害の総称」と定義されています。簡単に言うと、高温な環境に身体が適応できず、それによって生じる様々な症状の総称(つまり「頭痛」など特定の症状を指さない)のことです(*1)

熱中症の原因となるのは「脱水」と「高体温」です。脱水が体重の1%増加するごとに体温は0.3度上昇するといわれています(*3)

ヒトは「恒温動物」で体温を36‐37 度の範囲でカラダの温度を調節している動物です。そのため、周囲の環境や運動などによって体温が上昇した場合、皮膚から熱を逃がしたり(放散熱)、汗を出しその蒸発により体温を下げたり(気化熱)し、体温を一定に調節しています。(*4)

しかし、気温が高くなると皮膚表面からの熱の放出が難しくなります。また、湿度が高いと汗はたくさん出ますが、汗の蒸発量が少なくなり体温を下げることができなくなります。このような環境下では、多量の発汗が持続的に起こって体液不足となり、汗をかけなくなります。すると、皮膚を通した体温調節機能が失われ体内に熱がこもるため「熱中症」となります。

熱中症になるとどうなるか

熱中症はある特定の症状を指す訳ではなく、様々な症状が現れます。以下のような症状が出たら、熱中症にかかっている危険性があり、その症状は重症度の目安になります。

軽症では、めまい、立ちくらみ、筋肉痛や筋肉のけいれん、汗がとまらない、などの症状が現れます。中等症では、だるさ、頭痛、吐き気、身体がだるい、などの症状が現れます。重症になると、意識がない、全身のけいれん、高い体温、見当識障害(例えば、呼びかけに対しての応答がおかしい、など)、真っ直ぐに歩けない・走れない、などの症状が現れます(*4)。重症の場合は水を飲むだけでは改善しない場合もありますので、早急に病院を受診しましょう。

熱中症を避けるためにはどうすればよいか

まずは「暑さにカラダが適応するまで時間がかかる」ことを頭に入れておきましょう。

ヒトは暑い日が続くと、身体がしだいに暑さに慣れ、汗をかくための反応が速くなり、体温上昇を防ぐのが上手になってきます(暑熱順化)。さらに慣れが進むと、汗に無駄な塩分を出さないようにするホルモンが分泌されるようになり、適応力が増します。こうした暑さに対する身体の適応は気候の変化より遅れて起こるので、暑くなり始めや急に暑くなった日などは注意が必要です(*4)

そして熱中症予防・治療の基本は、一にも二にも「水分補給」です。

ヒトの身体は塩分 0.3 %、水分60~70%を含んでおり、発汗により水分だけでなく塩分も失われます。塩分が失われることで体内の「水のバランス」が崩れると、体内で栄養素の運搬や老廃物の排泄、体温調節をする働きが機能しなくなるので、発汗により失われる水分や塩分を補う必要があります。

しかし、水分補給時に、水のみを一度に大量に摂取すると、体内の水のバランスが崩れて体調不良となることがあります。これは「低ナトリウム血症」と呼ばれる病態で、血液(体液)中のナトリウム濃度が低下することによって起こります。軽度では無症状のこともありますが、一般に倦怠感、吐き気、嘔吐、筋肉のこむらがえりなどの症状が見られます。したがって、暑い日の水分補給の際には塩分を摂取するとともに、水を過剰に摂取しないように注意することが重要です。

ちなみに水分・塩分を補給する飲料の塩分濃度は0.2~0.4%程度、補給量は体重の減少量が目安と言われています。

また、アルコールは尿の量を増やし、体内の水分を排泄してしまうため、逆に脱水が進行してしまうこともあります。ビールの飲み過ぎには注意が必要です(*4、5)

「住宅内の熱中症」にこそ気を付けましょう。

従来、熱中症は「熱射病」や「日射病」と呼ばれ、労働現場で多く発生していました。しかし、労働環境の改善や産業構造の変換によりこのような熱中症は減少しました。近年は、炎天下でのスポーツによる熱中症がニュースなどで注目されています。

しかし、もっと身近で危険な「日常生活中に住宅内で発症する熱中症」はあまり知られていません。

日本では年間40万人が熱中症になっていると報告されています。運動中などに起こる熱中症は、健康な人が短時間で発症するため、診断も比較的容易で治療への反応も良く重症例が少ないことが特徴です。

一方、高齢者など病気を抱える人の熱中症は、日常生活の中で徐々に進行し、周囲の人に気付かれにくく、対応が遅れる傾向があります。また高齢者の場合、低栄養や脱水、持病の悪化、感染症など複合的な病態が熱中症の発症要因となっており、高齢者における熱中症患者の増加が問題化しています。

このような屋内で起きる熱中症は、重症例が多いことが特徴です。日本救急医学会の研究によると「高齢」「屋内発症」「非労作性熱中症(外での作業や運動によらない熱中症)」が熱中症で死亡するリスクを高めるとしています(*2)

暑さを和らげる工夫を日々の生活の中に取り込みましょう。

そんな「住宅内での熱中症」対策として、以下のことに留意してください。

 

(1)直射日光を避ける:カーテンや日除けを活用し、室内であっても直射日光に注意しましょう。外では、帽子をかぶったり、日傘をさすことで直射日光をよけましょう。

(2)室温に気をつける:扇風機やエアコンで室温を適度に下げましょう。過度の節電や我慢は熱中症になるリスクを高めます。

(3)衣服を気をつける:麻や綿など通気性のよい生地を選んだり、吸水性や速乾性にすぐれた素材を選ぶことをオススメします。

*  *  *

以上、熱中症とその予防のポイントについて解説しました。

「熱中症=炎天下」というイメージが定着しつつありますが、屋内での熱中症の方が格段に多く、その重症度や死の危険性も高いのです。特に、高齢者などの熱中症は、日常生活の中で徐々に進行し、周囲の人に気付かれにくく対応が遅れる傾向がありますので注意が必要です。

正しい予防と対策を施すことで熱中症は予防することができます。イベントも多い夏ですが、だからこそ安全に、そして元気に夏を乗り越えられるように、熱中症のことを知ったうえで、対策には細心の注意を払ってください。

【参考文献】
※1 日本救急医学会の熱中症ガイドライン2015
※2 Jpn. J. Biometeor 2010: 47; 119-29
※3 Autonomic Neuroscience: Basic and Clinical 2016: 196; 52–62
※4 Bull Soc Sea Water Sci 2014: 68; 307-9
※5 Jpn J Biometeor 2015: 52; 97–104


文/中村康宏
医師。虎の門中村康宏クリニック院長。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。予防サービスが充実したクリニック等での研修を通して予防医療の最前線を学ぶ。また、米大学院で予防医療の研究に従事。同公衆衛生修士課程修了。帰国後、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」にて院長。未病治療・健康増進のための医療を提供している。

 

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