夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。火曜日は「暮らし・家計」をテーマに、川合俊一さんが執筆します。
文/川合俊一
これまで紹介してきた僕の株式投資のやり方について、ギャンブル的な要素が強いという印象を持たれた方がいるかもしれません。僕の取引の様子に密着したバラエティ番組の放送後、やはり、視聴者の方からそういう声をいただきました。
正直、ギャンブル的な要素があることを否定はしません。僕自身、株式投資にドキドキ感を求めていることは事実だからです。
株は上がることもあれば、下がることもある。損をするたびに「あちゃー」と思いますが、なぜか興奮し、その状態を楽しんでいる自分がいるんです。
おそらく、僕のそうした気質は、アスリート時代に培われたものでしょう。
現役時代は、年間100試合ぐらい戦っていました。試合になればアドレナリンが出て、勝つために全力で戦っていました。それでも負けることがあるから、次の試合に勝とうと、またヤル気が沸いてきます。
これが、勝つことがわかっているような試合ばかりでは、全然おもしろくない。例えば、大学生のときに、高校生が相手の試合ならほぼ100%勝つわけです。でも、そんな試合を何試合しようが、ドキドキ、ワクワクすることはないんです。
勝つか負けるかわからない状況のなか、いかにして勝っていくのかを考えて練習し、目標に向かっていくからこそ、スポーツはおもしろく、燃えるというもの。
特に、バレーボールは、逆転が起こりやすいスポーツなんですよ。
通常5セットマッチで行なわれますが、実力が拮抗しているチーム同士の試合でも、片方のチームがポンポンと1、2セット連取してしまうケースがあります。一見、実力差があるように見えますが、そこから負けているチームが、あれよあれよと3、4、5セットを連取して逆転勝ちをする、なんてことが頻繁に起こるのです。
これには明確な理由がありまして、まず、人間の集中力というのは1時間程度しか持続しない、ということが挙げられます。
バレーボールの試合は、2セットで大体1時間経過します。すると、1、2セットを取っているチームは、勝っている安心感もあり、3セット目を迎える時点で、集中力が失われやすくなります。
一方、負けているチームは、ストレート負けだけは避けたいと必死になります。そこで、両チームに集中力の差が生まれるのです。
また、負けているチームは3セット目からは戦術を変えます。勝っているチームは上手くいっているので、往々にして戦術は1、2セットと同じになります。その戦術の転換によって、試合展開がガラッと変わることがあるのです。
1、2セット取られたチームが3、4セットを連取してフルセットまでもつれ込むと、もはや勝負は五分五分。今度は、勝っていたチームは、せっかく1、2セット取ったのに逆転負けはしたくないと必死になり、フルセットに持ち込んだチームは、今度はこのままいけるのではという安心感が生まれます。
バレーボールの選手なら、こうして逆転が起こりやすいことはイヤというほどわかっているので、1、2セット取られてもあきらめることはありません。
そういう生活を、年間100試合、中学・高校から社会人となった20代後半まで続けてきたので、勝敗を決するという醍醐味が、体に染みついてしまったのでしょう。どうしても、株にそれを求めてしまうんですね。
「手堅く儲ける」より、楽しく過ごすためにお金を使う
たしかに、株式投資を資産運用の手段として、手堅くやる方法もあります。僕の知り合いだと、杉村太蔵君は、企業の業績や財務状況をきちんと調べて、安定した利益を出す企業にしか投資しません。それで、毎年ほぼ利益を出しています。
でも、僕は太蔵君のように手堅く儲けても、おもしろさを感じないんです。僕は競馬もやりますが、まず本命は買いませんから。
ただ、スポーツ選手が、みんな僕のようにドキドキ、ワクワクを求めるタイプかというと、それは違うことは付け加えておきます。スポーツの種目、ポジションによるんじゃないでしょうか。
正確なことは言えませんが、ディフェンスが重要なスポーツとか、守備的なポジションだった人は、もう少し手堅い投資をするような気がします。野球でいうとピッチャーとか、ゴルファーとか。あくまで推測ですけど。
あと、僕が「バブル世代」であることも関係しているのかもしれない。バブル世代というと、「お金がいちばん」というイメージがあるかもしれませんが、当時は、お金よりも「楽しいことがいちばん」という風潮でした。楽しく過ごすためにお金を使う、という感覚です。
だから、儲かることも重要ですが、僕にとって株式投資は勝負を楽しめることがいちばん大事なのだと思います。
競馬もそうですが、損をしたときほど、その後の反省会って楽しいじゃないですか(笑)。
競馬だと「なんで第2コーナーのところでいったん下げたのか」、株だと「なんであのとき売らなかったんだろう」とかね。不思議と儲かった銘柄はすぐ忘れてしまいますが、損をした銘柄は記憶に残りやすいものです。
ただ、これを株式投資のおもしろさといって人に勧めるのは……さすがに僕も気が引けます。
根っからのポジティブさがないと、楽しめないと思います。
文/川合俊一(かわい・しゅんいち)
昭和38年、新潟県生まれ。タレント・日本バレーボール協会理事。バレーボール選手としてオリンピック2大会に出場(ロサンゼルス、ソウル)。
撮影協力/Cafe Apartment 183