取材・文/藤田麻希
長く継いだ紙や絹に描かれた絵画を、鑑賞者が自由に広げ、巻きとりながら、楽しむ「絵巻物」は、平安時代の中期から鎌倉時代にかけてとくに盛んに作られました。
平安時代には、経典の内容を絵解きした絵巻や、「源氏物語絵巻」に代表される物語絵巻、そして「伴大納言絵巻」のような説話絵巻が多く描かれました。やがて鎌倉時代に入ると武士の台頭とともに「平治物語絵巻」などの合戦絵巻が登場。「春日権現験記絵」などの社寺縁起絵巻や「一遍聖絵」など高僧伝絵巻など、宗教的なテーマも盛んになりました。
絵巻は少しずつ広げて見ていくことができるため、時間の変化を表現することに優れ、一度に全容を把握できてしまう屏風や障子などと比べて、物語を描くのに適しています。中国にも「画巻」と呼ばれる巻物はありますが、全体を広げて描かれた風景をパノラマの画面として鑑賞する方法がとられることが多く、物語を表した絵巻は日本で独自に発展を遂げたといえます。
そして絵巻の鑑賞を好み、蒐集し、ときには発注や制作まで手がけた熱烈な絵巻愛好家(=絵巻マニア)たちも現れました。そんな歴代の絵巻マニアごとに章立てして絵巻の変遷を見せてくれるユニークな絵巻展『絵巻マニア列伝』が、東京・六本木のサントリー美術館で開催されています(~2017年5月14日まで)。
たとえば、後白河院は絵巻を語るうえでは欠かすことのできない絵巻マニアです。蓮華王院(本堂は三十三間堂)の宝蔵に、現在国宝に指定されている「伴大納言絵巻」や「信貴山縁起絵巻」、展覧会に出品されている「病草紙」など、多くの絵巻を秘蔵しており、それらは同時代だけでなく、後世の絵巻マニアにとっても憧れの存在でした。
また花園院は幼い頃から蓮華王院の宝蔵絵を見られる環境にあり、絵巻好きであることを自らの日記でも告白しています。彼の周辺で絵画制作に携わった宮廷絵師の長である高階隆兼は、その後のやまと絵スタイルの規範を作りだしました。
ほかにも、公家の三条西実隆、武家の足利将軍家なども絵巻マニアでした。
サントリー美術館学芸員の上野友愛さんは、企画の意図を次のように説明します。
「絵巻は、屏風や掛け軸と比べて、美術館博物館での展示方法が最も本来の鑑賞方法とかけ離れているジャンルだといえます。床の間には掛け軸をかけ、結婚式には金屏風が活躍する現代において、これらの絵画は一定の馴染みがありますが、絵巻は実感として愛着がわきにくいものです。
だからこそ現代人に感じにくい絵巻愛を喚起すべく、絵巻マニアとも呼ぶべき熱烈な絵巻愛好家に注目した展示を企画しました。日記など絵巻の鑑賞記録などをたどりながら昔の人々にとって絵巻とはどのような存在だったのか、どのように制作、鑑賞されていたのか、絵巻享受の実態に迫っていただけます」。
いままでありそうでなかった、“絵巻マニア”に着目した展覧会。ぜひこの機会に足をお運びください。
【今日の展覧会】
『六本木開館10周年記念展 絵巻マニア列伝』
■会期/開催中~5月14日(日)
■会場/サントリー美術館
■住所/東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階
■電話番号/03・3479・8600
■開館時間/10:00 ~ 18:00(金・土は10:00~20:00)
※5月2日(火)~4日(木・祝)は20時まで開館
※いずれも入館は閉館の30分前まで
■休館日/毎週火曜日 ※5月2日は20時まで開館
■展覧会公式サイト/http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2017_2/
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取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』