「青春18きっぷ」だけを使って行ける日本縦断の大旅行を企てた、58歳の鉄道カメラマン川井聡さん。南九州の枕崎駅から、北海道の最北端・稚内駅まで、列車を乗り継いで行く日本縦断3233.6kmの9泊10日の旅が始まった。
6日目は只見駅を出発、鶴岡を目指す。
《6日目》只見 7:10 ~ 会津川口 8:00
朝6時。カーテンを開けたら、すぐ目の下は只見駅。始発「列車」の姿はまだ見えない。
「始発に乗るんでしょ。朝ご飯できてますよ」というありがたい声で食堂に向かう。昨日もそうだが、米がうまい。
「ご飯美味しいね」
「そりゃそうだよ、魚沼だって近いんだから。」と、昨夜の同宿者から合いの手みたいに声がかかる。おお!言われてみればたしかにその通り。
ふっくらしたほっぺたを動かしながらそう言われると、心の底から納得する。ともかく只見のごはんはうまいのだ。
おもわず「おかわり」を頼んでしまう。でも頼むのに「半分だけね」とお願いしたのは我ながら感心した。こんな早朝から満腹に食べたら、絶対に心地よく寝てしまうからね
宿が駅前になるのはありがたい。重い荷物を背負ってもすぐに駅に到着できる。幸せな胃袋と、不幸な重い荷物を担いで駅前へ。
ただし今日の始発「列車」は線路の上を走らない。只見駅から会津川口駅までは、列車代行バスで行くのだ。
2011年夏の豪雨で、只見線はダムの放流に巻き込まれ、3つの橋が流失した。福島県では311地震に次ぐ大災害だ。当然、国からの支援が出て復旧するものと思われたが、6年以上たった2017年現在でもレールは途切れ、代行バスのままとなっている。
代行バスは運賃や時刻なども列車と同じ扱いなので、青春18きっぷが利用できる。会津川口まで約30キロ。ほかの山間部のバス路線なら1000円以上はかかるところだろう。鉄道の安さと同時に、鉄道が背負う責任の大きささえ感じる。
バスとはいえ、列車代行なので、時間は鉄道並みの正確さが求められている。小出駅を発車してから、各駅の到着時刻は驚くほど正確。「渋滞の心配はないけど、工事の信号規制が重なると気をもみますよ」ぎりぎりに来る学生も待ってあげなきゃいけないだろうから結構大変だ。
一駅停車するごとに定時との差を記入する。幸い今日は時刻通りの走行だ。
会津塩沢~会津蒲生の第8只見川橋梁。橋は残ったが、線路を支える盛土が崩壊した。
本名ダムは天端部分が国道となっている。そこから眺めた第6只見川橋梁跡。本来ならこのすぐ隣に巨大なアンダートラスが罹っていたのだが、見る影も無く流されてしまった。
途中いくつもの地点で、水害にあった線路が見える。いくつもの鉄橋が消え、残った鉄橋の柵も不自然に歪んでいる。あとで聞いたところによると、ゆがんでいるのは水害ではなく、雪のせいだという。線路に除雪車が走らないため、あたりに積もった雪が設備を壊してしまうのだそうだ。あらためて豪雪地帯を実感する。
会津川口に近づくにつれ学生の上客が増加。会津川口駅手前に作られた高校前のバス停で下車していった。彼らにとっては、列車よりバスのほうが歩く距離が短いぶん楽かもしれない。