夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。木曜日は「旅行」をテーマに、パラダイス山元さんが執筆します。
文/パラダイス山元(ミュージシャン・エッセイスト)
パラダイス山元と聞いただけで、えらくお気楽な南国生まれと思われがちなのですが、それは間違いです。よく「沖縄生まれなんですか?」と問いかけられるのですが、まったくの真逆です。そういえば、「パラダイス沖縄」という航空会社のキャンペーンがありましたね。
残念ながら私は、北海道の札幌生まれです。
厳しい冬を、高校卒業までの18年間なんとか耐えてきたのですが、ついに寒さと過酷な人間関係に耐えられなくなって上京しました。
「パラダイス~」は、南国、極楽への憧れが強く反映された名前といえます。
新千歳空港の売店で山積みにされ、中国人観光客が爆買いしているメジャーなお菓子に、私はほとんど興味を示さないというのは、北海道の昔からの友人には周知の事実です。
地元のスーパーやコンビニの菓子パンコーナーの隅にひっそり置かれたオレンジ色のニクイ奴。友人が上京する際、手土産にお店にあるだけレジ袋に詰めて買って来てくれます。これを牛乳に浸しながらモグモグするのが、私の築き上げてきた本当の幸せ……なんです。
でも、北海道に戻らなくては、食べられないものが、実は多数あります。どんなものでも東京で食べられると錯覚しがちですが、我慢の限界を超えそうになったら即座に飛行機に乗って生まれ故郷を目指します。
↓飛行機の機内で軽くお腹を満たしておきます。暴飲暴食の旅のウォーミングアップです。拙著「パラダイス山元の飛行機の乗り方」は、機内サービスには含まれておりません。
実は札幌の街は佐賀の方がつくったということをご存じの方はどれほどいらっしゃるのかしら。明治2年、蝦夷地開拓を命ぜられ、はるばる佐賀からお越しになった島義勇(しま・よしたけ)判官。彼がいなかったら、「パラダイス山元さんと一緒に行く珍魚苑 in 佐賀」ツアー(連載第2回参照)の催行もありませんでしたし、何より現世での私の存在自体が危ぶまれます。ただただ感謝しかありません。
↓本場へ来たら、本場の味です。
ラーメン、ジンギスカン、寿司、海鮮丼と、北海道に美味しいものは数々あれど、フランス人が毎日フレンチのコースを食べているわけではないように、北海道の人も毎日イクラ丼を食べていたりはしません。
↓私の身体の3分の1は、「風月」の焼きそば、お好み焼でできています。
小さい頃から餃子ばかり食べているように思われがちですが、高校の近くにあった焼きそば・お好み焼の「風月」のメニューこそが、私のソウルフード。昭和42年創業、北海道内各地に支店があります。ラーメンに飽きたら、海老、イカがふんだんに入った、北海道のお好み焼をぜひ味わってみてください。
暴飲暴食が目的の故郷への旅の途中に、若くして亡くなった親友のお墓参りに来ました。
霊園の入り口には、チリ本国を上まわる数のあの石像が並んでいます。そのココロは、鎮魂なのかどうかはわかりませんが、お参りに行きたくなるパワーは秘めていると思います、私個人としては。珍名所などと評するべきではないと。
お墓参りの帰り道、日本一のパワースポットがあるというので立ち寄ってみました。札幌に、日本一ですよ。
1972年の冬季五輪開催に続き、2026年の招致活動も始まりました。たった五十数年の間に、2度の冬季五輪開催を目論み、すでに大仏まで完成させてしまった札幌の突き抜け方にブラボーです。
旭川にある旭山動物園はもちろん有名スポットですが、札幌からはクルマで2時間半かかります。私が、小学生の時、写生会で入賞、人生初めての賞状をもらったのが札幌市円山動物園。冷静に考えると、この受賞がきっかけで、人生の道を踏み外したともいえます。審査員にお礼参りしたい心境です。最近、ここにホッキョクグマ館ができて人気というので立ち寄ってみました。
園内で、いい「空室」の出物を見つけました。
札幌に戻って、ここに住みたいです。
餌は、高橋製菓の「ビタミンカステラ」を、ちぎって投げてください。
いろいろなポーズでキャッチしますので。
文/パラダイス山元(ぱらだいすやまもと)
昭和37年、北海道生まれ。1年間に1024回の搭乗記録をもつ飛行機エッセイスト、カーデザイナー、グリーンランド国際サンタクロース協会公認サンタクロース日本代表、招待制高級紳士餃子レストラン蔓餃苑のオーナー、東京パノラママンボボーイズで活躍するマンボミュージシャン。近著に「なぜデキる男とモテる女は飛行機に乗るのか?」(ダイヤモンド・ビッグ社)、「読む餃子」「パラダイス山元の飛行機の乗り方」(ともに新潮文庫刊)など。