文/緒方文大
昨今の「アンチエイジングブーム」により、老化を防ぐ作用のある「抗酸化物質」が注目を集めています。その代表格が「ビタミンC」。現在、サプリメントを含め市場には様々なビタミンC関連商品が出回っていますが、ビタミンCと言えば「美容」というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか?
しかし、最近の研究によって、ビタミンCの持つ美容にとどまらない様々な効果が明らかとなっています。
そこで今回は、最新の医学的・科学的知見をもとに、ビタミンCの知られざる7つの働きと、我々に与える嬉しい効果について解説したいと思います。
そもそもビタミンCとは何か?
ビタミンCは、「壊血病」という病気を予防する物質として最初に発見されました。壊血病とは全身の血管が脆くなり、あらゆる血管から出血することで死に至る怖い病気で、当時は不治の病として怖れられていました。
大航海時代、長期間に渡る航海で新鮮な果物や野菜を摂取できなかったため、多くの船員が壊血病で命を落としていました。1747年にイギリスの海軍医ジェームズ・リンドが船員に柑橘類を食べさせることで、壊血病を予防できることを発見、それから約200年の年月を経て、1920年にイギリス人科学者ドラモンドが壊血病予防因子をビタミンCと提唱したのが始まりと言われています。
ビタミンCはヒトのカラダでは作られない物質
ビタミンCは、多くの動物では体内で作り出すことができます。しかし、ヒトの体内では合成できない物質です。そのため我々は必ず外部から継続的に摂取しなければなりません。ビタミンCが不足すると、イライラしやすくなる、疲れやすくなる、集中力がなくなる、肌が荒れるなど様々な症状が出現してきます(※1)。
ビタミンCはどうやって摂取するの?
ビタミンCは野菜や果物全般に含まれていますが、特にオレンジ・レモン・グレープフルーツなどの柑橘類や、ピーマン・ブロッコリー・キャベツなどの緑色野菜に多く含まれています。
ビタミンCは水溶性のビタミンで、食事からのビタミンC吸収率は約90%と高く、体内に吸収されやすい性質をもっています。仮に過剰に摂取しても余分なビタミンCは2~3時間後には尿から排泄されるため、通常過剰症の心配はありません。(※体質によって服用上の注意がありますので、服用の際は必ず医師にご相談下さい)(※2)。
また、近年、病院では点滴でビタミンCを補うことができるようになりました。点滴でのビタミンC摂取の利点として、直接体内に入るためにカラダから排泄される前に全身の細胞に広く分布できる点、有効成分が高濃度で体内に取り込まれる点が挙げられます。サプリメントで飲むのと比べて、血中濃度は約100倍にも及びます。
では次に、ビタミンC研究の最新の知見をご紹介しましょう。まずは細胞レベルで解明されてきたメカニズムと、期待される効果についてです。
ビタミンC、期待される7つの働き
(1)抗がん作用
ビタミンCを大量に投与すると、「アスコルビン酸ラジカル」という物質になり、酸化ストレスが発生します。正常細胞と比べ、がん細胞には数分の1しか酸化ストレスを分解する酵素がないため、その結果、がん細胞が阻害され、がん細胞死を引き起こします(*3)。最近この癌特異的障害作用のより詳しいメカニズムが権威ある雑誌「Science」(*4)や「Cancer Cell」 (*5)に掲載され、医学界で注目が集まっています。
(2)免疫増強効果
ビタミンCには細菌やウイルス排除効果のある「リンパ球」、免疫系および炎症の調節などの働きをする「インターフェロン」等を活性化し、免疫力を高める作用があります(*6)。
(3)美白効果
ビタミンCにはチロシナーゼという酵素の働きを阻害し、メラニン(シミ・そばかすの原因)の沈着を防ぐ作用があります(*7)(*8)。
(4)骨折・骨粗しょう症予防効果
ビタミンCには酸化ストレスを軽減することによる骨量減少作用に加え、破骨細胞(骨を壊す細胞)と骨芽細胞(骨を造る細胞)のバランス調整、コラーゲン合成、カルシウムの吸収を促進し、骨折予防作用があります(*9)。
(5)ストレス抑制効果・自律神経安定効果
ビタミンCは脳内ホルモンを調整します。これは、自律神経を調節する作用があります(*10)。
(6)アレルギー軽減効果
アレルギー発症には「ヒスタミン」という物質が関わっていることが知られています。ビタミンCには直接ヒスタミン分子構造を破壊することにより血中ヒスタミン濃度を減少させ、鼻炎や花粉症などに代表されるアレルギー症状を軽減する作用があります(*11)。
(7)薄毛改善効果
最近薄毛の原因は「17型コラーゲン」という物質が破壊され、毛包幹細胞が死滅してしまうからであると特定されました(*12)。ビタミンCを投与したマウスは17型コラーゲンが増幅し、毛包幹細胞が増殖することが確認されています(*13)。
これがビタミンC活用の最前線!
上記の研究結果はすでに予防医療を中心に、我々の生活に活用されています。以下に、実際のビタミンCの活用状況についてご紹介します。
(1)がん予防(抗がん作用)
日本のがんの死亡率が右肩上がりとなっているのに対して、アメリカでは1991年をピークにがんの死亡率は減少しています。一因として、アメリカ政府が予防医療の一環として大体的にビタミンCを多く含む野菜や果物の摂取を推奨したことが挙げられています(*14)(*15)。
また、アメリカのカンザス州立大医療センターの研究によると、ビタミンCを高濃度で体内に入れた患者の75%以上に癌縮小効果を認めたとの報告もあります。
(2)風邪の治療・予防(免疫増強効果)
風邪とビタミンCの研究は歴史が古く、1970年代ライナス・ポーリングによって初めて、ビタミンCが風邪の治療や予防に有用である可能性について報告がなされました(*16)。研究は今も続いており、最近では、大量のビタミンCを摂取することで、風邪による症状(発熱やせき)を短縮できるという報告が発表されました(*17)。
(3)美容・アンチエイジング(美白効果)
人間の皮膚は、紫外線の刺激を受けるとアミノ酸のひとつであるチロシンがメラニンという黒い色素に変わります。前述のようなメカニズムでビタミンCはメラニンの沈着(シミ・そばかす)を防ぎ、透明感ある肌を維持する効果が報告されています。
また、ビタミンCには、肌の張りを維持するコラーゲンの生成を促す作用があります。これにはシワを改善させる効果があり、抗酸化作用で活性酸素を分解することでニキビの炎症を抑える効果も報告されています。
(4)寝たきりを予防(骨折・骨粗しょう症予防効果)
1万人を対象にした大規模研究では、ビタミンC摂取量が少ないグループに比べて、多いグループでは股関節骨折リスクが27%と低いことが分かりました。これは、ビタミンCを1日50mg多く摂取すると、股関節骨折リスクが5%も低下する計算となります(*18)。
(5)イライラやカラダの不調を改善(ストレス抑制効果・自律神経安定効果)
ビタミンC摂取による自律神経調整作用(ストレス軽減作用含めて)が多数報告されています。また、最近になってビタミンCがうつ病予防にも有効であるといった論文が報告されました(*19)。
(6)アレルギーを改善(アレルギー軽減効果)
ビタミンCの持つ抗ヒスタミン作用により、アレルギー疾患改善効果が期待されています。ビタミンC摂取により、5000人近くにのぼる子供のアレルギー性鼻炎が改善したという報告がなされています(*20)。
(7)薄毛や抜け毛を改善(薄毛改善効果)
人間の頭皮でも年齢とともに17型コラーゲン量が減少していることが知られており、ビタミンC投与による効果が期待されています(*12)。
以上、ビタミンCの最新知見を、細胞メカニズムとその臨床活用の観点から解説しました。このように、ビタミンCはアンチエイジングや美容以外にも、病気予防や老化に伴う変化の予防など、様々な医学的効果が報告されており、再び注目が集まっています。
一方で、日本人のビタミンC平均摂取量は推奨値に到達していません。心当たりのある人は、まず、食生活を改善する・サプリメントで補うなどして、必要摂取量の摂取を目指しましょう。
また、上記のようなビタミンC効果を最大限に引き出すための摂取量は不足栄養素補給を目的とする用法・用量とは異なることがあります。これらの効果を期待する場合は、経験を有する医師への相談をお勧めします。
【参考文献】
(*1)Nutr Clin Care 2002;5:66-74
(*2)THE NATIONAL ACADEMIES PRESS 2000
(*3)Proc Natl Acad Sci USA 2008;105(32):11105-11109
(*4)Science 2015;350:1391-1396
(*5)Cancer Cell 2017;31(4):487-500
(*6)Immune Network 2013;13(2):70-74
(*7)Arch Pharm Res 2011;34(5):811-820
(*8)J Periodontol 2009;80(2):317-323
(*9)Nutritional influences on Bone Health :87-98
(*10)Free Radical Biology and Medicine 2009;46(6):719-730
(*11)Subcell Biochem 1996;25:189-213
(*12)Science 2016;351:559-613
(*13)2017年抗加齢医学会総会
(*14)J Nutr 2007;137:2171-2184
(*15)Dietary Guidelines for Americans
(*16)Proc Natl Acad Sci USA 1971;68:2678-2681
(*17)Nutrients 2017;9(4):339
(*18)Osteoporosis International 2018;29(1):79-87
(*19)Nutrition Journal 2013;12:31
(*20)Allergy Asthma Immunol Res 2013;5:81-87
文/緒方文大(おがたふみひろ)
虎の門中村康宏クリニック副院長。京都府立医科大学卒業後、虎の門病院にてがんや慢性炎症性疾患を多く取り扱う消化器内科医に。同時に、がん予防や遺伝子、酸化ストレスなどの研究にも従事。その過程で病院に来る前の根本的な「健康防衛・健康増進」の重要性を痛感し、アメリカの「ライフスタイル医学」を修学。これまでの経験と研究実績を生かし、「細胞レベルからの病気予防」という観点から予防医療の実践・普及に取り組む。